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スイと狼殿

ジャンル: ハイ・ファンタジー 作者: そばかす
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第36話

 「騎士道精神」を発揮したアスラム王子は、氷のような青い瞳で、超王モームの背中を見つめていた。アスラム王子は感情が希薄なところがあった。料理を食べても甘い辛いはわかっても、美味いということが理解できないように。何をしても「退屈だ……」と感じてしまうように。スイに出会うまでのアスラム王子はまさしくそんな様子だった。アスラム王子の強さの秘密は何かと、アスラム王子をよく知る者に訊ねたとしたら「精神力だ」と答えるだろう。あの青い瞳に宿る絶対の精神力だ、と。聖剣バルガッソーを振るうことはできても、その力を解放して、使いこなす、つまり本当の意味での狂戦士モードを狂わずに扱うことができたのは、伝統ある聖王家の歴史でも魔王ファランクスを討ち取った聖王グリムナードと、アスラム王子だけであった。
 超王モームは樹海に消えた。
 しかし、無論、アスラム王子は超王モームを逃がすつもりはない。
《勝利への道》
 アスラム王子がそう呟くと、アスラム王子の足元から一直線に細長い白い光の絨毯のようなものが伸びた。姿の見えない超王モームに向かって。その光の絨毯に触れた木はへし折れ、岩は跡形もなく崩れ去る。アスラム王子の魔法だ。そしてその白い光の絨毯は、ある小男をとらえた。
 超王モーム。
 超王モームは脂汗びっしょりの顔をして、ふひふひと荒い息を吐きながら走っていたが、ふいに下を見て、いつのまにか敷かれた白い絨毯を凝視。首だけで後ろを向く。背後に立つアスラム王子を見て、目がとびださんばかりに驚いた。
 樹海の中に細長い白い光の絨毯が敷かれていた。
 一方にはアスラム王子が立ち、もう一方には超王モームが立っている。
 超王モームは、足元の絨毯から伸びた白い光のロープで縛り上げられた。
「あ、わ、わ…………待て! 待ってくれぇぇぇぇぇぇ…………!!」
 アスラム王子は突きの構えをゆっくりととった。
 超王モームは首を背後にめぐらして叫んでいる。
「は、話を聞いてくれぇぇ! 騙されたんだ! ザッパーとかいう魔物にそそのかされたんだ。魔物こそが人類共通の敵! 聖王騎士団の敵! ……そ、そうだろう? だからその聖剣も力も聖王グリムナードのように魔物どもに向けるべきなのだッ!」
 アスラム王子の背中からまるで火山の噴火のように勢いよく白い光が噴き出しはじめた。その勢いがどんどん増していく。
《神技・バルガルス》
 アスラム王子がそう叫んだ瞬間、背後から噴き出す白い光が最高潮に達した。同時にアスラム王子が噴射によって凄まじいスピードで《勝利への道》を飛ぶように直進し、超王モームに迫った。
 超王モームは叫んだ。
「動けない敵を背後から、それでも貴様は騎士かアァァァァ……!!」
「塵に還れ」
 アスラム王子は冷淡に呟いて、聖剣を超王モームに突き立てた。
 聖剣バルガッソーが超王モームを引き裂く。超王モームの肉体は引き裂かれつつも顫動し、傷を塞ごうとする。しかしアスラム王子の一撃の威力がまさっていた。超王モームの体内に強烈な魔力を放つ深紅の結晶体をみつけると、聖剣にさらに力を込めて砕く。深紅の結晶体、《超王の核》は砕け散った。
 アスラム王子の背中から噴き出す白い光、これを見た者は聖王騎士団広しといえど数えるほどしかいない。それを見た者はこの白い光の翼を、天使の羽と呼んでいた。けど、もしスイがこの王子の羽を見たのなら、「ほんとうに羽みたい」と驚いたあと「おっきさからも形からも絵本に描かれた竜そっくりね」と続けたかもしれない。
 アスラム王子が超王モームの体から聖剣を引き抜いた。白い絨毯が消える。
 超王モームの死骸が樹海の薄汚れた大地に転がった。
「お見事!」
 くだけた調子で青年ナハトがアスラム王子に向かって言った。ナハトの背中にスイが寝ているのを見て、アスラム王子は安心したように微笑んだ。スイとナハトの元に駆け寄る。
「どうやら両方片づいたようだな」
「そのようだ」
 ふたりがこの森に入って、はじめて気を抜いた瞬間。いきなり現れたツタがスイを絡め取った。ツタに見えたのは植物でなく、魔物などが稀にもっている肉でできたツタ、触手。血塗られた触手はまるで腸そのもののような形をしている。
 その触手とスイが消えた方向を見て、アスラム王子とナハトはさすがに唖然とした。
 ついさっきまでなかったのに、巨大な肉の塊ができていた。その場所は超王モームの死骸があった場所のはず。ぶよぶよとした肉の塊から無数の醜い触手が生えて踊り、肉の背中に当たる部分が裂け、そこから数十本の触手が現れて、手当たり次第に辺りの物を掴み取っている。肉の塊は痛みに震えているように見えた。ぶよぶよとした肉の塊は、自らの膨張により血を噴き出しながら、どんどん増殖していく。
「超再生とやらの暴走か……!」
 アスラム王子がつぶやいた。《超王の核》が砕け散った破片となって体内に散ったため、超王モームの死体が暴走を始めたのだ。
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