無情なカウンターアタック
「ね、凄いでしょ。ゲームの流れを読む能力、仲間を動かす統率力。そして、個人の守備力。全部高水準だよ」
「まあ、仲間を動かすのが凄いのは分かりましたけど、回りくどいことをしなくても、宍戸に対するプレスでボールを奪った方が手っ取り早いのでは？」
「それもありだけど、敵が前掛かりになり過ぎたところでボールを奪った方が、カウンターとしては効果的でしょ？」
事実、百合香の言う通り、攻め込み過ぎた雷門は守備陣と攻撃陣の間に大きなスペースが生じている。慌てて染岡や一斗達が守備に走るが、それを嘲笑うかのように木戸川のカウンターアタックは雷門陣内を脅かしていた。
「あとはイケると思わせて、それが失敗した方がさ。相手の精神的ショックが大きくて、気持ちいいよね」
嬉しそうに顔を綻ばせる百合香を見て、秋はゾッとしつつも、彼女の性悪さに性的な魅力を感じていた。
「(こういうのを、”さでぃずむ”って言うんだろうな。でも、百合香さんにソフトに責められたら、絶対気持ちいいんだろうなあ)」
「今、私のこと性格悪いと思った？」
「いや、そんなことは…でも、ちょっと怖いなと思いました」
「大丈夫、秋君にはいじわるしないから。だから怖がらないで欲しいな」
「うん…」
若干Ｍっ気のある秋としては、百合香にちょっかい出された方が有り難いのだが。少し残念そうに、百合香と共に戦況を見守った。
＊ ＊ ＊
木戸川のカウンターアタック。それは攻め込み過ぎた雷門にとっては、かなり不利な状況だった。
先程まで…ほんの数分前まで、中盤の手薄さが木戸川に対する付け入る隙であった。それが今やどうだろう。中盤に残したのは、屋形をマークする少林のみ。
方や木戸川は、茂木をはじめ、サイドバックの黒部が上がり、友や努も下がって数的優位を作ろうとしている。
チャンスが一転、ピンチに変わる。皮肉にも、先程まで手薄だった木戸川の中盤には、赤いユニフォームが5つも揺れている。逆に少林しかいない雷門が攻め込まれる展開だ。
「くっ、誰を止めれば…」
此処まで屋形を抑えるのに奮闘していた少林だが、こうなっては彼の動きを捉え切れない。
屋形のマークを続けるべきか？それとも上がろうとしている他の選手を止めるべきか？素早く思考を巡らせる少林をフォローすべく、努をマークしていた風丸が中央に走る。
「お、俺も…！」
風丸の動きに釣られ、東も上がる。分断されたイレブン。数的不利な中盤。それを打開しようとＤＦが動いたことで、これまで何とか失点を防いできた守備陣が崩壊する…
「駄目だ東！戻れ！！」
円堂が叫ぶが、もう遅かった。
ボールホルダーの茂木から屋形へパスが出る。これを少林がカットしようとするも、ボールは少林の爪先を掠め、サイドの黒部へ。
少林を完全に振り切り、自由になった屋形に今度こそボールが渡り、それを見た友と努がゴール前へ駆け上がる。
待ってましたとばかりに木戸川の4トップが、雷門ペナルティエリア内に侵入する。東と風丸が消え、栗松が外に開きすぎたため、広大なスペースが出来上がっている。
最初に動いたのは、友だった。
「こっちです、直人くん！！」
戻ろうとする東を振り切り、青い炎を纏いながらアピールする。眠そうな目でそれを見た屋形から、強めのロブパスが放たれる…
飛び上がって、空中でボールを携えた友が、青い炎を更に強める。
「これで先制です。『真・バックトルネード』ッッ！！」
友の踵落としがボールに炸裂し、炎の弾丸と化したシュートが、円堂の頭上に降り注いだ。
これを斜め上に向かって発動した『マジン・ザ・ハンド』で防ぐも、属性面で不利であることと、無理な態勢で放ったためか、バランスを崩してしまう。
零れ球を拾ったのは、勝。三兄弟の長男、そして木戸川清修のエースとして、先制点を挙げる。その覚悟が、勝を突き動かしていた。
彼が生み出した炎は、弟達のそれより、深みのある青。紺碧の焔である。膝の付け根まで包み込むほどの強大な焔を右足に纏い、空中で回し蹴りを放つ。
「俺の新必殺技、受けてみろ！みたいな！？」
豪炎寺の『ファイアトルネード』と同じく左足で放ち、彼の技が時計回りであるのに対し、反時計回りで踵落としを放つのが、『バックトルネード』。
右足で放ち、時計回り、即ち『バックトルネード』とは逆の回転でシュートを撃つのが、この技…
「くらえ…『リバースストーム、V2』！！！」
世宇子との合同練習で発現させた、勝の新必殺シュート。世宇子のＤＦ・出魚 激や荒須 乱の激しいチェックに耐え兼ね、苦し紛れに放ったのが誕生の切っ掛けだった。
合同練習中の2回目の試合では、終盤にて漸く完成させ、見事ポセイドンの守る世宇子ゴールを抉じ開けて見せた。
単に、これまでの持ち技だった『バックトルネード』とは逆に放てば良いというものではなく、『バックトルネード』時の癖や体の回転の向き、リズム等を一から見直さなければならないため、完成は容易では無かった。
「まあ、仲間を動かすのが凄いのは分かりましたけど、回りくどいことをしなくても、宍戸に対するプレスでボールを奪った方が手っ取り早いのでは？」
「それもありだけど、敵が前掛かりになり過ぎたところでボールを奪った方が、カウンターとしては効果的でしょ？」
事実、百合香の言う通り、攻め込み過ぎた雷門は守備陣と攻撃陣の間に大きなスペースが生じている。慌てて染岡や一斗達が守備に走るが、それを嘲笑うかのように木戸川のカウンターアタックは雷門陣内を脅かしていた。
「あとはイケると思わせて、それが失敗した方がさ。相手の精神的ショックが大きくて、気持ちいいよね」
嬉しそうに顔を綻ばせる百合香を見て、秋はゾッとしつつも、彼女の性悪さに性的な魅力を感じていた。
「(こういうのを、”さでぃずむ”って言うんだろうな。でも、百合香さんにソフトに責められたら、絶対気持ちいいんだろうなあ)」
「今、私のこと性格悪いと思った？」
「いや、そんなことは…でも、ちょっと怖いなと思いました」
「大丈夫、秋君にはいじわるしないから。だから怖がらないで欲しいな」
「うん…」
若干Ｍっ気のある秋としては、百合香にちょっかい出された方が有り難いのだが。少し残念そうに、百合香と共に戦況を見守った。
＊ ＊ ＊
木戸川のカウンターアタック。それは攻め込み過ぎた雷門にとっては、かなり不利な状況だった。
先程まで…ほんの数分前まで、中盤の手薄さが木戸川に対する付け入る隙であった。それが今やどうだろう。中盤に残したのは、屋形をマークする少林のみ。
方や木戸川は、茂木をはじめ、サイドバックの黒部が上がり、友や努も下がって数的優位を作ろうとしている。
チャンスが一転、ピンチに変わる。皮肉にも、先程まで手薄だった木戸川の中盤には、赤いユニフォームが5つも揺れている。逆に少林しかいない雷門が攻め込まれる展開だ。
「くっ、誰を止めれば…」
此処まで屋形を抑えるのに奮闘していた少林だが、こうなっては彼の動きを捉え切れない。
屋形のマークを続けるべきか？それとも上がろうとしている他の選手を止めるべきか？素早く思考を巡らせる少林をフォローすべく、努をマークしていた風丸が中央に走る。
「お、俺も…！」
風丸の動きに釣られ、東も上がる。分断されたイレブン。数的不利な中盤。それを打開しようとＤＦが動いたことで、これまで何とか失点を防いできた守備陣が崩壊する…
「駄目だ東！戻れ！！」
円堂が叫ぶが、もう遅かった。
ボールホルダーの茂木から屋形へパスが出る。これを少林がカットしようとするも、ボールは少林の爪先を掠め、サイドの黒部へ。
少林を完全に振り切り、自由になった屋形に今度こそボールが渡り、それを見た友と努がゴール前へ駆け上がる。
待ってましたとばかりに木戸川の4トップが、雷門ペナルティエリア内に侵入する。東と風丸が消え、栗松が外に開きすぎたため、広大なスペースが出来上がっている。
最初に動いたのは、友だった。
「こっちです、直人くん！！」
戻ろうとする東を振り切り、青い炎を纏いながらアピールする。眠そうな目でそれを見た屋形から、強めのロブパスが放たれる…
飛び上がって、空中でボールを携えた友が、青い炎を更に強める。
「これで先制です。『真・バックトルネード』ッッ！！」
友の踵落としがボールに炸裂し、炎の弾丸と化したシュートが、円堂の頭上に降り注いだ。
これを斜め上に向かって発動した『マジン・ザ・ハンド』で防ぐも、属性面で不利であることと、無理な態勢で放ったためか、バランスを崩してしまう。
零れ球を拾ったのは、勝。三兄弟の長男、そして木戸川清修のエースとして、先制点を挙げる。その覚悟が、勝を突き動かしていた。
彼が生み出した炎は、弟達のそれより、深みのある青。紺碧の焔である。膝の付け根まで包み込むほどの強大な焔を右足に纏い、空中で回し蹴りを放つ。
「俺の新必殺技、受けてみろ！みたいな！？」
豪炎寺の『ファイアトルネード』と同じく左足で放ち、彼の技が時計回りであるのに対し、反時計回りで踵落としを放つのが、『バックトルネード』。
右足で放ち、時計回り、即ち『バックトルネード』とは逆の回転でシュートを撃つのが、この技…
「くらえ…『リバースストーム、V2』！！！」
世宇子との合同練習で発現させた、勝の新必殺シュート。世宇子のＤＦ・出魚 激や荒須 乱の激しいチェックに耐え兼ね、苦し紛れに放ったのが誕生の切っ掛けだった。
合同練習中の2回目の試合では、終盤にて漸く完成させ、見事ポセイドンの守る世宇子ゴールを抉じ開けて見せた。
単に、これまでの持ち技だった『バックトルネード』とは逆に放てば良いというものではなく、『バックトルネード』時の癖や体の回転の向き、リズム等を一から見直さなければならないため、完成は容易では無かった。
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