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乙女、大蛇に丸呑みにされ、快楽に墜つ

ジャンル: ハイ・ファンタジー 作者: 内角たかめ
目次

魔法使いマリアンヌと大蛇ナルググ⑤(丸呑み)

「さて、それでは頂くとするか。久しぶりのおなごじゃ。よく、味わうとしよう」

 ナルググは、今までの話し声より僅かに高い、弾んだ声で言った。

 鎌首を持ち上げ、大蛇の顔がマリアンヌの頭上に位置取り、影を落とした。ナルググは、竜ドラゴンのように巨大な口を広げる。まだ、尻尾で掴まれたままのマリアンヌの頭に、開いた大口から粘着質な唾液が、ドロドロと流れていく。バケツの水をひっくり返したような量の唾液が、マリアンヌの鼻と口を塞ぎ、呼吸が一瞬だけできなくなる。口を覆った粘液が、プクーっと膨れてから、シャボン玉のように破裂した。マリアンヌの頭部は、水飴でコーティングされたかのように、艷やかに輝いている。桃色の髪は、ベッタリと頭皮に貼り付き、綺麗な楕円のシルエットを、浮かび上がらせていた。

 ナルググは大口を開けて、マリアンヌの肢体を呑み込もうと、頭を下降させていく。マリアンヌは、目前に迫る大蛇の口内を見上げる。

「ひっ……」

 マリアンヌの目の前に広がるのは、赤黒い肉の空間。唾液で、ぬらぬらと艶かしく揺らめく内壁は、すでに彼女を受け入れる準備を始めていた。口内には、格納された長い舌も確認できる。そして、大口の真ん中にある肉の隙間、漆黒色をしたその空間は、何もかもを吸い込んでしまいそうであった。

 湿度の高い熱気を、肌で感じて、マリアンヌの顔からは血の気が引いている。食される寸前まで、大口が接近したことを彼女は理解した。

「……い、いやだぁ! 死にたくないよぉ……」

 恐怖で顔を引きつらせ、思わずマリアンヌは、命乞いをしてしまう。

「お、お願いします……。助けてください……」

 普段の強気な彼女からは、絶対に聞けないであろう言葉が、最期の台詞となった。ナルググは、マリアンヌの懇願の言葉を聞き過ごし、ついに人間一人を、咥えこんだ。

「んグゥゥゥ――⁉」

 ナルググの大口は、横に大きく伸びて広がり、自らの尻尾ごとマリアンヌの半身を、いとも容易く口内へと招き入れる。広間にはくぐもった悲鳴が響くだけで、マリアンヌの声が外に届くことは、もう二度となかった。

(……ううっ、真っ暗で何も見えない……)

 分厚い蛇の皮が完全に外の光を遮り、マリアンヌは失明してしまったかと、勘違いしてしまうほどの暗黒に覆われてしまった。



 大蛇の口に覆われ、マリアンヌの身体の上半身は隠れている。下半分は、きゅっと締まったお尻が出ており、その付け根からは、艶めかしい二本の脚が伸びている。口の中で、むせ返るような熱気にあてられて、マリアンヌは嗚咽を漏らす。遅ればせながら、マリアンヌは自分の身体に、変化が現れていることに気づいた。硬直状態だった身体が、動かせるようになっている。魔眼の効果が解けたのだ。魔眼に直視さえされなければ、その効力は及ばないようだ。

 しかし、いくら身体が動くようになったからといっても、最悪の状況には変わりはない。

「こ、この……このぉ!」

 マリアンヌは、まだ呑まれていない足腰をばたつかせ、拘束から逃れようとする。

「いやぁ、死にたくない……。助けてよぉ!」

 彼女は、今にも泣き出しそうな顔で、救いの声を求めるが、その声はナルググには届かない。

「暴れても無駄じゃ。大人しく、食われてしまえ」

 ナルググはそう言い、顎を持ち上げ、天井を仰ぎ見る。天地が逆さまになり、マリアンヌの身体は、くの字に折れる。大蛇の口からは、彼女の脚部がぷらんと垂れていた。そしてマリアンヌに巻き付いていたナルググの尻尾が、ゆっくりと解かれ、胸や腕が、やっと圧迫から開放された。だがそれは、彼女を丸呑みするための準備であった。

(――このままじゃ、落ちちゃう!)

 重力に従って、マリアンヌの身体が、徐々に喉奥へと向かって落ち始める。全身を呑み込まれてしまったら、もう助かる術は無いだろう。彼女は、最期の抵抗とばかりに手を突っ張り、身体を支える。ナルググの口内の内壁は、唾液でぬるぬると湿っていて、少し衝撃を加えられたら、手の平が滑り、落下してしまいそうだ。

「う、ぐぅ……」

 マリアンヌは、最期まで諦めない強い意志を保っていたが、だんだんと腕が疲弊していき、やがてその力は限界を迎えてしまう。

「――い、いやぁっ‼」

 ぷるぷると疲労して、震える腕から力が抜け、ずるりと手の平が滑った。マリアンヌの身体は、支えを失って、一気に口内を滑り落ちてしまう。じゅるっと音を立てて、ナルググの体内に彼女の全身が、完全に収まってしまった。マリアンヌはそのまま、大蛇の食道をゆっくりと落下していく。



 逆さまで、両手を上げた姿勢のまま、ぬるぬるした肉の通路を、マリアンヌの身体が通り抜けていく。ナルググの食道は、蠕動運動を繰り返し、彼女の身体を奥へ奥へと運んでいった。外側から見ると、人間一人の膨らみが、大蛇の鎌首にできていて、そこに彼女がいるということを教えてくれる。

(い、息が……くるしい……)

 ブヨブヨした肉壁に覆われた、狭い空間で気道が塞がり、マリアンヌは酸素不足に陥る。

「ん、んごおぉぉぉ……」

 途切れそうな意識の中で、マリアンヌは一人でダンジョンに潜ってしまった後悔を、噛みしめていた。絶望の直前、走馬灯のように、過去の記憶が頭をよぎった。

――思い出すのは子供の頃、母に魔法を初めて見せて、褒められたときのこと。

「凄いわ、マリー! この歳で魔法を、使えるなんて!」

 あの時の、歓喜に満ちた母の顔は、いつまで経っても忘れられない。ワタシはそれが嬉しくて、新しい魔法をどんどん覚えていった。

――生まれた街から、遠く離れた魔法学校に通うため、家を離れるときのこと。

「身体には気をつけるのよ。忘れ物はない? いつでも、あなたの帰りを待ってるわ」

 母はにっこりと、ワタシに微笑んだ。

「わ、わかってるよ……。それじゃ、いってくるから」

 そうぶっきらぼうに返事をして、家を後にした。いつまでも、見送っている母を後ろに見やり、街道を歩いていく。遠くに見えた母の目元は、朝焼けを反射してキラリと光っていた。

(もう一度……お母さんの、笑う顔が見たいな……)

 マリアンヌは、もう叶わない願望に涙しながら、少しの間、意識を失った。
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