にじゅうはちこめ
「見てみて、紅葉が取れたよー!」
目の前を楽しそうに駆け抜けていく彼女は、いつだって輝いて見えた。
どんな時だって彼女の周りには笑顔があふれてそんな彼女をみんな大好きだった。
それがほんの少し、ううん、とても羨ましく感じた。
けれど自分には到底そんな風に生きてはいけなくて。
彼女のように笑顔でいられる自信もなくて。
今更そんな風には変われない自分が、嫌いで仕方なかった。
「アリー、向こうで一緒に紅葉を見に行きましょうよ」
教室の隅っこに座って本を読む私に笑顔でそう言った彼女はそっと私に手を差し伸べた。
「うん、私も見に行く」そう言って彼女の手を取れたらどんなに良かったか。
結局困惑して私の顔を見てから彼女が後ろを向いて走り去るまでの間、私は彼女に何の返答も出来ないまま秋が終わり冬がやってきた。
ワイミーさんに肩にかけてもらったストールを手繰り寄せて目の前を歩く背中を見つめた。
クリーニングに出された白い服は今は彼の猫背によって少し寄れてしまっているけれど、向こうから降り注ぐ夕日に染まって少しだけまぶしく感じた。
そう言えばあの時は彼もあの場には来ていなかった。
ハウスの集まりには必ずと言っていいほど参加しない彼も、紅葉くらいは来ると思っていたのに的外れに思ったけれど今思えばあの時も彼は難事件を解いていたのかもしれない。
あんな小さな背中で、彼は随分と大きな物を背負ってしまったものだ。
普通なら投げ出してしまっても可笑しくない責任を背負って、彼は逃げ出さなかったというよりも逃げ出せなかったの方が近いのだろうか。
白い部屋で、パソコン以外何もない部屋でひとり寂しく過ごす気持ちは痛いくらいに分かる。
けれど自分で望んでそうしていたのと、そうせざる終えなかったのでは天と地ほどの差が出来てしまう。
Mt「アリーさん、そろそろ紅葉が見えるってさ」
L達のすぐ後ろを歩いていたマット君にそう言われ、顔を上げるとマット君だけではなく複数の視線が自分に向いていたのが分かった。少し、過去に戻りすぎていたらしい意識を現在に戻して「わかりました」と返答をすると随分離れてしまった彼らとの距離を見て、少しだけ寂しく感じた。
そんな私の心境を察してか、駆け寄ってきたマット君に顔を覗かれ慌てていつもの表情に戻すと、彼は眉を下げて「具合でも悪い?」なんて聞かれてしまった。
S「いいえ、こんなに歩いたのは久方振りなので少しだけ疲れてしまったのかもしれません」
「結構歩いたもんなァ、俺も普段バイクとかだから気持ちわかるよ。疲れてたのか、ならよかった」
安心したように笑ったマット君を見つめていると、何かに気付いたように慌てて手を振ったマット君は「アリーさんが疲れてたからいいって訳じゃないよ!?」と否定していて、私は納得して頷いた。
Mt「みんなで紅葉なんてなかなか来れないからさ。俺嬉しくって。でもアリーさんが元気がないなら無理に連れてきて悪かったなって」
S「元気ですよ、小さい頃は結局参加できずにいましたから紅葉狩りは初参加です」
Mt「あーそっか、アリーさんハウスの行事にはあんまり参加してなかったもんな」
S「ええ、まぁ」
参加しなかった、というより参加できなかったのほうが正しい気がする。
あの頃の私にはあの中に入っていく勇気というものがなかった。
自分がその場に入ることで何か、空気が変わってしまうのではないかと変な恐怖にとらわれていた。
心から嬉しそうに笑っている彼らに混ざってみたいと思った時には自分は随分孤立した後で、心境の変化が訪れたのはすでに後の祭りといったところだった。
だからこうして彼らと一緒に紅葉を見に来ることを楽しみにしていたのは私も相違ない。
M「アリーさん!マット!紅葉見えてきたぜ、早く来いよ!」
Mt「メロの奴はしゃんでんなァ、子供の時からアリーさんと紅葉見に行きたいってぼやいてたから余程嬉しいのかもしれないな」
S「おや、メロ君がそんなことを。」
私とマット君が追いつくと少し開けた広場のような場所の周りに紅葉が見られた。
ワイミーさんが穴場だと言っていたけれど、確かに私たち以外の人は誰もいないようだった。
L「これなら安心ですね。危険物に注意する必要もありませんし私も安心してこのお面を取れます」
月「お面をかぶることを否定しないがせめてもっと普通のにしてくれないかな。人通りのあるところでも被っているものだから隣を歩いている僕まで変な目で見られたんだが」
N「本当ですね、ひょっとこのお面なんてどこで手に入れたのです。私も後ろを歩くのが恥ずかしくて仕方ありませんでした」
月「ニア、お前のその仮面もそう変わらないぞ。手作りか?」
N「ええ、手作りです。ジェバンニが一晩でやってくれました」
L「ジョバンニの無駄遣いですね。その点私のこのお面はワタリが特注で頼んでくれたものです。日本の伝統技術で作られているので決して変な物でもセンスの悪いものでもないですよ。」
N「そうですね、ひょっとこは日本の伝統文化のひとつですし素晴らしい出来栄えです。しかし自分の顔を隠すがためにそんな伝統文化をかぶる必要はありません、ワタリさんの無駄遣いです」
月「オイオイ2人共やめてくれこんなところでケンカなんて。S、マット、2人もケンカを止めてくれ」
S「紅葉がこのような色になるのは葉緑素が分解されてカロチノイドが増えると黄色に、葉の中の養分が変化しアントシアニンが増えると赤く染まるそうですよ。自然のものは不思議なものですね」
Mt「へぇ、だから黄色い葉と赤い葉があるんだな。」
月「頼むから話を聞いてくれ」
つづく
目の前を楽しそうに駆け抜けていく彼女は、いつだって輝いて見えた。
どんな時だって彼女の周りには笑顔があふれてそんな彼女をみんな大好きだった。
それがほんの少し、ううん、とても羨ましく感じた。
けれど自分には到底そんな風に生きてはいけなくて。
彼女のように笑顔でいられる自信もなくて。
今更そんな風には変われない自分が、嫌いで仕方なかった。
「アリー、向こうで一緒に紅葉を見に行きましょうよ」
教室の隅っこに座って本を読む私に笑顔でそう言った彼女はそっと私に手を差し伸べた。
「うん、私も見に行く」そう言って彼女の手を取れたらどんなに良かったか。
結局困惑して私の顔を見てから彼女が後ろを向いて走り去るまでの間、私は彼女に何の返答も出来ないまま秋が終わり冬がやってきた。
ワイミーさんに肩にかけてもらったストールを手繰り寄せて目の前を歩く背中を見つめた。
クリーニングに出された白い服は今は彼の猫背によって少し寄れてしまっているけれど、向こうから降り注ぐ夕日に染まって少しだけまぶしく感じた。
そう言えばあの時は彼もあの場には来ていなかった。
ハウスの集まりには必ずと言っていいほど参加しない彼も、紅葉くらいは来ると思っていたのに的外れに思ったけれど今思えばあの時も彼は難事件を解いていたのかもしれない。
あんな小さな背中で、彼は随分と大きな物を背負ってしまったものだ。
普通なら投げ出してしまっても可笑しくない責任を背負って、彼は逃げ出さなかったというよりも逃げ出せなかったの方が近いのだろうか。
白い部屋で、パソコン以外何もない部屋でひとり寂しく過ごす気持ちは痛いくらいに分かる。
けれど自分で望んでそうしていたのと、そうせざる終えなかったのでは天と地ほどの差が出来てしまう。
Mt「アリーさん、そろそろ紅葉が見えるってさ」
L達のすぐ後ろを歩いていたマット君にそう言われ、顔を上げるとマット君だけではなく複数の視線が自分に向いていたのが分かった。少し、過去に戻りすぎていたらしい意識を現在に戻して「わかりました」と返答をすると随分離れてしまった彼らとの距離を見て、少しだけ寂しく感じた。
そんな私の心境を察してか、駆け寄ってきたマット君に顔を覗かれ慌てていつもの表情に戻すと、彼は眉を下げて「具合でも悪い?」なんて聞かれてしまった。
S「いいえ、こんなに歩いたのは久方振りなので少しだけ疲れてしまったのかもしれません」
「結構歩いたもんなァ、俺も普段バイクとかだから気持ちわかるよ。疲れてたのか、ならよかった」
安心したように笑ったマット君を見つめていると、何かに気付いたように慌てて手を振ったマット君は「アリーさんが疲れてたからいいって訳じゃないよ!?」と否定していて、私は納得して頷いた。
Mt「みんなで紅葉なんてなかなか来れないからさ。俺嬉しくって。でもアリーさんが元気がないなら無理に連れてきて悪かったなって」
S「元気ですよ、小さい頃は結局参加できずにいましたから紅葉狩りは初参加です」
Mt「あーそっか、アリーさんハウスの行事にはあんまり参加してなかったもんな」
S「ええ、まぁ」
参加しなかった、というより参加できなかったのほうが正しい気がする。
あの頃の私にはあの中に入っていく勇気というものがなかった。
自分がその場に入ることで何か、空気が変わってしまうのではないかと変な恐怖にとらわれていた。
心から嬉しそうに笑っている彼らに混ざってみたいと思った時には自分は随分孤立した後で、心境の変化が訪れたのはすでに後の祭りといったところだった。
だからこうして彼らと一緒に紅葉を見に来ることを楽しみにしていたのは私も相違ない。
M「アリーさん!マット!紅葉見えてきたぜ、早く来いよ!」
Mt「メロの奴はしゃんでんなァ、子供の時からアリーさんと紅葉見に行きたいってぼやいてたから余程嬉しいのかもしれないな」
S「おや、メロ君がそんなことを。」
私とマット君が追いつくと少し開けた広場のような場所の周りに紅葉が見られた。
ワイミーさんが穴場だと言っていたけれど、確かに私たち以外の人は誰もいないようだった。
L「これなら安心ですね。危険物に注意する必要もありませんし私も安心してこのお面を取れます」
月「お面をかぶることを否定しないがせめてもっと普通のにしてくれないかな。人通りのあるところでも被っているものだから隣を歩いている僕まで変な目で見られたんだが」
N「本当ですね、ひょっとこのお面なんてどこで手に入れたのです。私も後ろを歩くのが恥ずかしくて仕方ありませんでした」
月「ニア、お前のその仮面もそう変わらないぞ。手作りか?」
N「ええ、手作りです。ジェバンニが一晩でやってくれました」
L「ジョバンニの無駄遣いですね。その点私のこのお面はワタリが特注で頼んでくれたものです。日本の伝統技術で作られているので決して変な物でもセンスの悪いものでもないですよ。」
N「そうですね、ひょっとこは日本の伝統文化のひとつですし素晴らしい出来栄えです。しかし自分の顔を隠すがためにそんな伝統文化をかぶる必要はありません、ワタリさんの無駄遣いです」
月「オイオイ2人共やめてくれこんなところでケンカなんて。S、マット、2人もケンカを止めてくれ」
S「紅葉がこのような色になるのは葉緑素が分解されてカロチノイドが増えると黄色に、葉の中の養分が変化しアントシアニンが増えると赤く染まるそうですよ。自然のものは不思議なものですね」
Mt「へぇ、だから黄色い葉と赤い葉があるんだな。」
月「頼むから話を聞いてくれ」
つづく
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