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イナズマイレブンX -Another episode-

原作: その他 (原作:イナズマイレブン) 作者: ゆりっぺ
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キックオフ直前

和泉が我先にと駆け出す。負けじと、跳沢・貴志部も続く。
元々は木戸川憎しの感情で彼らの試合を観戦しに来た三人。だが、運命というものは分からないものだ。9年後、三人は揃って木戸川清修中サッカー部に入部し、全国制覇を果たす。そして翌年には、同じく会場を訪れている剣城 京介と激しい戦いを繰り広げることとなる。貴志部は勿論、他の二人もそんなことは知る由もないが。
更に観客席には、雷門の試合を欠かさず観戦する2人組の姿もあった。
「天気が悪い割に、混雑してるね。これも対戦カードの影響かな」
カチューシャ状に編み込まれたアッシュブラウンの髪。背中まで伸ばしたそのストレートヘアの中で、色白の肌が見え隠れしている。
ツンと尖った鼻に、シャープな輪郭の端正な顔立ち。絹の様な柔らかな肌に引き立てられた、アイスブルーの瞳。赤い縁の眼鏡も、目元を彩るアクセサリとなっている。
人混みを鬱陶しそうに見回すその仕草すら、色気を感じさせた。
「凄いでしょう。この2校の試合を組んだの、僕なんですよ」
黒い癖毛を無造作に伸ばした少年が、得意げに胸を張った。隣に座る少女に比べると、幾らか幼い。この少年も肌が白いほうだが、隣の少女が色気も肌の艶もあるのに対し、この少年は艶も張りも無ければ、色気も素っ気もない。同じ白さでも、不健康そうな青白さだ。
「凄いよ秋くん。こういう雨が降りそうな時くらい、もっと空いてると良かったけど」
「そうですね。少し肌寒いし」
そう言うと、不健康少年の沢渡 秋は腕を擦った。
台風が近づいている影響か、天候が悪いだけでなく、気温も若干低い。海から届く風が、秋の肌を撫でる。
「ちょっと気になったんだけど、そのパーカー、サイズが大き過ぎない?」
眼鏡の少女―――見野 百合香が、秋の着ている鼠色のパーカーをしげしげと眺めた。
確かにその服は、中学生の秋が着るには少し大きめで、袖の辺りなどは丈が長すぎてダボダボになっている。
「思ったより大きかったけど、色が気に入ったから着てきちゃいました」
照れ臭そうに顔を綻ばせる秋。が、彼は別に気に入ったからこの服を着てきた訳では無かった。
今朝の天気予報で今日一日肌寒くなることを知った秋は、百合香が寒さに震えることを予想してわざと大きめの服を用意したのである。
彼の計算では、百合香はノースリーブで胸元の開いた少し露出度の高い服装で来る筈だった(計算というよりそうなって欲しいという期待であるが)。
そしていざ会場に着いて予報以上の寒さに凍える百合香に、サッと自分が着ていたパーカーを脱いで差し出す。
そうすると彼女は秋の優しさにメロメロになり、より仲良くなれる―――というのが、秋の思い描いたプランだった。
だが現実は、百合香はクリーム色のチェスターコートに身を包んでいる。秋が気付くくらいだから、百合香もしっかり寒さ対策をしてきたのだ。これでは服を差し出して優しさアピールをするどころか、腋も胸の谷間も見られやしない。
秋は少し不満そうに、オレンジ色の背凭れに体を預けた。

* * *

戦術の確認を済ませた両チームが、ピッチに整列する。キャプテンとして先頭に並んだ円堂は、自分の目の前に立った豪炎寺を見て驚き、そしてすぐに笑みを浮かべた。
「豪炎寺、この日を待ってたぜ。」
「俺もだ、円堂。」
「けどお前のキャプテンマーク、似合わないな。」
豪炎寺の左腕に巻かれたキャプテンマークを指差し、円堂が苦笑する。
バツが悪そうな顔の豪炎寺も、小さく笑った後、鋭い眼差しを相手に向けた。
「似合わないのは百も承知だ。…だが、このキャプテンマークに誓って、俺は雷門を倒す。」
「望むところだ!絶対負けねえぞ!!」
がっちりと握手を交わす二人。コイントスの結果、先攻は木戸川となった。
両チームの選手達が、ポジションにつく。
木戸川のフォーメーションを見た古株は、嬉しそうにニコニコと笑った。
「豪炎寺と武方 勝の2トップか。二回戦で宿敵を破ったもんだから、ゲンを担いだといったところかの。」
豪炎寺をトップに据えるのは容易に想像がついたが、その相方に勝を置く布陣は、ジェミニストーム戦の再現のように思えた。
86-0で敗れた因縁の相手を倒したコンビを起用することで、惜敗を喫した雷門にもリベンジを果たそう、ということだろうか。
ジェミニ戦と違うのは、ベタ引きの守備的な布陣ではなく、4-4-2の攻守にバランスの取れたシステムである点だろう。
例の、馴染みの良い4バックはそのままに、ボランチは茂木と屋形、右サイドに友、左サイドに努。これは良く見ると、雷門のフォーメーション、F-ベーシックと同じではないか。
雷門は、豪炎寺にとっても特に意識するチーム。それだけに、豪炎寺が動きやすい布陣を選んだのかもしれない。
「さあ、フットボールフェスティバル五回戦!雷門中学VS木戸川清修中学校の試合が、いよいよ始まろうとしています!」
スタジアムの電光掲示板下、放送席に座った角馬 圭太がマイクを握る。
やはり雷門の試合に、この男は欠かせない。しかしながら、放送席の機材を使う許可は取っているのだろうか。
無断であそこに座っているのなら、だいぶまずい気がする。雷門ベンチの目金やマネージャー達は、不安そうに、そして呆れた様に角馬を見つめた。
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