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イナズマイレブンX -Another episode-

原作: その他 (原作:イナズマイレブン) 作者: ゆりっぺ
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雷門中、会場入り

-静岡県-

静岡県南葛市の市営グラウンド。此処がフットボールフェスティバル五回戦、雷門対木戸川清修の舞台である。
木戸川清修より先にピッチに入った雷門中サッカー部は、試合直前の最終調整を行っていた。
雷門サッカー部のキャプテン対エースストライカーという大会屈指の好カードだというのに、この日の天候は生憎の曇り。会場入りしてすぐ、音無がスマートフォンのアプリで確認したところ、降水確率は60パーセントだった。
週明けに台風が上陸する関係か、若干風も強い。試合をするにはあまり環境が良くないが、雷門サッカー部が会場について真っ先に気にしたのはピッチのことだった。

「げ、芝じゃねえのかよ。」
「土のグラウンドで試合するのは久しぶりだな…」

先陣を切ってピッチに入った染岡と半田が感想を漏らすと、後ろから覗き込んだ他のメンバーも、一様に顔を曇らせた。
半田の言う通り、雷門サッカー部が土のフィールドで対戦相手を迎え撃つのは、久方ぶりのことであった。
二回戦のガイア戦、三回戦の明紋FC戦、四回戦の東京国際学園戦と、何れも綺麗に刈り揃えられた芝のグラウンドでの戦いだった。
細かい砂利や砂埃を気にする心配がない分、芝のピッチの方が有り難いが、こればかりは今更文句を言っても変わらない。

「そうは言ってもさ。いつもと同じ感覚でやれるんだから、寧ろありがたいんじゃない?」

楽天家のマックスはあっけらかんとした表情でスタスタと足を踏み入れていく。
彼の言うことも尤もだ。普段雷門サッカー部は、土のグラウンドで練習している。普段と同じ環境で試合が出来るのは、好都合だ。
逆に人工芝のグラウンドで常々練習している木戸川の方が戸惑うかもしれない。

「地面が固いから、足首を痛めたりしないよう気をつけろよ。張り切りすぎて怪我したら元も子もないぞ。」

キーパーグローブをしっかり嵌めた円堂が、周りの選手に声を掛ける。嘗ての戦友との対決を前にしながらも、意外にも円堂は誰よりも冷静であった。
いや…寧ろ”彼”との対戦だからこそ、静かに闘志を燃やしているのか。”彼”との出会いが無ければ、円堂は此処にいなかったし、雷門サッカー部だってずっと弱小チームのまま…というか廃部になっていたかもしれない。
中学サッカー界に新たな伝説を刻んだ戦友との試合だ。最高の勝負をするために、冷静に、そして入念に準備をしているのだろう。
キャプテンの言葉を受け、念入りに体を解す部員達。怪我をし易い染岡は特に時間を掛けてアキレス腱を伸ばし、ストレッチをして体を温めていた。
その後はMFとDF、GKとFWに分かれてそれぞれパス練習、シュート練習に入る。試合前に余計なGPやTPを消費するのを避ける為、飽くまでも必殺技を控えての練習だが、皆の表情は本番さながらの真剣さである。
古株監督代理はこの木戸川戦、敢えて事前にスターティングメンバーを発表しなかった。既にオーダー表は会場にいる運営委員に提出済みだろうから、全くイレブンが決まっていないということはない。
老齢の指揮官は、誰を自らの構想に含んでいるのか。全く読めないため、いざ自分がスタメンに選ばれても良いように、部員全員が気持ちを高めていた。
そして、誰もが自分をスタメンに選んで欲しいと望んでいた。これから戦う”彼”は、そう思わせるだけの技術と実力と、人望を兼ね備えたプレイヤーなのだ。

「フフ…みな、良い感じにやる気になっとるの。」
「スタメン発表を控えていたのは正解でしたね。」

気合の入るウォーミングアップを見て、ベンチの古株監督代理と夏未はほくそ笑んだ。
スタメン非公開のまま試合当日を迎えるのは、木戸川清修との試合が決まったその日から考えていたことだった。
他の対戦相手ならいざ知らず、”彼”との試合ともなれば、良くも悪くも全員が意識してしまうだろう。試合に向けて意識を高めるのは悪いことではないが、当日試合に臨む顔触れを早々と公開し、スタメンとベンチで温度差が生まれるのは避けたかったのだ。

「本当はベンチだっていつでも試合に出られるように準備して貰わんといかんから、そもそもこんな試みは要らんのじゃが。うちは試合経験の少ない部員ばかりじゃからの。」

サッカー歴が長く、試合経験も豊富な名門チームなら、其処までの気遣いはいらなかっただろう。だが、雷門はサッカー歴が浅く、ベンチスタートなった場合の試合の臨み方を知らない選手が多い。
特別な相手との試合だからこそ、ベンチとなったものの志気を下げない為にスタメンを公開しなかったのだ。
知っているのは古株監督代理と、スカウティング担当の音無のみ。他のマネージャーや、戦術アドバイザーの目金すらも知らされていない。雷門サッカー部としては極めて異例な試みである。
そして、ウォーミングアップを始めて30分近く経った頃、大型車のエンジン音と共に、一台のバスが駐車場に姿を現した。

「あ、見るでヤンス!」

興奮気味に声を上擦らせる栗松。その声に、他の選手もアップの足を止め、栗松の目線の先に顔を向けた。
グラウンドの入場口に、真っ赤なユニフォームの一団が並んでいる。
先頭はサングラスを掛け、同じ顔をした、同じ体格の、まるで鏡に映したかのような三人組。髪型の違いで辛うじて彼らが鏡像の幻などではなく、各々が肉体を持った実像であることが分かる。
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