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剣の少年と愉快な世界

ジャンル: ハイ・ファンタジー 作者: 天涅ヒカル
目次

剣の少年と愉快な魔物たち③

「皆のもの行くぜ!」
「おう!」
 一匹のゴブリンの言葉に、これほどまでに無いほどの連帯感を三匹が見せ、声を綺麗に揃えた。
 そして、素早さとは無縁の、ボタボタとした足取りで、姿を現した。
「赤い鼓動・赤(レッド)ゴブリン」
 ずっと話していたゴブリンだ。
 赤とは口で言っていたが、実際はゴブリン独特の茶色い毛に覆われた体が出てきただけで、見た目、赤を象徴している物が全く無かった。
「青の迎撃・青(ブルー)ゴブリン」
 ザグルから見て赤ゴブリンの右隣のゴブリンが言った。
 やっぱり、特徴がない。
「ピンクの精霊・ピンクゴブリン」
 赤の左隣のゴブリンだ。
 ピンクの特徴は無かったが、性別の区別はついていて、高い声と頭に着けている赤いリボンが特徴として出していた。
「そして、黄色いカレー・黄(イエロー)ゴブリン」
 ピンクの左隣に並んでいたゴブリンだ。
「リーク大陸をまたにかけ、魔物の為に戦う」
 リーダーゴブリンに戻った。
「我ら、魔物戦隊ゴブリーンズ」
 四匹が声を揃え、各々、計画性のないポーズを取っていた。
 そのポーズはバランスとか、格好とか、そんな物が欠片も感じられなかった。
 あるゴブリンは、ジャンプして空中でピースしていた。
 あるゴブリンは両手を腰につけていた。
 あるゴブリンは残りのゴブリンを輝かせよう、目立たせようと一生懸命だった。
 あるゴブリンは中腰『のような体勢』で手を広げていた。
「……」
 ザグルは言葉が見つからず、沈黙がその場を支配した。
「そうか、カッコ良過ぎて声も出ないか。分かるぞ、分かるぞ」
 沈黙を破ったのはリーダーゴブリンだった。
「突っ込みが多過ぎて、言葉を無くしたんだ」
 深くため息をついた。
「だいたい、ヒーローをバカにするな!」
 リーダーゴブリンの頭に、小石をぶつけた。
「痛っ!」
 コブになっていないか、当たった部分をさすった。
 さすってはいたが、決定的なダメージを受けるどころか、挑発にもならずみんな平然としていた。
 こんな事になるなら、一思いに切り捨てておけば良かった。と、自分にもため息をついた。
「だいたい、何処に色がある」
 突っ込みを入れるのも嫌だった。
「失礼な、背中に色を書いてある!」
 手を挙げて合図を送ると、残りの三匹が背中を向け、リーダーゴブリンも向いた。
 確かに名前は書いてあった。
 茶色の体毛の上にあまり目立っていない、黒いペンキで、
 『あか』
 『あお』
 『ぴんく』
 『きいろ』
 と、平仮名である。
 それを見た瞬間、もともと、脱力状態だったのに、もっと力が抜けた。
 無駄な労力を使ってしまった。
「カッコイイだろう?」
 青が自慢する。
「別に」
「ファンになってもいいよ」
 ピンクがウィンクする。
「ならない」
「サインはマネージャーを通せよ!」
 黄色が胸を張っていた。
「いや、丁重に断るよ」
 一応、構ってはいたが、早く切りたかった。
 だけど、昔から、嫌いじゃないヒーローの法則を無視するわけにはいかなかった。
 最も最初から無視しているゴブリンたちであったが……。
「ところで、ヒーローにしては四匹って中途半端な数だな」
 どこへ行っても、ヒーローは五人と相場は決まっていた。
「何言っている!ヒーローは四匹って決まっているだろうが!」
 これは、人間と魔物の根本的な違いだった。
 溝と言っても過言ではない。
 きっと、魔物の世界でのヒーローは人間が敵なのだろう。
 ゴブリン達がヒーローに成りすまして、ザグルの前に現れるのがいい例だ。
 しかも四匹をレギュラー人数として、背中に色の名前を書いて……。
(しかも人間が巨大化したり、爆発したりするんだろうな~)
 人間側からは考えたくない事実だった。
「でも、精霊とカレーはないだろう」
「何を言う! 精霊はピンクっぽいだろ?」
「どういう概念だよ」
 魔物図鑑では、ゴブリンは下級モンスターで頭が悪いが、こいつらは頭に『最低』をつけるほど頭が悪かった。
「美しいだろ! ピンクぽくって?」
(精霊=美しいはまだいいとして、美しい=ピンクかよ!)
 リーク大陸では、精霊は伝説とされ、その姿は美しいとされていた。
 どうやら、そこは魔物と共通のようだ。
「……分からんかね~。人間もバカだな」
「お前らにバカって言われたくない!」
 さっきよりも一回り大きい小石を投げて、リーダーゴブリンにぶつけた。
「痛いな~。バカにバカって言ってなにが悪い!」
「オレはバカじゃない!」
 ザグルは完全に挑発に乗ってしまっていた。
「いや、バカだ」
 青がクールに言う。
「バカでしょう?」
 ピンクも一応かわいらしく続ける。
「バカだな」
 黄色は完全にバカにしていた。
「ムッ」
「いいか、カレーだって入れるべきものだろ。だいたい、カレー大好きだし、そうだろ?」
「おう!」
 三人がリーダーゴブリンの言葉に声を揃えた。
「ほら、みんなが同意している。だいたい、黄色=カレーでもあるしな」
 それも魔物の世界での共通概念なのか?
 それともゴブリン達だけなのか?
 どちらにしても……。
(カレーはないだろう)
 と、強く思っていた。
「だいたい、他にあるだろう。太陽だって、向日葵だって、そもそも、カッコイイ前フリ考えろよ」
「それは下等種族の考え方だな」
「どっちが下等だよ……。もういい、付き合ったオレが悪かった。とっとと切ってやるから、そこを動くな」
「おい、切るのか?」
 さっきまで、余裕たっぷり、余裕の塊だったゴブリン達が急に緊張し始めた。
「ああ、これ以上突っ込むのも時間の無駄だからな。切ってやる!」
 地面に刺していた剣を抜き、再びゴブリン達に向けた。
「本当に切るのか?」
「しつこいな、切るっていったら切るの」
「あのー、ちなみに魔法で火炙りとか、氷付けにはしないの?」
「しない」
 正確には出来ないのだけど、ゴブリンに言ってもしかたなかったし、彼なりの見栄でもあった。
「ふっはっはっはっはっ……」
 四匹の音の悪い笑い声がまた始まった。
「それなら、安心だ」
「安心? どういう意味だ」
 瞬きを何度かした。
「作戦が成功したって事。お前達フォーメーション『梅』だ!」
「了解」
 三匹は頷き、赤を含め、全員が後ろを向いた。
「う、梅って何するんだ?」
 ザグルだけが状況を分かっていなかった。
「じゃあな。悪党、次に会う時までに強くなっていろよ」
 赤が合図を送ると他の色は一目散に逃げた。
「何もしていないけど……。あっ! 逃げられたぁ!ってか、速っ!」
 すぐにでも追いかけようと思ったが、短足な癖に、意外と足が速く、追いつかなかった。
 その速さはオリンピックの短距離走の優勝選手並である。
 視界からいなくなる前に赤が……。
「今回はお披露目だ。だが、次に会う時は死闘になると思え!」
 と、ゴブリンでも人間でもあり得ないほどの大きい声だった。
 ザグルの耳にも普通に聞こえた。
「はあ……。もう、二度と現れるなぁ!」
 突っ込みたかったけど、数が多過ぎた為、思っている怒りだけを叫んだ。
 それが、ゴブリン達に届いたかは分からない。
 いや、きっと聞こえなかっただろう。
 ザグルの心は晴れることは無く、無駄な一日を過ごした悔しさと虚しさだけが残っていた。
 それは青い空とは正反対の灰色の気分であった……。
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