ネット喫茶.com

オリジナル小説や二次創作、エッセイ等、自由に投稿できるサイトです。

メニュー

乙女、大蛇に丸呑みにされ、快楽に墜つ

ジャンル: ハイ・ファンタジー 作者: 内角たかめ
目次

魔法使いマリアンヌと大蛇ナルググ①

 ここはとある街の酒場。一人の女冒険者がカウンターに座っていた。

「不老の宝玉か。確かにあのダンジョンにはそういった噂があるが……悪いことは言わねえ、やめとけお嬢ちゃん」

 酒場の店主は、冒険者の問いにそう答える。

(やはりあそこに不老の宝玉があるの? これは……行くしかない!)

 ニヤリと口角を上げる彼女に気づかず、店主は話を続ける。

「ダンジョンの最奥、そこにいるボスが宝玉を守っているらしい。このボスがとんでもなく強くてな……そのダンジョンが未だに未踏破なのは、そいつのせいさ」

「ふーん。とんでもなく強いボスかぁ……」

 髪を指でくるくると弄びながら、口を尖らせる女冒険者。

「情報ありがとう。お礼に追加で注文するわ」

 「毎度」と店主はつぶやき、業務に戻った。注文された酒を作りに行く店主を、横目で見送り女は不敵に笑っていた。

 今店主と話していた彼女の名前は、マリアンヌという。炎のような真っ赤なローブに身を包んだ彼女の職業ジョブは、魔法使ソーサラーいだ。無断欠席が多くて、主席にはなれなかったが、魔法学校を優秀な成績で卒業している彼女は、今年十八歳になったばかりである。ミディアムヘアの桃色の髪は、風に当たるとさらさらと美しくなびき、黄金色の瞳は、水晶のように澄んでいた。ドレスのようなローブは、大振りの乳房を包み、美しいボディラインの曲線を描いている。酒場の暖炉の火が、端麗な横顔を照らし、艶かしく揺らめく。酒場の男性客の多くは、マリアンヌの美しい顔に見惚れており、彼女はその突き刺さる視線を感じていた。



「おい、そこのねえちゃん。ダンジョンに行くのか?」

 チンピラ風の冒険者が、ニヤニヤと笑みを浮かべながら、マリアンヌに声をかける。

「ええ、そうよ」

 マリアンヌは、涼しげな顔でそう言った。

「ダンジョンに行くならよぉ、パーティを組んだほうがいいんじゃねえか? あのダンジョンのモンスターには、道中も手こずるぞ。俺達と一緒にどうだ?」

「ふっ、悪いけど結構よ。心配には及ばない」

「まあまあそう言わずに……」

 とマリアンヌの肩に、手をかける男。マリアンヌの目が吊り上がり、その手を払いのける。

「汚い手で触らないで」

 チンピラ男を鋭い目で睨みつけ、マリアンヌは冷たく言い放つ。

「ちっ、こっちが下手に出てるからって、調子に乗ってんじゃねえぞ!」

 チンピラ男が、マリアンヌの襟元を掴もうと手を伸ばす。それをマリアンヌは、ひらりとバックステップで躱す。酒場全体は男の怒号で静まりかえり、客たちは二人の様子を見守っていた。

「先に手を出したのは、そっちだからっ! 後悔しないでよ?」

(――ウインド・カッター‼)

 マリアンヌの手先から、真空の刃が放たれた。ヒュンヒュンと風切り音が聞こえた後、見えない風の刃が空間を切り裂き、男の服を切り刻んで、一糸纏わぬ姿になってしまう。チンピラ男は「ひぃー!」と情けない悲鳴をあげ、股間を隠し、酒場から一目散に逃げていった。やがて、シーンとなっていた酒場がざわつき出す。

「おい、見たか⁉」

「今の、無詠唱魔術だろ? 初めて見たぜ」

「べっぴんさん、つええ!」

 ざわつく酒場を見て、マリアンヌはため息をつく。

(全く……、目立つから騒ぎは起こしたくなかったのに……)

「マスター! これお代よ! ここに置いとくから!」

「おい、待てよ、お嬢ちゃん!」

 カウンターに代金を置き、バッグを持って、足早に酒場から立ち去る。呼び止める店主の声を尻目に、逃げるようにマリアンヌは退散した。



 エリンシア大陸西南部に位置する、モリナザンと呼ばれる街の、南にあるダンジョン。ここが酒場で、店主が話していた例のダンジョンである。あの騒動から一夜明け、ある冒険者が単身で、このダンジョンに潜っていた。そう、あの美しい魔法使い、マリアンヌであった。

 「道中のモンスターが手強い? どこがよ」

 そう言いながら魔法で、襲いかかる凶暴なモンスター達を消し炭にするマリアンヌ。モンスター達は、断末魔をあげる暇もなくその場へ崩れ去った。実際のところ、モンスター達は弱いのではない。マリアンヌの魔法火力が、異常なレベルで高いのだ。

 マリアンヌは、幼い頃から常人の数百倍のマナを、その体に宿していた。豊満なマナを使用して放つ魔法はまさに無尽蔵。国で数える程しかいない、無詠唱魔術も使用でき、まさに天才といってよいだろう。主に攻撃五属性の魔法を愛用し、人は彼女のことを「五属性のスペシャリスト」と呼んでいた。



 街の道具屋で調達した薬や、食事を詰めた鞄を背負い、ダンジョンの奥へとどんどん進んでいく。数時間後、遂にマリアンヌは最奥へと到達した。

「この扉……いかにもって感じね」

 何トンもありそうな巨石の扉を目の前に、圧迫感を覚えながらも、マリアンヌは怯まなかった。扉の魔法陣に手をかざすと、ズズズッと重量感を感じさせながら、扉が奥へと開いていく。巻き上がった埃が、だんだんと晴れていき、マリアンヌの瞳に最奥が映った。だが、さすがのマリアンヌも、このときの目前の光景には、目を疑った。理由は、このダンジョンのボスが、あまりにも巨大だったからである。

(う……いくらなんでも、でかすぎない⁉)

 まるで、竜ドラゴンのような大蛇だいじゃが、広間でとぐろを巻いていた。その黒い巨躯の全長は、ゆうに三十メートルを超え、呼吸をする度に黒鋼のように鋭そうな鱗が波打ち、光を反射する。大蛇の目は開いているが、眠っているのだろうか。蛇には瞼がないため、マリアンヌはそこまで分からなかった。

(でも……いくら大きくたって、ワタシの魔法一発で、消し飛ばしてあげる!)

 臆する心を抑え込み、広間に足を踏み入れるマリアンヌ。彼女が広間に入ると、ゆっくり後ろの扉が閉まっていく。どうやら、ボスを倒すまでここから出られないらしい。マリアンヌは、早速大蛇を消し炭に変えるため、魔法の準備にかかろうとする。

「……まあ待て」

 マリアンヌは地の底から響くような声に驚き、魔法の準備を中断する。大蛇が目を開き、鎌首をあげる。

(しゃ……喋った⁉)

「なんじゃ……か弱そうな小娘ではないか。キサマもワシの宝玉を、奪いにきたか?」

 どこから人語を発しているのかは不思議であったが、確かに目の前の大蛇がそう言っている。マリアンヌは、その問いに答える。

「その通りよ。宝玉はどこにあるの? あなたが守っているんでしょう?」

「如何にも。ワシはナルググという。宝玉を護る者。宝玉ならキサマの目にも映っているだろう。ワシの眼がその不老の宝玉じゃ」

 その言葉を聞いて、ごくりと唾を飲むマリアンヌ。言われた通り、大蛇の両目に、血のように真っ赤な宝玉がハマっていた。

「なら、あなたを倒して、奪うしかないってことね?」

「そういうことだ。もっとも、キサマ程度の実力では、ワシに傷一つ付けることすらできんと思うがな」

 ナルググは余裕そうに言い放つ。挑発されたマリアンヌは、ピクンと頬を引きつらせる。

「へえ、なら覚悟しなさい。今日があなたの命日よ!」

 戦闘開始だ。無詠唱で魔力を溜め、マリアンヌは最大にして、最強の魔法の準備をする。体内のマナが手の一点に集まって、濃縮していく。暴発しそうな魔力を抑え込み、制御するその過程は、並の魔法使いでは不可能な芸当だ。発射準備が整った。

「――シンク・エクスプロージョン‼」

 光の弾丸が、手の平から射出される。一直線にナルググの体にぶつかり、光の玉は炸裂した。辺りを凄まじい光量が包み込み、音すら飲み込む大爆発が、ナルググを襲った。山に打てば、山を消し飛ばす威力のこの魔法だが、発動範囲もマリアンヌは制御している。ダンジョンの広間を崩落させることはない。

 数秒の後、光がだんだんと消えていった。この魔法の難点は、光で目が慣れるまで時間がかかることだ。マリアンヌの目が慣れたとき、視界に映ったのは、魔法を受ける前と同じ状態の、無傷なままのナルググだった。

「――う、うそ……⁉」

 マリアンヌは混乱の表情を浮かべ、驚愕し、目を見開いた。
目次

※会員登録するとコメントが書き込める様になります。