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剣の少年と愉快な世界

ジャンル: ハイ・ファンタジー 作者: 天涅ヒカル
目次

剣の少年と愉快な商人たち③

 オアシスを出たのは、ほとんど、太陽が沈んだ時だった。
 すっかり、用事を忘れていたのだ。
「それで、私はね……」
 オアシスを出て、砂漠を歩いていた。
 なにを話したか?
 リタが周ってきた世界の話。
 ザグルが経験した世界の話。
 それが主だった。
 しかし、尽きることはなかった。
 別に彼女は話すことが嫌いな訳ではなかったのだ。
 そこは、どうやらリコと似ているようだ。
 馬車が止められている地点に着くと、そこでは簡易テントが設けられ、夕飯の支度も出来ていた。
「ごめんなさい。遅くなりました」
 ザグルが素直に謝っていた。
 それもリタの分まで……。
 言い出したのはザグル自身だから、責任を取るのは当たり前だと思っていたからだ。
「いいんだよ。水は明日の分だったしね。それより、リタが心を開いたようだね」
「まあ」
 ザグルは頬を掻いていた。
「ありがとうね」
「へ?」
 ザグルは驚く。
「だって、リタが楽しんでいたからね」
「別にオレはなにもやっていないけど……」
 リタが近くでザグルを見ていた。
「分かった。すぐ行くよ」
 急いで向った。
「若いって、いいわねぇ~。昔の私を思い出すよ」
 思い出に浸っていた。

 夕飯はバーベキューだった。
 肉の美味しそうな匂いに焼き具合。
 ザグルは見ているだけで、よだれが垂れそうだった。
「さあ、どんどん食べな」
「はい! ありがとうございます。いただきま~す」
 ザグルは肉を口にした。
「うん。美味しい」
「野菜も美味しいよ」
 リタが野菜を進めた。
「うん」
 口にいっぱい含んでいた。
 そして、お約束で喉を詰まらせた。
 顔が真っ青になっている。
「ううぅ……」
 唸り声を上げながら、水を飲んだ。
「大丈夫?」
 リタは無垢に笑いながら背中をさすった。
「ありがとう……」
 弱弱しかった。
「気を付けてね」
「う、うん……」
 ザグルはもう一杯水を飲んでいた。
「まだ、沢山あるし……」
「うん……」
 ザグルは新しい肉を食べた。
 リタはザグルと一緒に肉を食べていた。

 食べ終わった時には、満天の星空が地上を支配している時間となっていた。
 ザグルは後片付けを手伝っていた。
「本当にありがとうございます。こんなに美味しいご馳走を頂いて……」
「いいんだよ。それより、キャロへはなんの為に行くんだい?」
「会いたい人がいるんです」
「そうなんだ。無事に会えるといいわね」
 深くは追求しない主義みたいだ。
 別に聞かれれば話していたが……。
「はい。ありがとうございます」
「さあ、あとは私がやっとくから、ザグルくんはもう休んでいいわよ」
「分かりました」
 ザグルはリタの元に向った。
 リタはすでに眠っていて、どうやら遊び疲れたようだ。
 確認をするとザグルもすぐに用意された簡易の寝袋の中に入って目をつぶった。


 それから数時間後。
 ザグルはふと目を覚めた。
 もう、夜は更けている。
 そのため、みんな眠りについて、周りは静かである。
 もう一度横になったが、なかなか、眠りにつくことが出来なかった。
 仕方なく、剣を持ってテントを出て、オアシスへと向った。

 数多の星に、広大な宇宙。
 数多の人に、広大な大地……。
 星を見ていると、世界の中での自分はちっぽけだと感じてしまう。
 星も広い空から見ると一部の小さな光りにしか見えない。
 規模が違えど似ているとザグルは思っている。
 オアシスの湖の近くで仰向けになりながら、眺めていた。
 星を見るのは別に嫌いではなかった。
 考え事とか、感傷に浸るとか、柄でもないのでしないようにはしているが、たまには、立ち止まる。
 昔はしなかったのだけど、立ち止まる事も必要だと、師匠から教わったからだ。
 だから、少しは考える。それが星を見ている時だ。
(あの星名前なんだったけな~)
 一際輝いている星を見た。
 有名な名前だったと思ったが、そんなものとっくに忘れた。
 昔、学校で教わった気もするし、師匠からも聞いた気がするが、聞いた所でなんの自慢にもならないと、すぐ忘れてしまったのだ。
 今、なんとなく、星の名前が気になってしまったのだ。
 しかし、それも一瞬にしてその気持ちも消えた。
「ここにいた」
 上から星ではなくリタの顔が見えた。
「リタちゃん? 寝たんじゃないの?」
「うん。起きちゃった」
 外に出て、誰か起きていないかと探しに行ったら、ザグルがいないことが分かり、このオアシスへと向ったのだ。
「ちゃった。って、明日も早いんだからさ。それに魔物がいるかもしれないんだぜ。魔物は夜襲うからな」
 テントの周りには魔物除けの呪文が掛けられていて、上級魔物と魔物が大人数で襲ってこない限り、割りと安全なのだ。
「それだったら、お兄ちゃんも危なくない?」
「オレは鍛えられ方が違うんだ。それにオレはこれでも傭兵だ」
 ザグルは起き上がり座った。
 いつの間にか横に座っているリタと目線を合わせた。
「はは。そうだったね」
「そうだったって……」
「だって、興味ないから……」
「そうですね」
 旅の内容は楽しんで聞いていたが、戦闘シーンは話していて面白くなさそうな顔をしていたのだ。
(まあ、最近はそんなに戦ってなかったから、あまり話さなかったけど……)
 だから、ザグルの大きな剣にも興味がないようで、一度も剣のことについて聞かれなかった。
「それにしてもキレイな星だね。あの星の名前、ママに聞いたけど忘れちゃって、あれなんだったけ?」
 さっきザグルが見ていた星を指差した。
「あっ? 思い出せない?」
「お兄ちゃんも?」
「まあ」
 照れ笑いをした。
 リタもつられて笑った。
「でも、キレイだよね」
「そうだな」
「これで、戦いがなければ最高なのにな~」
「まあな」
「でも、魔物はなんで襲うんだろうね」
「分からないな。まあ、でも、分かったらここまで苦労しないと思うよ?」
 この大陸は戦いの歴史が主だった。
「そうだね」
 リタはもう一度星を眺めた。
 ザグルも又、見ている。
「……また、会えるよね?」
 いきなりの問いにザグルは少し驚いた。
「会えるさ。世界は小さいんだから」
 それは、ザグルの持論だったが、ザグルの中では、ほとんど証明され答えを出していた。
「そうだよね。ありがとう」
 それに悲しませたくなかったのも事実だ。
「別になにもしていないが、さて、もう、寝るかな」
 ザグルは剣を持って立ち上がった。
「うん」
 リタもザグルのあとをついていき、オアシスをあとにした。


 早朝……。
 ザグルは欠伸をしながら、動いている馬車に揺られていた。
 完全に睡眠不足だ。
 ヘタしたら眠ってしまう。
 しかし、そろそろ、目的地だった。
 見覚えのある山が見えたのだ。
 隣にいるリタは我慢しているが、徐々に涙目となっていた。
 ザグルと別れるのが嫌だったのだ。
 見ていてよく分かる。
「お兄ちゃん?」
「なに?」
「元気でね」
「オレが元気無いの想像出来るかい?」
「出来ないね」
 リタは少し微笑んだ。
 やっぱり、我慢していた。
「ザグルくん。そろそろだよ」
「はい」
 十分くらいすると、馬車が止まった。
 ザグルとリタ、リコは降りた。
 キャロの山の近くの街だった。
 ここから森を抜けてキャロへと向うのだ。
「ありがとうございました」
 ザグルは深々とお辞儀した。
「いいんだよ。それよりも気を付けるのだよ」
「はい」
「……じゃあね」
 リタは手を振った。
「ああ、バイバイ」
 ザグルも手を振った。
 リタは耐えられなくなり、とうとう泣き出した。
「じゃあ、オレは行きます」
 ザグルは歩き出した。
 二人の親子は見送っていたいつまでもいつまでも……。
 ザグルの姿が消えるまで……。

「リタ、いいお友達が出来てよかったね」
「……うん」
「昔ね。同じように砂漠で倒れていた人がいたの……」
「えっ?」
 リコはリタに思い出を語った。
 その思い出はリコの中では色褪せる事がなかった。
 リタの思い出もきっと何十年経っても褪せる事は無いだろう。
 リコが話したように……。
 ずっとずっと心の中に残っているだろう。
 それが思い出だから……。

 それは砂漠で起きた一つの思い出だった。
 人の思い出の数も星の数ほどある。
 生きた日数だけ、思い出があるのだから……。
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