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桃色パンプキン

原作: その他 (原作:デスノート) 作者: 澪音(れいん)
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じゅういっこめ


「ワイミーさん、ハンナに余計なことを言いましたね?」

ワイミーズハウスを後にした車の中。

じとりと後部座席のほうから運転席のほうを睨みつけるように見つめてくるSにワイミーは素知らぬふりをした。

「Lからもモニターごしに生温かい目を向けられましたし散々です」

「おや、Lが?そうですか、彼が」

月と関わるようになってからLもまた、人間味を帯びてきた。

それはきっと今まで「仲間」と呼ばれる者には恵まれても、「友人」という者に出会う機会がうんと少なかったからだろう。2人の場合少なかった、というよりは自ら遠ざかっていたといった方が正しいのだが。

「友」だの下らないと少しでも裏切られる可能性がある人間を排除した結果だった。

しかし今、Lには夜神月が、Sにはハンナができた。
LとSはハウス時代から共に居ることは多かったがあれは友人というよりは姉弟のようで、また別の関係性が出来上がっている。それは今日本本部にいるメロ、ニア、マットにも言えたことで。

彼らはそれぞれSを姉のように慕っていた。

「きっと嬉しいのですよ、Sが自然と笑うようになってきたことが」

「わたしが?笑う?」

「えぇ、ハウスに居る時は特に毎日楽しそうに笑っていましたよ」

まるで孫の成長を見守るように穏やかに笑うワイミーにSは少しだけ気恥ずかしいような、かゆいところに手が届かないもどかしさのような不思議な気持ちが胸に渦巻いていくのを感じた。

「あそこの紅茶は、美味しいですから」

やはりハウスに連れてきたのは間違いではなかった。
穏やかな表情へと変わっていくSをバックミラーで見たワイミーはそう確認した。




「S、おかえり!」

日本捜査本部に着いた2人を出迎えたのはちょうど玄関に向かっていたマットで、勢いよく走り寄ってきたものだから転びそうになって慌てて急ブレーキをかけていた。

「ただいま戻りました、マット」

「ワイミーさんもおかえり!」

「はい、ただいま帰りました。他の皆さんは奥の部屋に?」

「全員揃ってる!」

マットはSの手を掴み「早く早く」と引っ張って捜査本部のほうへ行くと、捜査を終えひと段落したのかそれぞれが勝手気ままに行動している部屋に招き入れられた。たった2週間離れていただけだというのに、もう数年来られなかったくらいに懐かしく思うのは何故だろうか。

しかし部屋の片隅でひっそりと冷戦を繰り広げている二組を見てその考えは一気にハウスへの懐かしさへと変わってしまった。あそこは平和だった。

「おかえりなさい、S。お疲れ様です」

そんな中ひとり冷戦を抜け出して歩み寄ってきたLはSに労わりの言葉をかけたかと思うと、向こうでSの帰還に気付いて歩み寄ってきている月のほうをずいっと指さした。

「聞いてください、S。月君は私が可笑しいというのですよ」

「おかえりS。L、帰ってきて早々のSにその話題はないだろう。それに僕が言ったことは絶対に間違えていない、君は変だ」

「何ら可笑しいところなどありません。変でもありませんよ。どちらかと言えば私以外が可笑しいのです」

「1人だけ特殊な時点で、可笑しいのはLのほうだと思うのだけど」

出迎えに来てくれた時点で終わったかのように思えた争いは近くで行われるようになっただけでそれも間に挟まれ「そうでしょう?S」「いいや違うよなS」と板挟みにされ悪化しただけであった。

それにSが死んだ目でどちらも肯定せず否定せずいると、そんな喧騒に気付いたメロとニアまでやって来るものだから、英国で穏やかな表情を浮かべていたSはすっかり悩ましい顔に変わってしまった。それにワイミーはやれやれと肩をすくめたが、姉の取り合いのように集まってきた彼らにやはりその瞳の奥は穏やかで優しいものだった。

「聞いてくれ、ニアのやつが!」

「アリーさんを味方につけようとは卑怯ですよ、メロ。アリーさん、聞いてくださいメロが」

「お前だって味方につけようとしてんじゃねぇか!?」

やんややんやとSを挟んだ両端で話す4人に完全に包囲されたSは持っていたカバンをすとんと床に降ろした。そんなSの変化に気が付かない4人はSごしに胸倉を掴むものだからまるで通勤ラッシュに巻き込まれたかのようにもみくちゃにされる。

ワイミーはそんなここでは見慣れたような喧騒に「ケガだけは気を付けてくださいね」と言って早々に離脱してしまうし、残されたのは絶賛喧嘩中の4人と巻き込まれたSだけだった。

そう言えばSを部屋に案内したはずのマットは?って?
マットは部屋の隅の冷戦を確認した後に早々に被害に合わないモニタールームまで避難している。
彼らの様子を伺っていたマットはスッと細められたSの瞳を見て「あーあ」と言いたげに呆れた顔で4人を見ると、振り上げられた小さな拳が4人の頭に振り落ち唖然とした4人の瞳が一瞬にして怯えに変わった。

その後4人は暫く静かに捜査本部で過ごし、マットはひとりSの前では騒ぐまいと誓った。

Sが4人に何を言ったかはご想像にお任せするということで。



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