剣の少年と愉快な冒険者たち(前編)③
と、喜んだのは、街外れの宿屋に着くまでだった。
「おい、どうして、オレがこんな奴と同じ部屋なんだ?」
木の造りでまだ、少し新しく、でもちゃんと掃除が行き届いている宿。
部屋の中にはベッドが二台と、テーブルとイス二脚だけで、いたってシンプルだった。
ザグルが泊まる、ボロボロで安い馬小屋のような宿よりかは高いと思った。
「こんな奴は酷いでしょう? お姉さんじゃ不満?」
宿は文句なしに良かった。
ただ、問題は一緒の部屋にいる人だった。
「不満とか、そんな問題ではなく……」
ストレートな金髪にスリムな身体。
『魅力的で美人』とか、『奇麗なお姉さん』と呼ぶに相応しい大人の女性が、ザグルに抱き着いていた。
名前はクラン。
一応、このパーティでは戦士(アマゾネス)、魔法剣士をやっている。
部屋には彼女の武器、レイピアと軽そうな鎧があった。
体力よりもスピードで勝負する。
腕前もなかなかの物で、パーティでも頼りになるメンバーだった。
「おい、ルミア、一体どう言う事だよ!」
抱きつかれて、離れようとしても離れられなかった。
クランはザグルが可愛くってしょうがないのだ。
そして、その愛情は久しぶりに会い、一気に爆発して、間違った方向へと行っていた。
ザグルがなかなか承諾しなかったのは、彼女のこれも一つの原因としてあった。
「いや~、どこも部屋がいっぱいでよ~」
扉の近くで少し笑みを浮かべているルミアが話した。
彼の言葉はあながち嘘ではない。
なんせ、色々な国の人間が集まる国なのだから。
「だったら、あんたが、ここに入ればいいだろう?」
「オレは遠慮するよ」
別にクランが嫌いと言う分けでは無い。
「なんで?」
「俺は別の宿だから」
「だったら、そこをオレの場所にしろよ!」
「そんなに私が嫌?」
涙目で訴えられた。
その目も魅力的だった。
もしも、熱狂的なクランのファンがいたのなら、クランを泣かしたって事でどんな理由があっても、ザグルが咎められるだろう。
「だから……」
本気で泣かれると困るから本当の事も言えない。
「うん、無理」
それでも、ルミアは話しを聞いていた。
「なんで?」
「俺は盗賊の頭だけど、お前は違うだろ? そう言う理由だ。それじゃ、ごゆっくり」
ルミアは部屋を出た。
「頭か……。そうか、って、どういう意味だよ!」
納得なんか行くはずなかった。
追いかけようにも、クランから逃れる事が出来ず、諦める他なかった。
「久しぶりに会ったけど、少し伸びたよね~? うん、また、一段と大人っぽくなった」
最後に会ったのは、半年前だった。
「あっ、あのさー、本当にオレはここにいて平気なのか?」
「平気よ。それとも私が何かするとでも?」
「いやー、あのー、だからさー」
「照れているの? 可愛い~やっぱり相部屋にしてもらって良かった」
「して良かったって?」
目をパチパチした。
「あのね。ルミアに頼んだの、ザグル君が来たら二人部屋にしてって」
ルミアが一人で仕向けた訳ではなかったようだ。
「頼むなよ!」
「だって、可愛いんだもん」
「意味分らないから、ってか、オレ、他の部屋行く、隣いるだろう?」
「まあ、いるけど……」
「部屋が空いているか見てくる」
クランからの呪縛を逃れ、扉に手をあてた。
「帰ってくる?」
「……そのうちに」
荷物を置いて行くのだ。遅くとも明日の朝には帰ってくるだろう。
「じゃあ、寝ないで待ってるね」
「普通に寝ていいから」
いつ、帰ってくるのか分らないし、明日は冒険するのに、それは自殺行為だろう。と、ザグルは思った。
剣よりも重い荷物を持ったような、ため息をつきながら部屋を出た。
ザグルのいた部屋の両隣に旅の仲間がいると、ルミアは言っていた。
まずは、右の部屋の扉をノックした。
「……誰だ?」
低い声がひとつ聞こえた。
「ザグルです」
扉が開いた。
「……そうか、で、なんのようだ?」
姿を現したのは恰幅のいいザグルより二回りは大きく、年齢も一回りは上の男だった。
名前はルーベ。
一応、魔法使いである。
「あのー、部屋に入れていただけませんか?」
こう言うタイプと話す時、なぜか敬語になってしまう。
あまり、得意ではないのだ。
「……なんだ。入れ」
ザグルを中に入れた。
部屋の中にある彼の物はザグルの背中には大き過ぎるリュックと、木製で出来たお手製のロッドがあるだけだった。
部屋の中にベッドは二台あり、クランの部屋と変わらなかった。
「よし、ここなら一日過ごせそうだ。お邪魔します」
ザグルが部屋に入った。
ルーベは話しかける事をせず、ベッドに座った。
そして、目を瞑り無心となった。
精神を統一しているのだ。
ルーベは暇になるとすぐやるのだ。
ザグルはそんなルーベを無視して、なん日ぶりかのフワフワのベッドに横になった。
さっきの部屋とはまるで違い、沈黙だけが辺りを包んでいた。
しばらくは横になっていたが、別に今は眠い分けではなく、横になる事に飽きたので、今度は部屋の右端にある木のイスに座り、コキコキと上下に揺らした。
音は鳴っていたが、それ以上何も無かった。
もともと無口なルーベは話しかける事もせず、ザグルも話しかけようとしたが、何故か喉の所でなにかが突っかかり、話す事が出来なかった。
そのうち、イスを鳴らす事がバカらしくなり、立ち上がって体操した。
でも、すぐに飽きたため、丸テーブルの上に乗せてあるルーベのとても難しい本のページをめくった。
これも長くは続かなく、窓を開けて夜空を見た。
それも時間を潰す事は出来なかった。
だから、部屋の中で出来そうな事を色々した。
だが、どれも持たなかった。
元々、落ち着きがなく、やんちゃな坊主なザグルが部屋の中でじっとするのは無理な話なのだ。
外に出ようにも夜は遅く、ルミアに外出禁止令を出されている為、出来なかった。
破るのは簡単に出来たが、お金に関わる問題だし、極力は避けたい。
これでも雇われている立場。依頼人がどんな人であれ、怒らせる訳にはいかないのだ。
「あのー、ルーベさん?」
「……なんだ?」
「なにか、お話しましょう?」
耐えかねてやっとの思いで出た言葉だった。
「……特に無い」
「あるだろうが! 今までどうだった? とか、元気にしていたか? とか!」
あまりにザグルに興味を向けなかったから、気をこっちに向ける為、足を床に叩きつけていた。
「……そんな必要ない?」
「なんで?」
「観ていれば察しがつくからだ」
「……そんな、オレって分かり易いか?」
「分かりやすい」
その言葉を最後に再び沈黙となった。
「……この部屋嫌だ」
沈黙と退屈には勝てず、部屋を出た。
「おい、どうして、オレがこんな奴と同じ部屋なんだ?」
木の造りでまだ、少し新しく、でもちゃんと掃除が行き届いている宿。
部屋の中にはベッドが二台と、テーブルとイス二脚だけで、いたってシンプルだった。
ザグルが泊まる、ボロボロで安い馬小屋のような宿よりかは高いと思った。
「こんな奴は酷いでしょう? お姉さんじゃ不満?」
宿は文句なしに良かった。
ただ、問題は一緒の部屋にいる人だった。
「不満とか、そんな問題ではなく……」
ストレートな金髪にスリムな身体。
『魅力的で美人』とか、『奇麗なお姉さん』と呼ぶに相応しい大人の女性が、ザグルに抱き着いていた。
名前はクラン。
一応、このパーティでは戦士(アマゾネス)、魔法剣士をやっている。
部屋には彼女の武器、レイピアと軽そうな鎧があった。
体力よりもスピードで勝負する。
腕前もなかなかの物で、パーティでも頼りになるメンバーだった。
「おい、ルミア、一体どう言う事だよ!」
抱きつかれて、離れようとしても離れられなかった。
クランはザグルが可愛くってしょうがないのだ。
そして、その愛情は久しぶりに会い、一気に爆発して、間違った方向へと行っていた。
ザグルがなかなか承諾しなかったのは、彼女のこれも一つの原因としてあった。
「いや~、どこも部屋がいっぱいでよ~」
扉の近くで少し笑みを浮かべているルミアが話した。
彼の言葉はあながち嘘ではない。
なんせ、色々な国の人間が集まる国なのだから。
「だったら、あんたが、ここに入ればいいだろう?」
「オレは遠慮するよ」
別にクランが嫌いと言う分けでは無い。
「なんで?」
「俺は別の宿だから」
「だったら、そこをオレの場所にしろよ!」
「そんなに私が嫌?」
涙目で訴えられた。
その目も魅力的だった。
もしも、熱狂的なクランのファンがいたのなら、クランを泣かしたって事でどんな理由があっても、ザグルが咎められるだろう。
「だから……」
本気で泣かれると困るから本当の事も言えない。
「うん、無理」
それでも、ルミアは話しを聞いていた。
「なんで?」
「俺は盗賊の頭だけど、お前は違うだろ? そう言う理由だ。それじゃ、ごゆっくり」
ルミアは部屋を出た。
「頭か……。そうか、って、どういう意味だよ!」
納得なんか行くはずなかった。
追いかけようにも、クランから逃れる事が出来ず、諦める他なかった。
「久しぶりに会ったけど、少し伸びたよね~? うん、また、一段と大人っぽくなった」
最後に会ったのは、半年前だった。
「あっ、あのさー、本当にオレはここにいて平気なのか?」
「平気よ。それとも私が何かするとでも?」
「いやー、あのー、だからさー」
「照れているの? 可愛い~やっぱり相部屋にしてもらって良かった」
「して良かったって?」
目をパチパチした。
「あのね。ルミアに頼んだの、ザグル君が来たら二人部屋にしてって」
ルミアが一人で仕向けた訳ではなかったようだ。
「頼むなよ!」
「だって、可愛いんだもん」
「意味分らないから、ってか、オレ、他の部屋行く、隣いるだろう?」
「まあ、いるけど……」
「部屋が空いているか見てくる」
クランからの呪縛を逃れ、扉に手をあてた。
「帰ってくる?」
「……そのうちに」
荷物を置いて行くのだ。遅くとも明日の朝には帰ってくるだろう。
「じゃあ、寝ないで待ってるね」
「普通に寝ていいから」
いつ、帰ってくるのか分らないし、明日は冒険するのに、それは自殺行為だろう。と、ザグルは思った。
剣よりも重い荷物を持ったような、ため息をつきながら部屋を出た。
ザグルのいた部屋の両隣に旅の仲間がいると、ルミアは言っていた。
まずは、右の部屋の扉をノックした。
「……誰だ?」
低い声がひとつ聞こえた。
「ザグルです」
扉が開いた。
「……そうか、で、なんのようだ?」
姿を現したのは恰幅のいいザグルより二回りは大きく、年齢も一回りは上の男だった。
名前はルーベ。
一応、魔法使いである。
「あのー、部屋に入れていただけませんか?」
こう言うタイプと話す時、なぜか敬語になってしまう。
あまり、得意ではないのだ。
「……なんだ。入れ」
ザグルを中に入れた。
部屋の中にある彼の物はザグルの背中には大き過ぎるリュックと、木製で出来たお手製のロッドがあるだけだった。
部屋の中にベッドは二台あり、クランの部屋と変わらなかった。
「よし、ここなら一日過ごせそうだ。お邪魔します」
ザグルが部屋に入った。
ルーベは話しかける事をせず、ベッドに座った。
そして、目を瞑り無心となった。
精神を統一しているのだ。
ルーベは暇になるとすぐやるのだ。
ザグルはそんなルーベを無視して、なん日ぶりかのフワフワのベッドに横になった。
さっきの部屋とはまるで違い、沈黙だけが辺りを包んでいた。
しばらくは横になっていたが、別に今は眠い分けではなく、横になる事に飽きたので、今度は部屋の右端にある木のイスに座り、コキコキと上下に揺らした。
音は鳴っていたが、それ以上何も無かった。
もともと無口なルーベは話しかける事もせず、ザグルも話しかけようとしたが、何故か喉の所でなにかが突っかかり、話す事が出来なかった。
そのうち、イスを鳴らす事がバカらしくなり、立ち上がって体操した。
でも、すぐに飽きたため、丸テーブルの上に乗せてあるルーベのとても難しい本のページをめくった。
これも長くは続かなく、窓を開けて夜空を見た。
それも時間を潰す事は出来なかった。
だから、部屋の中で出来そうな事を色々した。
だが、どれも持たなかった。
元々、落ち着きがなく、やんちゃな坊主なザグルが部屋の中でじっとするのは無理な話なのだ。
外に出ようにも夜は遅く、ルミアに外出禁止令を出されている為、出来なかった。
破るのは簡単に出来たが、お金に関わる問題だし、極力は避けたい。
これでも雇われている立場。依頼人がどんな人であれ、怒らせる訳にはいかないのだ。
「あのー、ルーベさん?」
「……なんだ?」
「なにか、お話しましょう?」
耐えかねてやっとの思いで出た言葉だった。
「……特に無い」
「あるだろうが! 今までどうだった? とか、元気にしていたか? とか!」
あまりにザグルに興味を向けなかったから、気をこっちに向ける為、足を床に叩きつけていた。
「……そんな必要ない?」
「なんで?」
「観ていれば察しがつくからだ」
「……そんな、オレって分かり易いか?」
「分かりやすい」
その言葉を最後に再び沈黙となった。
「……この部屋嫌だ」
沈黙と退屈には勝てず、部屋を出た。
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