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剣の少年と愉快な世界

ジャンル: ハイ・ファンタジー 作者: 天涅ヒカル
目次

剣の少年と愉快な冒険者たち(後編)⑤

「ここでございます」
 ゴブリン達は大きな扉の前で立ち止まった。
「ここに宝があるのか~」
 ルミアが扉に手を当てた。
 重くて、頑丈で荘厳な冷たい鉄のつくりの扉だった。
「開けていいのか?」
「どうぞ、どうぞ」
 ゴブリン達は少しずつ後ろに下がってきた。
 青の背中がルーベの身体に当たる。
「何処へ行く気だ?」
 あまり話さない上に、身体が大きく顔が怖くて、いざ、声を出したら低い声だから、余計ゴブリン達はびっくりした。
「いっ、いえ、どこにも……」
「逃げるなよ!」
 ザグルが睨んだ。
「はっ、はい……」
 小さく一箇所に固まってビクビクしていた。
「なんだ? あっ! なにか隠しているな!」
「べっ、別に中にホブゴブリン様がいるなんて言えるわけ……。あっ!」
 赤がつい喋ってしまい、慌てて口を自分の手で塞いだ。
 だが、時はすでに遅かった。ルミアは扉を開けて中を見ていた。
「る。ルミア?」
 固まって動かなくなっていた。
「大丈夫か、ルミア?」
 ザグルも中を見て聞く。
 その中には、灰色の体毛、凶暴な顔だけど、ゴブリンと似ていたが、二回り大きかった。
 名前はホブゴブリン。
 魔物図鑑第三版によれば、ゴブリンが脱皮し進化した形態。
 体力、知力、時の運が上がり、ゴブリンには無かった魔力も備わってより、凶暴となった。
 そのホブゴブリンが二匹いて、毛で覆われた手には金棒を持っていた。
「ゴブリン、宝ってこれか?」
 ルミアの睨みと、冷たい口調がゴブリン達を直接刺した。
「勿論でございます。私たちゴブリンはなにより、上のゴブリン、ホブゴブリンが大切なんです。ええ、宝です」
 四匹が頷いた。
「ほう……。それで?」
 挙動不審に四匹がみんな目をキョロキョロして、ルミアや他のパーティから目を逸らしていた。
 恐らくだが、ホブゴブリンに倒して貰おう。
 そんな魂胆がゴブリン達にあったと思われる。
「おい! なんの用だ! 人間?」
 向かって右にいたホブゴブリンの低い声が部屋の中で響いた。
 迫力はあったが、ルミアには通用しなかった。
「別に、ただ、あんた達を倒しに来た。それだけ。ついでに宝と喋るゴブリンでも持って帰ろうと思ったけど、もう、どーでもよくなった」
 ルミアは自身が行おうとした計画を簡単に話していた。
 ゴブリン達は、ホブゴブリンの所へ慌てて走り左横で小さくなっていた。
 ルミアの殺気が辺り一面に、特に部屋の中に広がった。
 冷たい視線に口調……。
 よく喋るザグルやクラン達パーティが黙り、手や口を出さなかったのは、ルミアがホブゴブリンを見た時から切れていたからだ。
 切れると誰しも怖いが、ルミアは格段に怖かった。
「誰からあの世に逝きたい?」
 両手には電気が流れている光りの玉を持っている。
「ザグル君、逃げるよ?」
「うん!」
 激しく頷いた。
 もう、ゴブリンを切ろうなんて思っていない。
 切った瞬間にルミアに殺されることが目に見えていたからだ。
 人が切れると言うのはそう言うモノだ。
 特にルミアは冷静になると、たまに後悔するが、気が済むまで暴れてしまう。
 そうなってくると、他の人が止めるのは不可能だった。
「今日は~、この遺跡が~、少なくとも~、潰れるわね~」
 ロベリーが冷静に分析する。
「いや、森にも被害がでるんじゃない?」
 クランは笑っている。
 ザグル以外はこの状況を楽しんでいるのだ。
 ルーベは顔には出していないが、なんとなくそんな感じがしたのだ。
「冷静に分析するな!」
「それも~、そ~ですね~」
「逃げましょう」
 四人はルミアを置いて走り去った。
「でっ、どちらかにする?」
 逃げた仲間を一応見送ったが、興味の対象とはならず無視をした。
「ってか、仲間に見捨てられたぞ。いいのか!」
 左側のホブゴブリンだ。
 仲間が逃げても顔色ひとつ変えないルミアに、ホブゴブリン達が逆に動揺していた。
「別に、仲間だから逃げたんだよ。人の心配よりも自分の心配したら、魔物なんだし」
 雷の玉が少しずつ大きくなっていった。
「バカにしやがって、たかが人間一人に負けるはずはない!」
「こいよ」
 二匹同時にルミアの所へと向かった。
 ルミアは微かに笑った。


 遺跡の外で非難しているザグル達は……。
「戦っているわね」
 クランが手をつないでいるザグルに話しかけた。
 脱力仕切っている為、手を離す事はしなかった。
「うん……」
 外から見ていても分かる戦いをしていた。
 青い空には似合わない黒い雲が遺跡の上にあった。
 遺跡の下に雷鳴轟き、元々原型が危ぶまれているのに爆発と共に更に悪化、手の施しが出来なくなっていた。
「今日は特別に怒っているね」
 暴れることと怒りの度合いは比例するのだ。
「うん……」
 二人の会話の傍らでロベリーは山菜に心奪われ、ルーベは食事の支度をしていた。
 クラン曰く、切れた時はいつもなのだ。
 切れたら魔物も簡単に倒せる程に強い、最強の盗賊なのがルミアである。
 客観的にザグルが見て、師匠を超えるかも知れない魔力があると思っている。
 ただ、ルミア本人は勇者に興味がないのかやらないし、負けず嫌いの師匠は、ルミアが強いことを認めていない。
 だから、才能が埋もれているのだった。
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