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イナズマイレブンX -Another episode-

原作: その他 (原作:イナズマイレブン) 作者: ゆりっぺ
目次

キャプテン豪炎寺、誕生

「だが、お前達だって、その強敵を倒すために今日まで練習してきたよな。」
「はい!…へっ、世宇子中の奴らには感謝しねえとな。」
勝が威勢よく笑って見せる。
三回戦終了後、二階堂監督が合同練習の話を持ってきた。
相手は今年のフットボールフロンティア準優勝校、世宇子中。
思わぬ強豪との練習の機会に、全員が、豪炎寺までもが、目を丸くして驚いたのを覚えている。
影山の逮捕に伴い、監督が不在となっていた世宇子中も、打倒雷門に向けて燃えていた。フットボールフェスティバルから新監督が就任したとの噂を聞き付けた二階堂は、早速合同練習の誘いのメールを送ってみたのだ。結果、世宇子側もこれを快諾。1日だけとはいえ、今年の全国大会上位入賞チーム同士の、夢の共演が実現した。
練習試合や両チーム混合のサッカーバトルなど、様々なメニューをこなした結果、世宇子中は『神のタクトFI(ファイア・イリュージョン)』を、木戸川も新たな必殺タクティクスを修得するに至った。四回戦、世宇子中は早速その新タクティクスを使い、和製アフロディ・”アマテラス”こと天照 大神(あまてる ひろみ)率いる高天原中を破ったと聞く。
木戸川の方は新たなタクティクスを使う機会がなかったが、この雷門戦ではいよいよ使用するチャンスを迎えるかもしれない。
「スターティングメンバーは四回戦と同じだ。フォーメーションも伝えた通り。…だが、もし『あれ』を使う必要があると判断したら、適宜システムを弄るから一応頭に入れておいてくれ。」
「「「はい!!!」」」
「それと、ゲームキャプテンは今回、豪炎寺に任せようと思う。」
「え?」
監督の思わぬ言葉に、普段冷静な豪炎寺も呆気にとられていた。
「勝とも相談済みだ。相手が雷門だけに、勝ちたい気持ちは一番強いだろう。キャプテンとしてチームを纏め、仲間を活かし、勝ち星を挙げて来い!」
「…はい!!」
豪炎寺が二階堂からキャプテンマークを受け取る。普段あまり手にしたことのない手触りに、豪炎寺は不思議な感覚に陥っていた。
興奮とも緊張とも重圧ともつかない、いずれにしても、これまでエースストライカーとして得点を量産することを生業としてきた彼には、体感したことのない感情。
「(円堂は、いつもこの感覚を味わっていたのだろうか。)」
それとも、常にキャプテンを務めるうちに、気にならなくなったのだろうか。
反対側のベンチで古株の指示を仰ぐ戦友に一瞥をくれ、豪炎寺はキャプテンマークを腕に巻いた。
脳裏を過る、円堂の姿。帝国学園との練習試合に向けて、部員集めに奔走する、熱血キャプテンの姿。
試合に於いては、チームを支える精神的主柱となる。どんな逆境に立たされようと、どんな苦境に陥ろうと。
懐かしい戦友の姿に、思わず感傷に浸りそうになる。が、その思い出を振り払い、豪炎寺は静かに闘志を燃やした。
「(円堂、みんな…全力で行かせて貰うぞ…!)」
しっかりとキャプテンマークを巻きつけ、深く深呼吸する豪炎寺。そんな彼の姿に目を細めた二階堂は、これから試合に向かう教え子達に激励を飛ばした。
「さあ、そろそろ時間だ!相手が誰であろうと、油断や慢心は捨てて戦え!そして60分後…勝って此処へ帰って来い!」
「「「はい!!!」」」
「それと…」
二階堂は言葉を切ると、再び選手達を見回した。
「このメンバーで戦えることに感謝して、試合に臨め。勝利を目指すのも勿論だが、悔いのないよう楽しんで来い。」
「はっ。監督、やっぱりそれ言うんスね。みたいな?」
「中々言い出さないから、言うのを忘れているのかと思いましたよ。」
「それを聞かないと、何だか落ち着かないんだよな。」
勝、友、努が愉快そうに笑った。彼らに釣られて、他のイレブンも表情を緩める。フットボールフェスティバル一回戦、清水インテルス戦の試合前から、二階堂は同じことを言ってきた。
一回戦から数えて、もう5回目となる。選手達もいつ監督が同じことを言うのか、今か今かと待っていたのだ。
『試合を楽しんで来い』。それは、”四天王”の名にしがみついていて…武方三兄弟をはじめ、スタンドプレーに走りがちだった頃の木戸川清修には絶対になかった考え方だ。
雷門戦での敗戦は、木戸川イレブンのプレースタイルや監督の指導方針を変えただけでなく、チームの行動理念にもゆとりを与えたというところだろう。
「はは、どうやら俺も雷門戦で浮足立ってしまったらしい。つい言うのを忘れてしまった。」
照れたように頭を掻く二階堂。元々フレンドリーな性格の男だが、締めるべきところはきっちり締める一方、ふとした瞬間に雰囲気を緩めることで、選手のモチベーションをコントロールするのが巧い。いつもの『お約束』を言い忘れたのも、ムードメーカーの武方三兄弟にツッコませて緊張を解すための仕込みだろう。選手達だけでなく、監督自身も雷門戦を意識していると印象付けることで、選手に親近感を持たせて安心させるのが狙いか。木戸川イレブンの中で、そのことに気付いたのは豪炎寺だけだった。
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