剣の少年と愉快な商人たち②
それから数時間。
日は西に沈みかけた頃……。
この馬車での旅は割りと、平凡に終わりそうだった。
何もやる事の無いザグルは、横になりゆったりと旅を満喫している。
たまにリタがザグルに何か言いたそうになっていたけど、なにも話さなかったのだ。
しかし、ザグルに興味があるのか、じっと見つめている。
子供がリタしかいない為、ザグルと言う割りと、歳の近い少年に興味があるようだ。
ザグルもなん度か話しかけたけど、その度に逃げていた。
「ふう」
気にはなっていたが、なるべく気にしない事にした。
しかし、すぐに気になってしまうのがザグルだ。
「ねえ、いい加減、なにか話したら?」
優しく声を掛ける。
しかし、いきなり話し掛けられリタは怯えた。
「あのな~」
ザグルは今にも泣き出しそうなリタに近づき目を見て、頭を掻いた。
リタは目を逸らしている。
「まあ、いいんだけどね。でも、話したいこと話せないってストレスになると思うんだよね~」
ザグルも幾度となく経験してきたことだ。
言いたいことが言えない……。
大半は『口は災いの元』と言う諺に則って、言わないようにしているのだけど、災いとなってもいいから、本当のことを言いたい時だってある。
言って砂漠に放り出されたら苦労はないが……。
だけど、リタと言う少女を見ていると、ストレスになってもおかしくないと感じたのだ。
「うっ」
余計にビクビクした。
「はあ」
ため息が少しずつ深くなっていく。
「まあ、関係ないことか」
ザグル自分の元いた位置に戻り、横になった。
「あっ、お兄さん?」
リタが、なにか言いかけていた。
「なに?」
「あっ?」
言葉を詰まらせた。
「ふう」
(いつまでこんなことやらなくちゃならないんだ)
馬車は止まった。
「ザグルくん。今日はここまでにして夕飯の支度をしたいのだけど、手伝ってくれないかね~」
「ええ、構いませんよ」
ザグルは馬車から降りた。
ザグルは背中を伸ばし、屈伸運動して、固まった身体を解した。
「おばちゃん。なにすればいいんだい?」
「そうだね~とりあえず、その剣で野菜を切ってみてくれない?」
「マジですか?」
ザグルは目を大きく見開いた。
別に出来ないことはなかったが、あまりやりたくはなかった。
傭兵としてのプライドも去る事ながら、大きな剣を振り回すのは危なかった。
「ウソだよ」
リコは大きな声で笑った。
ザグルは見えないように苦笑いをしていた。
「近くにオアシスがあるから、水を汲んできてくれないかい? ついでにリタも連れて行ってくれないかい?」
リコが指を指すとすこだけ木々が立ち並んでいる所があった。
オアシスに停泊しなかったのは、魔物が寄り付き易く危ないからだ。
「はい、って、リタちゃんもですか?」
「ええ、リタにも気分転換が必要だからね」
「そうですか? 分かりました。リタちゃん。行こう?」
リタはゆっくりと頷いた。
ザグルはバケツと剣を持って、リタと一緒に歩き始めた。
駐留先から十分、西に歩いた所にオアシスは確かにあった。
歩いている時、太陽は赤々と染まって少し眩しかった。
木々が立ち並び、湖が真ん中にあるオアシス。
水は奥まで透き通っていて、そこに映る太陽がキレイだった。
リタはオアシスに着くと、座り足だけ水の中に入れた。
ザグルはバケツの中に水を入れ、リタに話しかけた。
「どう? 気持ちいい?」
「……うん」
大きく首を縦に振った。
「そうか、よかったな」
「うん」
静かだったけど、黒い目が輝いていた。
ザグルもつられて笑った。
「よし、オレも入るかな」
剣を置き、足だけ浸かり、そのまま、歩いた。
「確かに気持ちぃや」
乾いた皮膚に水が染み込む感じがした。
このまま、泳ぎたかったが、流石にリタの前では無理だと止めた。
しかし、不意をつかれ、リタに水を掛けられた。
「こら、やったな」
リタは笑い、ザグルも水を掛けた。
しばらく掛け合った。
「全く、リタちゃんは……」
「……お兄ちゃん。面白いね」
「そ、そうか? ってか、やっとまともに喋った」
純粋に驚いていた。
「だって……」
また、口を噤んだ。
「いいよ、喋ったって。寧ろその方がいいしな」
ザグルは湖から上がった。
「いいの?」
悲しい顔でザグルを見た。
今のも涙が出るほど溢れている。
「なんで、許可が必要なんだよ」
「だって、パパ以外の男の人と話した事ほとんど無くって、でも、パパともあまり無くって……でも、パパはいなくって……元々話すのも得意じゃないし……話し掛けていいのものかと……」
リタの父親はある日突然姿を消した。
まだ、リタが五歳くらいの時である。
未だ消息は分かっていない。
リコはそれでも、帰って来ると信じていた。
リタは……信じる事が出来なかった。
もう、姿すらおぼろげな父親なんて……。
考えるだけで悲しくなった。
そして話す相手がいなくなって、徐々に心を閉ざしたのもその為だ。
「そんなことか、だったら、これから慣れていきゃいいだろ? ここにいる間はオレが話し相手になるから」
「……・ありがとうございます」
満面の笑みを浮かべた。
ザグルはそれを見て少し安心した。
日は西に沈みかけた頃……。
この馬車での旅は割りと、平凡に終わりそうだった。
何もやる事の無いザグルは、横になりゆったりと旅を満喫している。
たまにリタがザグルに何か言いたそうになっていたけど、なにも話さなかったのだ。
しかし、ザグルに興味があるのか、じっと見つめている。
子供がリタしかいない為、ザグルと言う割りと、歳の近い少年に興味があるようだ。
ザグルもなん度か話しかけたけど、その度に逃げていた。
「ふう」
気にはなっていたが、なるべく気にしない事にした。
しかし、すぐに気になってしまうのがザグルだ。
「ねえ、いい加減、なにか話したら?」
優しく声を掛ける。
しかし、いきなり話し掛けられリタは怯えた。
「あのな~」
ザグルは今にも泣き出しそうなリタに近づき目を見て、頭を掻いた。
リタは目を逸らしている。
「まあ、いいんだけどね。でも、話したいこと話せないってストレスになると思うんだよね~」
ザグルも幾度となく経験してきたことだ。
言いたいことが言えない……。
大半は『口は災いの元』と言う諺に則って、言わないようにしているのだけど、災いとなってもいいから、本当のことを言いたい時だってある。
言って砂漠に放り出されたら苦労はないが……。
だけど、リタと言う少女を見ていると、ストレスになってもおかしくないと感じたのだ。
「うっ」
余計にビクビクした。
「はあ」
ため息が少しずつ深くなっていく。
「まあ、関係ないことか」
ザグル自分の元いた位置に戻り、横になった。
「あっ、お兄さん?」
リタが、なにか言いかけていた。
「なに?」
「あっ?」
言葉を詰まらせた。
「ふう」
(いつまでこんなことやらなくちゃならないんだ)
馬車は止まった。
「ザグルくん。今日はここまでにして夕飯の支度をしたいのだけど、手伝ってくれないかね~」
「ええ、構いませんよ」
ザグルは馬車から降りた。
ザグルは背中を伸ばし、屈伸運動して、固まった身体を解した。
「おばちゃん。なにすればいいんだい?」
「そうだね~とりあえず、その剣で野菜を切ってみてくれない?」
「マジですか?」
ザグルは目を大きく見開いた。
別に出来ないことはなかったが、あまりやりたくはなかった。
傭兵としてのプライドも去る事ながら、大きな剣を振り回すのは危なかった。
「ウソだよ」
リコは大きな声で笑った。
ザグルは見えないように苦笑いをしていた。
「近くにオアシスがあるから、水を汲んできてくれないかい? ついでにリタも連れて行ってくれないかい?」
リコが指を指すとすこだけ木々が立ち並んでいる所があった。
オアシスに停泊しなかったのは、魔物が寄り付き易く危ないからだ。
「はい、って、リタちゃんもですか?」
「ええ、リタにも気分転換が必要だからね」
「そうですか? 分かりました。リタちゃん。行こう?」
リタはゆっくりと頷いた。
ザグルはバケツと剣を持って、リタと一緒に歩き始めた。
駐留先から十分、西に歩いた所にオアシスは確かにあった。
歩いている時、太陽は赤々と染まって少し眩しかった。
木々が立ち並び、湖が真ん中にあるオアシス。
水は奥まで透き通っていて、そこに映る太陽がキレイだった。
リタはオアシスに着くと、座り足だけ水の中に入れた。
ザグルはバケツの中に水を入れ、リタに話しかけた。
「どう? 気持ちいい?」
「……うん」
大きく首を縦に振った。
「そうか、よかったな」
「うん」
静かだったけど、黒い目が輝いていた。
ザグルもつられて笑った。
「よし、オレも入るかな」
剣を置き、足だけ浸かり、そのまま、歩いた。
「確かに気持ちぃや」
乾いた皮膚に水が染み込む感じがした。
このまま、泳ぎたかったが、流石にリタの前では無理だと止めた。
しかし、不意をつかれ、リタに水を掛けられた。
「こら、やったな」
リタは笑い、ザグルも水を掛けた。
しばらく掛け合った。
「全く、リタちゃんは……」
「……お兄ちゃん。面白いね」
「そ、そうか? ってか、やっとまともに喋った」
純粋に驚いていた。
「だって……」
また、口を噤んだ。
「いいよ、喋ったって。寧ろその方がいいしな」
ザグルは湖から上がった。
「いいの?」
悲しい顔でザグルを見た。
今のも涙が出るほど溢れている。
「なんで、許可が必要なんだよ」
「だって、パパ以外の男の人と話した事ほとんど無くって、でも、パパともあまり無くって……でも、パパはいなくって……元々話すのも得意じゃないし……話し掛けていいのものかと……」
リタの父親はある日突然姿を消した。
まだ、リタが五歳くらいの時である。
未だ消息は分かっていない。
リコはそれでも、帰って来ると信じていた。
リタは……信じる事が出来なかった。
もう、姿すらおぼろげな父親なんて……。
考えるだけで悲しくなった。
そして話す相手がいなくなって、徐々に心を閉ざしたのもその為だ。
「そんなことか、だったら、これから慣れていきゃいいだろ? ここにいる間はオレが話し相手になるから」
「……・ありがとうございます」
満面の笑みを浮かべた。
ザグルはそれを見て少し安心した。
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