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イナズマイレブンX -Another episode-

原作: その他 (原作:イナズマイレブン) 作者: ゆりっぺ
目次

エースディフェンダー、西垣

そのことに引け目を感じながらも、秋は教えを請わずにはいられない。隣に座る少女の考えを、少しでも理解したい。少しでも、その領域に近づきたい。少しでも、彼女と同じ景色を見たい。
秋がまじまじと自分の顔を見つめてくるので、幾らか面食らったようだが、すぐに優しい笑みを湛えると、百合香はピッチを指差して説明し始めた。

「木戸川の今のフォーメーションは、4-1-1-4。トップとバックの人数が潤っているのに対し、中盤は2人しかいない。此処までは分かるかな?」
「ええ。見てても明らかに真ん中だけ、木戸川の選手が少ないです」
「4人もFWを相手にしなきゃいけないのと、オーバーラップした後ろのスペースを狙われるのを恐れて、雷門の両サイドバックは引き気味にならざるを得ない。それが、この布陣の目的」
「はい。」
「でも、中盤が2人だけってやっぱりリスクが大きいんだ。サイドバックを封じられたけど、雷門のMFは4人いる。中盤の人数だけで言えば、雷門に分がある」
「…何となく分かってきました。中盤でボール回しする分には、雷門にとっては都合が良いフォーメーションってことですね?」
「正解。此処まではボランチの子が頑張ってカバーしてたけど、それでいつまでも持つとは思えない。風丸君の攻撃参加を封じられたのは痛いけど、雷門のMFの動き方次第では、充分攻略出来そうだよ」

しみじみと呟く百合香の目線の先で、宍戸の意図を察したサイドハーフがボールを受けに走っていた。


* * *


「こっちです!」

右サイドハーフの一斗が、手を挙げながら宍戸の視界に入ってきた。
まだ入部して間もないながら、試合展開を読んだり、戦術に対する理解度は兄に引けを取らない。中盤でペースを整え、敵の守備陣に綻びが生まれるのを待つという、宍戸の作戦を悟ったのだろう。
左サイドで暇そうにしていたマックスも、中央に絞ってきた。パスの受け手が増える。厄介な敵のレジスタには、少林がぴったり張り付いている。”ペースメイカー”宍戸 佐吉の持ち味を生かすには、申し分ないシチュエーションである。
まずは手近にいたマックスにボールを預けようとするも、宍戸の視界に、茂木が侵入してきた。

「嫌なところで顔を出してくる…だったら!」

茂木のフォアチェックを避け、更に宍戸寄りに走り込んできた一斗にパスを出す。
一斗は慣れた体捌きで前を向くと、すぐに詰めてきたサイドバックの黒部に必殺技を放った。

「『フューチャー・アイ』!!」

眼鏡のレンズの奥、一斗の瞳が未来を見通す。黒部の動きを読み、左右どちらから動けば彼を抜けるか。その最適解をすぐに導き出す。
やがて、黒部が詰め寄った時には、一斗は彼の右側からターンして華麗に抜き去っていた。

「行け、アッキー!!」

敵の守備陣の一角を切り崩し、一斗が安堵したのも束の間、西垣の鋭い声がゴール前に響き渡った。
ディフェンスリーダーの声に背中を押されたか、女川が風を纏って突っ込んでくる。

「はい!!『真・ハリケーンタックル』!!」

木戸川の連携ブロック技『ハリケーンアロー』の個人技バージョン。鋭い風の塊が一斗を直撃する。華奢な体格の彼は堪らず吹っ飛ばされ、ボールを零してしまう。戦術眼やテクニックには目を瞠るものがあるが、フィジカルの弱さが難点である。
零れ球は左センターバックの光宗がキープし、すぐに前線へクリアする。

「良いぞアッキー!その調子だ!」
「は、はい!」

西垣の激励に顔を綻ばせながら、女川が元のポジションに収まる。
流石は全国大会常連校、自慢の守備陣である。しっかり敵の攻撃をシャットアウトしている。そして中でも一際目立つのが、バックラインを統率する西垣の働きだ。
観客席から先の一連のプレーを見ていた百合香は、仲間を動かし、鉄壁の守備を形成する彼の実力の高さに驚いていた。

「凄いよ、あの2番の彼」
「バンダナ巻いてる色黒の奴ですか?」
「そう。上手く仲間を動かしてる。仕掛けは、宍戸君がボールを持った時から始まってたの」

百合香によれば、宍戸がボールをキープし、染岡が点を取ろうと動き出した時に、既に西垣は守備のプランを実行していた。
まず、さり気なくディフェンスラインを上げて、染岡とシャドウをゴール前へ置き去りにする。この時点で、雷門の2トップはオフサイドポジションに入っていたため、宍戸はパスの選択肢から除外していた。
次に、アシストに定評のある汗かき屋、茂木にプレスを掛けさせる。宍戸にパスの出しどころを選択する余裕を与えないのが狙いだ。此処でボールを奪えれば儲け。奪えなくても、焦ってパスを出させれば、茂木の役目は成功だ。
加えて、マックスのいる方向からプレスを掛けることで、自然と一斗にパスを出すように誘導することも出来る。そして西垣の目論見通り、茂木が視界に入ってくるのを嫌った宍戸は、一斗にボールを預ける。
一斗のフィジカルが弱いのは、事前のスカウティングで把握済みだった。だが、此処で無理にボールを奪おうとすれば、フィジカルコンタクトを嫌った一斗はパスに逃げるだろう。
重要なのは、彼にドリブルを選択させること。そこで、間合いを取った黒部をわざと抜かせ、油断した所を女川に狙わせる。
此処までが西垣の思い描いた作戦だった。そして、彼はそれを成功させた。
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