にじゅういっこめ
「何しているんだ?みんなしてテレビの前に集まったりして」
それぞれが自由気ままに生きている彼らは捜査終了後、バラバラになって行動するというのにその日に限って全員テレビの前に集まっている光景は異様だった。
食い入るように見る先のテレビに映っているのは日本の夏の風物詩である「花火大会」の映像。
やはり海外の人間からすれば珍しいのだろうかと月は熱心にそれを見ている彼らをそっと後ろから見守った。
「綺麗ですが、この人ゴミの中を行くとなると気が引けますね」
「そうですね。テレビで見るよりは迫力のあるものが見れそうですが、たどり着く前に着かれてしまいそうです。」
ニアとLはどこか消極的であるが、時折屋台のほうが映ると前のめりになって「実物を見るのもよいですね」「あのお面を買いに行くだけでもよさそうです」と会話しながら画面にくぎ付けだ。
「あの2人は花火、というより屋台に興味があるんだな」
「そうですね。結局行かないって方向になりますが」
「あんなに食い入って見ているのに?」
テレビから目を離すことなく頷いたSに、月は彼女の隣に腰掛けると前で地べたに座りながら何やら屋台談義に花を咲かせている2人を見つめた。
片方は屋台に売っているりんご飴、わたあめなどについて話している隣ではお面や射的の景品の話をしている。お互いに自身の好きなものについて好き放題語っているというのに何故か話が進んでしまっている。
「お面ならばワタリが作れるのでは?出店のものよりもきっと良質なものを作ってくれますよ」
「あの素朴さがいいのですよ。ワタリさんにお願いすればそれは最高品質のものが手に入るでしょうけれど。それを言うならLのいうものだってワタリさんに頼めばもっと美味しいものが手に入るのでは?」
「私だってたまにはああいった場所のものを欲することだってあるのです。でも確かにそうですね、ワタリに頼んだ方が早く手に入ります。連絡を入れましょう」
「私の方もお願いします」
結局、祭りのほうに惹かれても、ワタリの作るもののほうが圧倒的に良質な物であるという結論にたどり着き、このような花火大会のテレビを見ていてもワタリの仕事が増える一方である。
「これが1時間前から行われていますが、彼らには老紳士を労わるという気持ちは備わってはいないのでしょうか。」
「ワタリが老人、という感じを見せない働きを見せるから労わる対象にならないんじゃないか?俺もあとでチョコレート頼む」
「言っている傍から君は。では私の角砂糖もついでに頼んでおいてください」
「結局Sも頼んでいるじゃないか」
月に苦笑いされながらも結局彼らはワタリに頼り切ってしまう節が多い。
そんな彼らの要望に迅速に答えてしまうワタリだからこそなのだが、いつか過労で倒れやしないかと少し心配になってしまうのも確かだった。
「そのうちワタリに暇を貰いたいなんて言われたらどうするつもりなんだ?」
「まあ今の仕事量から考えるにそう言われてもおかしくないこともありませんね」
Lひとりの面倒を見ていた時でも、忙しく動いていたというのに捜査本部がにぎわうにつれてワタリの仕事が増えてきたのも確かだった。
「Sはなんでそこまで余裕なんだ?」
「ワタリに頼りすぎるのも問題だなと考えていたまでですよ。明日一日は私たちだけでほしいものは揃えるというのはどうでしょう。」
「それはあれか?アリーさん、ワタリさんに1日休暇をってこと?」
「ええ、そうです。このメンバーでは些か不安ではありますが、ワタリさんにやめられても困ります。明日限りはそれぞれの欲しいものは各自で持ち寄りましょう」
「俺とマットは大丈夫だけど、Lとニアは死ぬんじゃないか?」
「そうですね、あの2人がまともに生きていけるとは思えません。しかしそこは自己責任でお願いします」
「頼りすぎるというのは同感だけど極端すぎないか?」
Sの提案に最初は反対していた彼らであったが、Sに「いい年をして自分の世話も出来ないとでも?」と首を傾げられてしまえば二つ返事に了承を得て明日一日だけ、ワタリに休暇をということで話が付いた。
どの道、彼らが休暇をと言おうが裏方として動いているのがワタリであるが彼らの世話が休みになるというだけでも仕事量は半減するだろう。
「ではそういうことにしましょう、明日一日はワタリさんに頼ったら殴るって事で」
「アリーさんが殴りかかってくるの!?なにそれ超怖い。俺明日休んでいい?」
「私は殴りませんよ、その辺のボクサーでも連れてきます」
「アリーさん俺たちに恨みでもあんのか?」
こうして祭りの話から急にワタリを働かせすぎ問題に発展して、明日を強制的に休暇を取らせる形で話が付いた彼ら。
それに不安そうに見ている月はSの手元を見て苦笑いを浮かべた。
彼女の手元にあるスマートフォンには、ワタリの名前の代わりに鎮座する某密林の文字。
確かにワタリは休暇が取れそうだが、その分見ず知らずの誰かの労働を増やした己の言動に来るべく明日に不安が隠し切れずにいた。
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