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イナズマイレブンX -Another episode-

原作: その他 (原作:イナズマイレブン) 作者: ゆりっぺ
目次

食らいつく、雷門

「『エターナルボルケーノ』か…豪炎寺は右足で必殺技を撃てるようになったことで、更に攻撃の幅を広げたようだな。」

豪炎寺の新たな必殺技。止められたとはいえ、それは雷門守備陣の動揺を誘うには、抜群の効果を持っていた。
そんな彼らを見ながら、鬼道は感慨深げに呟いた。

「もしウチと当たるとしたら苦戦しそうだな。豪炎寺にも、今の木戸川にもよ…」
「そうだな。だが、まだ試合は始まったばかりだ。このまま終わる円堂達ではあるまい。」

表情は真剣に、それでいて、何処か楽しげに。
鬼道と土門は、嘗ての戦友達の対決を静かに見守った。
雷門から帝国にレンタル移籍中の身だが、既に二人は帝国学園サッカー部の中核を担う存在となっている。
今試合、雷門と木戸川の、どちらが勝ち抜いて来ようと負けることはない。試合を観戦する二人からは、そんな自信と余裕が感じられた。


一方、フィールドの上では、屋形が少林と競り合いを演じていた。
屋形から前線にパスが出ることは、やはり危険である。キックオフ直後のフォーメーションのままなら、基本は勝と豪炎寺のみに集中し、友、努の上がりを牽制するのみで良かった。
だが、今はその4人全員が雷門ゴールを脅かせる位置にいる。パスの選択肢が四つもあると、パスの精度の高さに定評のある屋形を勢い付かせかねない。
試合前の、古株の予想通りだ。屋形を止め、ボールを奪う。これが、木戸川の強力なオフェンス陣を無力化する為に一番効果があることを、少林は身を以て実感した。

「じれったいなあ…『グライダードライブV3』!!」

少林のしつこさに痺れを切らしたか、屋形が必殺技での突破を試みる。
ボールに回転を掛け、それを額の上に乗せる。ボールの回転に合わせて屋形の体が浮かび上がり、水平に広げた両腕が、まるでプロペラの様に廻り始めた。
さしずめ、木戸川自慢の連携オフェンス技『ブーストグライダー』の個人技バージョンといったところだろうか。今試合屋形が一度も使ってこなかったのは、タケコプターのように一人で回転する様が不恰好だからである。
だが、少林の執念深いマークの前には、そんな見栄えやかっこよさがどうとか言っていられない。屋形は意を決して上空へ浮かび上がると、一気に滑空して見せた。

「タアアアアッ!」

片や少林も負けてはいない。抜き去られながらも、気迫を込めた回し蹴りで、屋形の額にあるボールを掻き出す。ボールを失いバランスを崩した屋形は、不服ながらも地面へ不時着した。
小柄ではあるが、少林寺拳法で鍛えたボディバランスと、素早い身のこなし。少林はこの試合で、自分の持ち味を随分活かせている。
彼が弾き飛ばしたボールは、相方の宍戸が危なげなくキープする。同学年の壁山や栗松に比べると些か地味ではあるが、この2人も雷門の次代を担う存在として、めきめきと力をつけているのだ。

「あいつら、中々やるじゃねえか。俺達も負けてらんねえぞ、シャドウ!」
「ああ!!」

後輩達の活躍に感化され、此処まで沈黙を続けていた”雷門の点取り屋”が遂に動いた。
例え相手が豪炎寺だろうと、武方三兄弟だろうと、怯まない。此処で自分やシャドウが先制すれば、後ろを守る円堂達の負担も、幾らか減るだろう。
更に、此方が1点リードできたことで、精神的にも落ち着く筈だ。
仲間の肉体的・精神的負担を軽くする意味でも、この強固な守備陣から先制点をもぎ取ることは、かなり重要な意味を持つのだ。
チームメイトの為、勝利の為。染岡が光宗と女川の間を潜り抜け、木戸川ゴール前に躍り出る。
が、染岡のそんな気迫・思惑を察したか、木戸川DF陣を束ねる西垣が、女川・光宗に何やら指示を出した。続けて、ワンボランチの茂木にもハンドサインで合図を送る。

「宍戸、こっちだ!」

西垣の意図にはまだ気づいていない染岡が、右腕を振って宍戸にアピールする。
すぐにそちらへ視線を向ける宍戸だが、パスを要求する染岡の位置取りを見て、パスを諦めた。

「(駄目だ。今、染岡さん達にパスを出しても通らない…)此処は一旦落ち着かせます!」

チームが前掛かりになりがち、焦りがちな時に、落ち着いたボール回しで攻撃のリズムを整える。
東京国際学園戦で自らのマイペースな性格を武器に変えた宍戸は、今や雷門の中盤に必要な存在となった。
まだ一年目とということを考慮すれば、鬼道や一之瀬に比べると見劣りするのは確かだが、それでも彼らが卒業した後、雷門の司令塔を務められるセンスがあるのは間違いない。

「(まずは松野さんや一斗さんとパスを回して…あの4バックを崩すことが出来れば…)」


* * *


「この木戸川のフォーメーション、やっぱり攻略のカギは手薄な中盤みたいね」

背凭れに体を預け、腕組みをした百合香がピッチに視線を落としたまま呟いた。

「と言うと?」

傍らで試合を観戦する秋には、彼女の言葉の意味が分からない。
同じ試合を一緒に見ていても、百合香と秋では、試合展開から読み取れる情報量にかなり差があった。
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