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剣の少年と愉快な世界

ジャンル: ハイ・ファンタジー 作者: 天涅ヒカル
目次

剣の少年と愉快な山の住人たち(前編)④

 ハンクは深くため息をついた。
「確かに悪いんだよな~」
「どうして、弱くなっているんだ?」
「分からないんだよ。これが、コア自体に何か影響あったかな~」
 ハンクはシステムの心臓部に当たる『コア』に原因があると考えているが、それでも、把握しきれていなかった。
「分からないって……」
「それで、調査を依頼しようと思ってな。お主かジェイに。まあ、お主が丁度ここにいるからな~」
「なんで、オレが、あんたの術だし、あんたの作った物なんだから、あんたが行けよ!」
 師匠の頼みであっても、ここは引き下がることが出来なかった。
 特に理由はないが、こんな事件に出来ることなら巻き込まれたくないのだ。
 なにより、絶対面倒になる。
「だってさ、面倒だからさ~」
 理由がザグルと同じであった。
「面倒で済ませるなよ。あんたなん歳だ!」
 自身の気持ちを棚に上げて声を上げる。
「五十四歳」
 容姿と行動だけでは実年齢の判断が難しいのは確かであった。
「大人になれよ!」
 同じことを思っていたザグルも十分子供だ。
「お主だけには言われたくない! だいたい、こっちは年寄りだ、年寄りをもっと労わらんかい」
 ハンクが言い返す。
「だったら、もう少し、年寄りらしい行動を取れよ」
 こっちはこっちで言い合いが始まりそうになったが、すぐにハンクが止めた。
「まあ、確かに少しは見せるか、ライトを止めるよ。はい、いい加減止めなさい。飯が不味くなるから」
 風のように目の前から姿を消し、風のように現れた時には、喧嘩している二人の間を割っていた。
「まあ、なんだな~二人共大人になってここは話し合おうじゃないか」
(いつまでも子供っぽいあんたに言われたくないよ)
 言えば話がややこしくなるから今は決して言えない一言である。
「ですが、ライト様が……」
「ですから僕は帰りません」
 二人の話は平行線を辿り、いつまでも前に進む気配はなかった。
「まあ、二人共話を聞け。お嬢さんは……」
「ミーファと呼んで下さい」
 そう名乗る女の子。
 本名も生まれも過去の出来事も分からない。
 よくある話だが、子供の頃何だかの形、きっと魔物のせいだろう。
 記憶喪失だったのを、ライトの父親に拾われた。
 それで、メイドとして雇ってもらい、今に至っている。
「じゃあ、ミーファ。どうしてライトに戻って欲しいのだ?」
「それは、彼が……」
 続ける言葉は分かった。
 だから、ハンクは話しを途中で切った。
「それだけ?」
 ハンクの不思議な碧い眼がミーファの眼をじっと見る。
 ザグルが山にいた時からあった不思議な力を持った碧い眼だ。
 彼の前では嘘を付く事が全く出来ない。
 嘘を付く事事態に罪悪感が出るからだ。
 そんな眼なのだ。
「いえ、心配で……」
「本心はそっちだろ?」
「ええ……」
 ミーファは眼を逸らしたいのか、必死にキョロキョロと眼球が動いていた。
 だけど、最後には碧い瞳があるところに眼が行ってしまう。
 碧い眼から逃れることは出来ないのだ。
「だってよ。家出して純粋に心配している子もいるみたいだよ」
「ですが……」
 ライトも真剣に悩んだ。
「ですが、僕には夢があります。それを父さんが夢を潰そうとしているんです! 全部父さんが悪いんです!」
 いつになく、声を荒げていた。
 上流商人の家に生まれたライトは、子供の時から将来は父親の跡を継いで商人になるのが当たり前だと思っていた。
 しかし、ある時から夢を持ってしまった。
 それは一流の料理人になることだ。
 夢を持つことは誰も持つ物だ。
 だが、それをライトの父親は猛反対した。
 諦めきれない夢を負い掛けるために家を出たのだ。
 そんな彼の強い夢が『迷宮』攻略の条件になり、『迷宮』はハンクのもとへと導いた。
 事実、家出するには持ってこいの場所で、ハンクも興味がなく、事情を聞くことをしなかったので、今まで山にいられた。
「まあ、ライト、落ち着くんだ。そーだな……」
 ハンクは少し考え、話し始めた。
「いいことを考えた。ザグル、これからライトを連れて、『迷宮』へ行け」
「はあ! なんでオレが? ってか、アルバーノと一緒に」
「まあ、いいじゃないか」
「いいこと一つもないんですけど!」
「ザグル、落ち着いて話しを聞け、いいか、ライトと一緒に迷宮へ入る、弱くなった原因を突き止める。もし、ライトの夢がたいしたこと無かったら、『迷宮』はライトを追い出す。お主はそれを見極めるのだ」
「見極めてどうするんですか?」
 ザグルの機嫌がどんどん悪くなっていった。
 あらぬ方向に話しが行くのが必至だったからだ。
「もし、たいしたことがなければ、ライトを破門させる。逆に認めたのなら、わしが、お主の家に直接行く。それでこれからを選んでみたらどうじゃ?」
「で、結局のところ、オレの利益は?」
「弟弟子の幸せ」
「いるか!」
 結局、ただ働きになりそうだ。
 だから、ハンクの仕事は受けないようにしている。
 例え師弟関係であっても、そこのところはしっかりしたかった。
 ただ、現実は上手くいかなかったが……。
「いいじゃないか。断る理由もないんだろ?」
「そりゃ、ねーけど……」
 隠居暮らしをしているため、勿論、収入なんてない。
 それを知っていたし、あれでも恩師だ。
 頼まれると押し負けてしまうのだ。
 それが、ザグルのいいところと言えばいいところである。
「分かったよ……」
「ありがとう。流石、我が、弟子!」
「ちょ、ちょっと待って下さい! 大人しく話しを聞いていれば、勝手に話しを進めて! ライト様を危険な目に合わせるつもりですか?」
 ミーファが反論する。
「そうだよ?」
 碧い瞳が本気を物語り、否定することなど考えていなかった。
「『迷宮』の心臓部は魔物がうじゃらうじゃらしているからな~下手したら死ぬかもな」
 軽く笑っていた。
 しかもゾンビが出てくるような言い方だった。
「そんな危険な場所に!」
「だから、ライトの兄弟子であるザグルを連れて行くのさ」
「オレはおまけかよ!」
「そうだよ?」
 ハンクの正直な部分は師弟関係でなくとも尊敬に値するが、ここまで本当のことを話すと殴りたくなる。
 しかし、殴れないのはやはり師匠として尊敬しているからだ。
「ちぇ……」
 結局、反論が出来ず、面白くない顔をした。
「で、ライトにミーファ。その話は飲むの? 飲まないの?」
「ですから、私は反対です。みすみす行かせるなんて……」
「僕は行きます! 行かせて下さい!」
 ミーファが最後まで言う前にライトの気合の入った言葉が、全てを覆った。
 そして、ハンクの方を真剣に見ていた。
「決まりだな。ミーファ。ライトの意志はテコでも動かないよ」
「で、でも……」
「姉ちゃん。反対しても無駄だと思うけど」
 行く事が決まったザグルは、いつまでも話しを聞いているのも嫌になった為に出てきた言葉だ。
「わ、分かりました……」
 仕方無しに承諾した。
「ありがとうございます」
「但し、無事に帰ってきて下さい」
「はい!」
 ライトの中で一番元気な返事をした。
「じゃあ、早速明日からな」
「はい!」
「へーい」
 いざ、行くことになったらやる気なんて出なかった。
 報酬も無いし、お守りになりそうだったし……。

 こうして、ザグルとライトは『迷宮』へと足を運ぶことになった。
 このクエストで一体何が起こるのか?
 それはまだ、分からないが、魔物による命の危機ではんさく違う、とんでもないことで命の危機に直面すると、ザグルだけは思っていた。
(明日は長くなりそうだな。あぁ~しんどい)
 再び大きくため息をついた。
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