マックスの新必殺技
「他の選手にパスが出ていたら、止められなかっただろう。だが東は、ずっと豪炎寺の動きを見ていた。最初から豪炎寺一人に狙いを定めていたんだ。」
「だとしてもすげえよ。この試合、どう転ぶか分からねえぞ。」
「…そうだな。」
東や五郎、飛鷹、一斗。鬼道達が雷門を去った後、新たに加わったメンバー達。
その成長やプレーぶりを見ることに、鬼道自身も心を躍らせていた。
「たああああ！！」
ピッチ上では、東渾身のクリアボールをキープした少林が、雄叫びを上げながら敵陣を駆け抜けていた。
カンフーで培った見事な体捌きで、屋形をかわす。
続いて立ちはだかった茂木も、爆まで進化させた『竜巻旋風』で上空へ巻き上げて見せた。
少林寺 歩。雷門の中盤の底を任される一年生プレイヤー。ボールスティールとボールキープに磨きをかけ、中盤を支配せし闘神となる。
二年後のフットボールフロンティアでは”小さな武神”の異名をとり、雷門の三連覇の原動力となるのだが、無論本人は知る由もない。
「少林、こっち！」
「松野さん！！」
左サイド、ライン際に展開するマックスへのパス。東のクリアから此処まで繋がったボールを託されたテクニシャンは、木戸川のエースディフェンダーと相対した。
腰を落とし、体の重心を限りなく下にした構え。パスをカット出来て、自ら奪いにも行ける絶妙な間合い。体は決して大きくないが、西垣からは一分の隙も感じられなかった。
サッカーの経験は浅いとはいえ、これまで幾多の運動部を渡り歩き、様々なプレイヤーを破ってきたマックスは、西垣の放つプレッシャーを敏感に感じ取った。
「(こいつは…正直抜けるか分からないな。)」
いつでも飄々としているマックスでも、西垣の前では表情を強張らせた。恐らく西垣には、並大抵のボールテクニックは通用しない。
もう少し攻め込めれば良かったのだが、ゴールよりだいぶ離れた所で止めに来られてしまった。
此処は、仲間にも隠してきたとっておきのドリブル技を使うしかないだろう。マックスが部活の後にこっそり個人練習をして編み出した、秘密兵器。
ここぞ！という場面、大一番で使って、みんなを驚かせるつもりだった。今がその時だ。西垣相手なら、使って損はない。初見の技で西垣を抜いて、FWコンビのどちらかが先制点を決める。
決まらなくても、西垣を突破すれば、試合の流れは雷門に傾く。マックスも要注意と見れば、シャドウ達のマークも薄く出来る。
覚悟は決まった。マックス、西垣と距離を詰める…
「くらえ、僕の新必殺技…」
二度、三度、四度…相手ディフェンダーを攪乱する、絶妙な足裁き。ボールの上下前後左右を、高速フェイントで両足が行き交う。
そして、敵を攪乱するのは、足技のみならず。上体も左右に揺れる。右か左か。進むか退くか。雷門が誇るテクニシャならではの、難易度の高いプレイング。
最後は、左。ボールを携えたマックスが、西垣から見て右側に流れる。つい、釣られて西垣がそちらに動く。
だが、マックスは西垣に右足が伸びたのを確認し、いきなり体を反転させた。左に動いた事すらもフェイク。切れ味鋭い、急角度の切り返し。
ピッチを切り裂き、敵にブロックまでも切り伏せるドリブル。そのまま中に切り込む、並のDFなら到底止められないカットイン。
ベンチで見守る目金が、興奮気味に立ち上がった。
「凄いドリブル技だ！高速フェイントとターン、カットインを融合させた、松野君らしいテクニカルな必殺技です！名づけるなら、そう…『ターニ「もう名前なら決めてるよ！『スラッシュターン』だ！！」
新必殺技に命名しようとする目金を遮り、マックスが必殺技名を詠唱する。
その詠唱と共に西垣を抜き去れば、この一連のドリブル技は完了する。筈だった。
だが中に切れ込んだマックスの余裕の表情が、凍りついた。
彼の視線の先には、先程振り切った筈の、西垣の姿が。
「なんで…」
今のは完全に、成功ムードだったろう。ましてや新必殺技だぞ。初披露で破られるなんて、そんな馬鹿な話があるか。
なのにどうして…
「なんでお前が、『そこにいる』んだよ…！」
マックスのフェイントに惑わされはしたものの、騙されてはいなかった。
彼のフェイント・ターン全てにしっかりと付いて行ったばかりか、西垣は更にその先を行っていた。
マックスがここまで目論んでいた作戦はそもそも、西垣を抜くことが前提だった。だがそれは、成功フラグさえもへし折る西垣の前に、脆くも崩れ去った。
「甘いんだよ！その程度のフェイント、アメリカで何度も見て来たんだ。止められなかったら、昔のチームメイトに笑われちまうぜ！」
西垣がドレッドヘアを掻き上げる。
眠そうな目の奥で、丸い瞳がぎらついている。見事な切り返しを見せられた意趣返しか、空気を切り裂く鋭利なスライディングタックルでボールを刈り取った。
そのままボールは西垣がキープし、先程少林に吹き飛ばされた茂木が下がるのを待って、ショートパスを出す。
「だとしてもすげえよ。この試合、どう転ぶか分からねえぞ。」
「…そうだな。」
東や五郎、飛鷹、一斗。鬼道達が雷門を去った後、新たに加わったメンバー達。
その成長やプレーぶりを見ることに、鬼道自身も心を躍らせていた。
「たああああ！！」
ピッチ上では、東渾身のクリアボールをキープした少林が、雄叫びを上げながら敵陣を駆け抜けていた。
カンフーで培った見事な体捌きで、屋形をかわす。
続いて立ちはだかった茂木も、爆まで進化させた『竜巻旋風』で上空へ巻き上げて見せた。
少林寺 歩。雷門の中盤の底を任される一年生プレイヤー。ボールスティールとボールキープに磨きをかけ、中盤を支配せし闘神となる。
二年後のフットボールフロンティアでは”小さな武神”の異名をとり、雷門の三連覇の原動力となるのだが、無論本人は知る由もない。
「少林、こっち！」
「松野さん！！」
左サイド、ライン際に展開するマックスへのパス。東のクリアから此処まで繋がったボールを託されたテクニシャンは、木戸川のエースディフェンダーと相対した。
腰を落とし、体の重心を限りなく下にした構え。パスをカット出来て、自ら奪いにも行ける絶妙な間合い。体は決して大きくないが、西垣からは一分の隙も感じられなかった。
サッカーの経験は浅いとはいえ、これまで幾多の運動部を渡り歩き、様々なプレイヤーを破ってきたマックスは、西垣の放つプレッシャーを敏感に感じ取った。
「(こいつは…正直抜けるか分からないな。)」
いつでも飄々としているマックスでも、西垣の前では表情を強張らせた。恐らく西垣には、並大抵のボールテクニックは通用しない。
もう少し攻め込めれば良かったのだが、ゴールよりだいぶ離れた所で止めに来られてしまった。
此処は、仲間にも隠してきたとっておきのドリブル技を使うしかないだろう。マックスが部活の後にこっそり個人練習をして編み出した、秘密兵器。
ここぞ！という場面、大一番で使って、みんなを驚かせるつもりだった。今がその時だ。西垣相手なら、使って損はない。初見の技で西垣を抜いて、FWコンビのどちらかが先制点を決める。
決まらなくても、西垣を突破すれば、試合の流れは雷門に傾く。マックスも要注意と見れば、シャドウ達のマークも薄く出来る。
覚悟は決まった。マックス、西垣と距離を詰める…
「くらえ、僕の新必殺技…」
二度、三度、四度…相手ディフェンダーを攪乱する、絶妙な足裁き。ボールの上下前後左右を、高速フェイントで両足が行き交う。
そして、敵を攪乱するのは、足技のみならず。上体も左右に揺れる。右か左か。進むか退くか。雷門が誇るテクニシャならではの、難易度の高いプレイング。
最後は、左。ボールを携えたマックスが、西垣から見て右側に流れる。つい、釣られて西垣がそちらに動く。
だが、マックスは西垣に右足が伸びたのを確認し、いきなり体を反転させた。左に動いた事すらもフェイク。切れ味鋭い、急角度の切り返し。
ピッチを切り裂き、敵にブロックまでも切り伏せるドリブル。そのまま中に切り込む、並のDFなら到底止められないカットイン。
ベンチで見守る目金が、興奮気味に立ち上がった。
「凄いドリブル技だ！高速フェイントとターン、カットインを融合させた、松野君らしいテクニカルな必殺技です！名づけるなら、そう…『ターニ「もう名前なら決めてるよ！『スラッシュターン』だ！！」
新必殺技に命名しようとする目金を遮り、マックスが必殺技名を詠唱する。
その詠唱と共に西垣を抜き去れば、この一連のドリブル技は完了する。筈だった。
だが中に切れ込んだマックスの余裕の表情が、凍りついた。
彼の視線の先には、先程振り切った筈の、西垣の姿が。
「なんで…」
今のは完全に、成功ムードだったろう。ましてや新必殺技だぞ。初披露で破られるなんて、そんな馬鹿な話があるか。
なのにどうして…
「なんでお前が、『そこにいる』んだよ…！」
マックスのフェイントに惑わされはしたものの、騙されてはいなかった。
彼のフェイント・ターン全てにしっかりと付いて行ったばかりか、西垣は更にその先を行っていた。
マックスがここまで目論んでいた作戦はそもそも、西垣を抜くことが前提だった。だがそれは、成功フラグさえもへし折る西垣の前に、脆くも崩れ去った。
「甘いんだよ！その程度のフェイント、アメリカで何度も見て来たんだ。止められなかったら、昔のチームメイトに笑われちまうぜ！」
西垣がドレッドヘアを掻き上げる。
眠そうな目の奥で、丸い瞳がぎらついている。見事な切り返しを見せられた意趣返しか、空気を切り裂く鋭利なスライディングタックルでボールを刈り取った。
そのままボールは西垣がキープし、先程少林に吹き飛ばされた茂木が下がるのを待って、ショートパスを出す。
※会員登録するとコメントが書き込める様になります。