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剣の少年と愉快な世界

ジャンル: ハイ・ファンタジー 作者: 天涅ヒカル
目次

剣の少年と愉快な冒険者たち(後編)①

 次の日。
 ザグルたちはクエストの為、ジャガの街を出て、すぐにある広葉樹の生い茂る『プル』の森を渡り、目指す遺跡へと向った。
 昨晩、どこかへ行ったルミアも、出発する前にはなにごともなく合流しており、一体どこにいたのやらと、ザグルは不思議に思っていた。
 しかし、他のメンバーはいつもの事のように軽く流し、誰も突っ込みを入れる事はしなかった。
 聞いちゃいけないと思ったし、なんか面倒だったのでザグルもあえてしなかった。

 日が昇って、すぐに街を出た。
 この日の天気は白い雲が所々に浮かんではいたが、雨の心配がない晴れ。
 その為、順調に森を抜ける事が出来たので『タキ』と呼ばれる、目的地の遺跡へは昼前には着いた。
「ここが遺跡だ」
 ルミアが地図を広げた。
 このパーティのマッパー的役割は盗賊のルミアがやっていた。
 他の四人は遺跡を見ている。
 昔、大きな戦争があり、その被害で壊れた建築物である。
 その後、遺跡の調査があり、瓦礫となっていた建物に穴を掘ったのだ。
 と、昨日、ルミアから聞いたが、ザグルにはなんの興味も沸かなかった。
 座学の勉強はそこそこ出来たとザグルは自負していたけど、興味の有無は関係無いのだ。
「よし、中に入るが順番を発表したいと思う」
 ルミアが仕切っている。
 一応これでも、このパーティのリーダーなのだ。
「一番は罠とかを瞬時に察知する事が出来る盗賊の俺。以下、クラン、ザグル、ロベリー、ルーベの順番で行く」
 陣列の決め方は、バランス重視だった。
 魔物がいきなり現れても、すぐに対応の出来るように設定したのだ。
「はい! 質問があります」
 ザグルが手をピンと挙げた。
「なんだ? ザグル」
「なんでオレが真ん中なんですか?」
「ああ、簡単だ。お前がむのぉ、あっ! 痛っ!」
 ザグルは素早く小石を二つ同時に投げ、ルミアの顔に直撃させた。
「だから、無能って言うなよ!」
「ああ、ゴメン。魔法が使えないからだ。前も後ろも危険だからな~魔法が使えないお前は、不意打ちにあった際、圧倒的に不利なんだ。だから、真ん中にしたわけ。納得した?」
「……ちぇ」
 その通りだったので舌打ちをして、嫌々言うことを聞く事にした。
「じゃあ、頑張ろう。ザグルくん。もし、なにかあったら助けてあげるからね」
 クランが励ます。
「はい、ありがとうございます」
(やっぱオレ、雇われた意味あるのか?)
 パーティに必要ないようだから、いてもしょうがない。
 だから、今すぐ帰りたかったが、クランが手を握っていた為、逃げる事が出来ず、ずるずると、遺跡の中に入ってしまった。

「炎よ」
 遺跡の中が真っ暗だった。
 その為、ルーベが炎を出し、小型ランプに火を灯した。
 ランプを二つ灯してやっと足元が見える位だった。
(しかし、無駄な体系だな)
 ルーベの職業は一応魔法使いだが、巨漢の体系と職業が合っていないように、ザグルは思えてならないのだ。
 勿論、親しくないので、何故魔法使いになったのか、ザグルは聞いていないし、聞けなかった。
(破壊僧とかの方がよくない?)
 魔法遣いより、こっちの方がいいとザグルは勝手に思った。
「気をつけてね~。ザグルく~ん」
 ロベリーはクエスト慣れしていないザグルを、これでも心配しているのだ。
「うっ、うん」
 曖昧に頷いた。
(ってか、なにか間違ってるぞ)
 前でクランが手を握り、後ろでロベリーに声をかけられ、本当に雇われている立場なのかと、思うのだ。
「ザグル、モテモテだな」
 先頭のルミアがからかう。
「うるさい!」
「はっはっはっ」
 緊張感の欠片もない笑いだった。
(あいつ……、覚えていろよ!)
 そっとポケットの中に小石を入れ始めた。
 いつでも投げられる体制をとっているのだ。
 彼なりの遠距離攻撃の準備だ。
 魔法が使えないザグルにとって、遠距離攻撃は苦手より他になかった。
 だから、対抗策として小石を武器として普段から扱っているのだけど、その効果はあまりなかった。

 しばらく進むと向かって左側に扉が傾いている部屋があった。
「ここに宝があるかな?」
 ルミアが目を輝かせる。
「あるわけねーだろう!」
 ルミアの言葉にザグルが全否定した。
(そんな簡単に宝なんか手に入ってたまるか!)
 そんなんで手に入ったら、苦労は誰もしない。
「バカだな。もしかしたら、間抜けな魔物が落としたかもしれないだろ」
 希望を捨てなかった。
「はい、はい。勝手にしてくれ」
 ザグルは呆れて、適当に返事をした。
「じゃあ、開けるぞ」
 とりあえず、ない事は一目瞭然だったが、念のため罠があるか確認した。
 それから、そっと扉を開けた。
 扉自体脆く、すぐにでも壊れてしまう鈍い音がした。
 部屋の中は、積もりに積もった埃と、蜘蛛の巣で埋め尽くされ、人はおろか、魔物すら入った痕跡は無かった。
 しかも、瓦礫の山が部屋のあちこちにあり、とても奥まで入れる状況では無かった。
「やっぱ宝なんかないじゃん!」
「そうだな~」
 ルミアは頭を掻いていた。
 そして、数歩前に進み、足場の悪さと、宝の有無をちゃんと確認すると、部屋を後にした。
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