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すぐさま宍戸が勝と友へのパスコースを塞ぐ。アフロで目が隠れているが、冷静に周りを見ている。先程屋形が、栗松と対峙する勝らに目を付けていたのを悟り、彼らへのパスを警戒していたのだ。何しろ、栗松は一人で彼ら二人を相手にしなければならない。屋形にボールが渡った場合、片方がボールを奪いに行き、もう一人はＤＦのフォローに回ろう…宍戸と少林は事前にそんな取り決めをしていた。
だが屋形は、勝達へのパスは選択せず。すぐ目の前、屋形から見て最短距離にいる豪炎寺にボールを預けた…
「おーっと木戸川の司令塔・屋形 直人！敢えて豪炎寺にパスを出したぁ！雷門のＤＦ二人を背負う豪炎寺だが、ゴールを抉じ開けられるのか！？」
角馬の熱弁を受け流しながら、豪炎寺はすぐさまゴールへと向き直り、戦友の守る砦へ狙いを定める。
「(勝負だ、円堂…！)」
左足にボールを携え、左手を振り被る。炎を纏って飛び上がろうとした瞬間、両側から壁山と東が挟み込んだ。
「させないッス！！」
豪炎寺のシュートモーションを見た瞬間、壁山は彼の利き足である左足を封じに動いた。
その巨体に似合わぬ、機敏な動き。それだけ壁山は、豪炎寺の実力を警戒していた。木戸川の試合動画の中で見た、彼の新必殺技。確か名前は、『爆熱スクリュー』と言ったか。
三回戦のギラギンド北九州戦、四回戦の川崎フロンガス戦でそれぞれ得点を挙げている、かなり決定力の高い技である。
エイリア学園との試合でも活躍した『爆熱ストーム』が強力なのは誰もが認めるが、タメが長い分、隙も大きい。その欠点を改善するために生み出された技ではないか、と目金が偉そうに分析していたのを思い出す。
この技を使われることを、壁山はずっと警戒していたのだ。そして豪炎寺の利き足は左。左足を封じれば、必殺シュートに転じられる心配はない。
自分が利き足を潰して、東がボールをクリア。それが壁山の思い描いていたプランだった。流石、雷門の全国制覇に貢献しただけでなく、イナズマキャラバンに最後まで残った古株メンバーである。そのディフェンス力、判断力は雷門随一といっても過言では無い。
だが、相対する炎のストライカーも、以前から全国区のＦＷとして名高く、今大会で更に技能を磨いてきた。壁山はそのことを読み違えていた。
「流石だな壁山。だが…右でも必殺技は撃てるぞっ…！！」
ボールを奪われないよう細心の注意を払いながら、豪炎寺が半歩下がった。
ほんの僅かに出来たスペースの中で、両足の踵でボールを弾き、蹴り上げる。滞空したボールに、灼熱の炎が集まって行き、さながら火の玉の如く燃え上がらせる。
「これは…」
ゴール前で構える円堂が、その必殺技に目を見開いた。
何処かで見たことのある、否、つい最近まで仲間だった『あのストライカー』の物に酷似したモーション。
違う点と言えば、ボールに纏わりついているのが氷ではなく、炎であるところだろう。
最大限まで炎がボールを覆い尽くしたのを確認し、豪炎寺が大地を蹴って飛び上がる…
「噴き荒れろ…『エターナルボルケーノ、V3』！！！」
右足で火の玉に蹴りを叩き込む。冷気ではなく、熱気を纏った強力なシュートが、ゴールに襲い掛かる。
「豪炎寺の新たな必殺シュートォ！！これはまるで、白恋中・吹雪の『エターナルブリザード』の炎版といったところ！！果たして円堂は止められるのかー！！」
「止めるッス…『超ザ・ウォール』！！」
シュートと円堂の間に割って入った壁山が、代名詞とも言えるディフェンス技でシュートブロックを試みる。
彼が時間を稼いでいる間に、更に栗松も加勢し、『焼き栗ボンバー』でシュートの勢いを削いでゆく。それでも豪炎寺の気迫の籠った新必殺技は、岩壁を砕き、焼き栗を消し炭に変えてしまう。
「豪炎寺！！ゴールは絶対割らせねえぞ！！」
円堂が腰を落として構えをとると、心臓から溢れ出た氣が彼の全身を包み込んだ。雄雄しい”魔神”の形となった黄金のエネルギーを背中に背負い、呼吸を揃えて右腕を突き出す。
「『爆マジン・ザ・ハンド』！！」
使用者の腕の動きに合わせて、背後の魔神も右手をガッと前に押し出す。
豪炎寺の火の玉のシュートはその掌にぶつかると、暫しの間じりじりと鍔迫り合いを続けていたが、やがて魔神に押し負けて鎮火した。
2度のシュートブロックを挟んだ上、属性の相性も不利だった為か、最初のライバル対決は円堂に軍配が上がった。
「豪炎寺が右足でもシュートを撃てるとはな…」
努をマークし、雷門ペナルティエリアの左隅に構えていた風丸の背中を、冷たい汗が伝った。
豪炎寺にマークについた2人のうち、壁山が左側から当たったのは、豪炎寺の利き足を潰すのが狙いだった。だが、彼は此方の狙いを読み、右足での新必殺シュートを放って見せた。
左右両足でシュートを放てるということは、利き足を潰すとか、そういった姑息な作戦が通じる相手ではないということを意味する。辛うじて属性の相性で円堂にアドバンテージがあるが、このままでは先制点を許すのは時間の問題だった。
「良いぞ豪炎寺。お前の新必殺技で、先制点を奪ってしまえ。」
豪炎寺に2種類の新必殺シュートの修得を課したのは、二階堂監督だった。
彼はイプシロン改戦をテレビで観戦し、豪炎寺の『爆熱ストーム』の威力に驚くと同時に、その弱点もすぐに見抜いていた。
『爆熱ストーム』は高威力な反面、モーションの溜めも大きく、隙が出来易い。
守備型のチームと当たれば、すぐにＤＦに囲まれてシュートチャンスを逸するだろう。それを防ぐ為、『爆熱ストーム』よりモーションの早いシュート技と、利き足を潰された時のことを考え、右足でのシュート技を覚えさせたのである。
「まさか本当に2種類の技を修得するとは思わなかったがな。それどころか、もう一つ技を完成させるとは…」
豪炎寺本人には伝えなかったが、此処まで優秀なプレイヤーは、二階堂が指導者になってから一人もいなかった。
モーションが早く、チェイン性能を持つ『爆熱スクリュー』。右足で放つことが出来、ブロック性能を持つ『エターナルボルケーノ』。
更に…彼はまだ、この試合まで隠してきた、もう一つの大技を持っている。

エースストライカー豪炎寺と武方三兄弟の4トップ、司令塔は期待のルーキー、黒子役のボランチ、西垣率いる鉄壁の4バック。
元プロサッカー選手・二階堂 修吾率いるチーププレーの鬼達が、雷門に更なる牙を剥く。
試合はまだ、始まったばかり。