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進藤ヒカルが子役になったら〜ヒカル(偶に佐為)のシリアルな逆行記〜

原作: ヒカルの碁 作者: 御影 雫
目次

1話

進藤ヒカルは40年以上7冠に君臨し続けた。30年以上黒星が付いたことはなく、囲碁界の皇帝として長きにわたり君臨した。

しかし皇帝は不満であった。囲碁は2人で打つもの。1人の実力が飛び抜けた状態では、神の一手を極めることは出来なかったのだ。

皇帝は失意のまま息を引き取り、3歳まで逆行した。

「ホントありえねぇっての!」

そうボヤきつつもヒカルの顔は明るい。何故なら、

「まぁ、また一緒にいられるわけですし、いいではありませんか。」

かつて師事し背中を追い続けた幽霊が、共に逆行していたからだ。

佐為は役目を果たし天へと召されたが、そこでヒカルの悲痛な叫びを耳にした。そして心残りが大きくなりすぎ、転生出来なくなってしまったのだ。

佐為はヒカルを傷つけたことを悔いながら、60年間ヒカルを見守り続けた。そして失意のうちにヒカルが死亡したのを見て、酷く狼狽え神にすがった。その結果、一度限りではあるが、2人は人生を遡ることになったのだ。

「ヒカルはまたプロになるのですか?」

「ならねぇよ。だってアイツ等弱いし。それに地元権力者との食事会とか、面倒な相手との接待碁とか、もうこりごりだ。囲碁は佐為と2人で打てたらそれでいい。」

40年以上囲碁界のトップに君臨し続けた進藤ヒカルにとって、プロ棋士との試合は魅力のあるものではなくなってしまったのだ。むしろヒカルを見続けた事により棋力が向上し、現時点でヒカルと互角の力を持つ佐為と打つ方がよほど楽しいし、勉強になるのである。

「まぁ、それならいいですけど・・・どうします、お金?今は子供だからいいですが、ヒカルから囲碁とったら何も残りませんよ?まともな職にあり付けるかどうか・・・。」

「・・・。まあ前の俺なら事実だろうけど、今回は何とかなるんじゃねぇの?75年分の経験がある強くてニューゲーム状態なんだし。」

「だといいんですが。ヒカルは前世でも中学校までしか通っていませんでしたし、私の目から見ても囲碁以外の知識や教養はすっからかん。不安です。」

「まぁ、なるようになるって。」

気楽に構える進藤ヒカル。そして、その読みは当たるのだった。


「ヒカル、この子供の役受けてみない?」

「連ドラのヒロインの連れ子か〜。13話中7話出演でギャラは1話で140万。悪くないね。しかし、大分ギャラも上がってきたなぁ。お母さん、いつも通り貰った額の5割は俺の口座に入れておいてね〜。」

急に大人っぽくなった我が子に初めは戸惑った母・美津子だが、黙っていれば可愛い我が子を見て親バカに目覚めたらしい。知らない間に芸能事務所へ履歴書が送られており、そして合格してしまったのだ。

芸能事務所もヒカルの年齢不相応の落ち着きや行儀の良さ、ルックスに期待を寄せているらしく、業界素人のヒカルから見ても、明らかに良い役をオーディションも無しに紹介してくれる。

ヒカルとしても金が入るなら文句はないため、ギャラは(ブランドバッグ等買って)浪費したりせず、半分はヒカルの口座に貯金することと、ヒカルの小遣いを増やすことを条件に選り好みせず仕事を受け、着実に実績を積み重ねていった。

台本は囲碁で培った記憶力が役に立ちすぐに覚えられるし、仕事の合間も佐為と脳内囲碁や脳内検討会を行っていれば、時間は無駄にはならない。そしてタイトルホルダーの手合料より高いギャラ・・・天国のような仕事だった。

またドラマ・バラエティ・歌手活動と多岐にわたる芸能活動は、ヒカルの好奇心をそそるものであり、仕事自体にもそれなりに愛着を持つようになっていった。

現在進藤ヒカル7歳。気がつけば、忙しすぎて授業に出席したことがないくらい、山のような仕事を抱える、日本一の売れっ子子役になっていた。

「まあブームが去って仕事がなくなっても、貯金はしてもらってるんだし、親に寄生せずに済むんだから別にいいや。どうせ俺に勉強とか無理だから学校通う意味ねぇしな。」

「ですね。」

などとお気楽な考えをしているが、事務所にとってヒカルは、子供なのに話が通じて仕事もそつなくこなす看板子役。半年先まで毎日びっしりとスケジュールが埋まっている以上、当分そういう事態にはならないであろう。


逆行前の世界を知るヒカルにとって予想外だった出来事が1つある。幼なじみである藤崎あかりが、ヒカルの影響を受けて囲碁にハマり、プロを目指していることだ。

幸い幼い時期に始めたためか、逆行前のあかりと違い成長が著しく、7歳にして院生試験に合格した。このまま順調に成長すれば、塔矢アキラよりも早くプロになれるかもしれない。

自分はプロになる気がないヒカルだが、あかりの育成には精力的に取り組んだ。あかりは逆行前のヒカルの妻だった(30歳になった時あかり母に行き遅れの責任を取らされた)し、現在も明らかに自分に好意を寄せているあかりを可愛く思っているためだ。流石に7歳児相手にそういう感情は抱かないが・・・。

今もパソコンやスマホを使い、時々空き時間に指導対局を行っており、またあかりが集めてきたプロの対局譜の検討も、佐為と共にメールで毎日行っている。あかりが持つパソコン・スマホ・碁盤・碁石・雑誌等囲碁に必要なものは、全てヒカルがギャラで買ってやった物なので、あかりの両親からも文句は出ていない(忙しくて時間を取ってあげられないからで片付いた)。


ヒカル、佐為、あかり共に、逆行前とは全く別の人生を爆走しているが、本人達は充実した毎日に満足しているため問題ないのである。

しかしヒカルは超有名な売れっ子芸能人、あかりは才能あふれる美少女。周りのモブ達はそっとしておいてはくれなかった。
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