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桃色パンプキン

原作: その他 (原作:デスノート) 作者: 澪音(れいん)
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いつつめ

※過去篇②

部屋のベッドの脇でパソコンを開くと扉の開く音にそちらを見た。覗いて来たのはひとりの子供で、きっと私と歳も変わらないだろう、白いシャツにジーパン、顔は平均的で目元は不眠症を疑う不自然なくらいのクマが出来ている、変わった風貌の少年。

彼は私を見てから目をぱちぱちして「すみません、間違えたようです」とわざとらしく頭をかきながら何故かそのままその場所にとどまり、あろうことか「部屋へ入っていいか?」なんて聞いて来た。

ここが養護施設とはいえ、セキュリティが頑丈なここに無関係者が入ってくることは考えづらく(きっと進入した時点でロジャーあたりが気付くだろうから)ハウス関係者で彼を見たことはないから、ハウスの子供だということはわかっているが。

少しだけ警戒してから素っ気なく「どうぞ」というと遠慮なしに部屋に入ってきて私の少し離れた場所に腰を下ろした彼はただ何をする訳でもなく変な格好で座り込んだ。

「専攻はそちらですか。今は何をしているのです?」

「あなたには関係ありません。要件は何ですか」

敢えて突き放した言い方をしたというのに、隣にいる彼は別段気にした様子もなく「そうですね」と呟いて私ではない部屋のどこかをぼんやり見ながら黙った。
要件がないならば立ち去ればいいのに。そんなことを言うにも彼が醸し出す独特な雰囲気に開いた口はそのまま閉じ、彼も黙ったせいで部屋に沈黙が訪れた。

部屋に響くのは私のパソコンをいじる音と、彼の爪を噛む音。同じ年くらいだというのに爪を噛むだなんて、なんて不衛生なことをする人なんだろう。やっぱり変わってる。じっとその場に居座り黙っている少年に居心地なんて良い訳がなく、ちらりと隣を見ると横目でこちらを見た少年と視線が合った。

「ところで君はどうしてここに。もしかしてメアリーに頼まれてきたとか?」

「メアリーには何も頼まれていませんが、なぜ彼女に頼まれてきたと?」

「彼女はどうやら私と子供たちを親しくさせたいようで。仲良くしてやってくれとでも頼まれたのかと思いました。そうだとしたらすぐに出て行ってくださいというつもりで」

「なるほど。君は愛想がないようですからね。しかし残念ですが私は誰にも頼まれてはいません。本当に間違えただけですよ」

「間違えて入ってきたというわりには私の部屋だと分かっていて入ってきたようですが。そうでなければここに貴方が居座る理由もありません」

「もしかしたら君に興味が湧いてここにいるかもしれないのに?」

ああ言えばこう言うひとだ。自身がそうであるばかりに、そういう少年の押し問答に苛立ちが募っていく。
彼はまるで自分の写し鏡のようだった。
愛想もないし自分の世界に入ってしまえば相手の様子なんてお構いなし、それでいるのに相手の嫌なところを突くところなんて。

「私はあなたが嫌いです」

唐突に述べた言葉に少年は目を見開くが、すぐに平常を取り戻し爪をパキ、と音を立てて噛んだ。

「私は興味深いです。案外表情が変わる感情の起伏が分かりやすい人間だとわかりましたから」

「嫌な人間ですね」

「そうですね。そうかもしれません」

突然部屋を訪れ、居座り続けた彼は来るときと同様帰る時も突然で黙ったまま立ち上がるとそのまま扉の方へと歩きだすのが気配で分かった。
やっとひとりの時間が持てる。そう思って安堵していると扉のノブにガチャリと手を当てた音の後「そうだ」と子供がその場に留まったことが分かる。

「メアリーからは頼まれていませんが、それとなしにワイミーからは頼まれたような気がします。恥ずかしがり屋な女の子の様子を見てきてほしいと」

これ報酬です、とポケットから出した飴玉をこちらに見せるように掲げると今度こそ部屋を出て行った彼に私は自分でも不機嫌そうな顔になったのがわかる。

「変な奴」

結局何しに来たのかすら分からない、名前も知らぬ少年はきっともう関わる事なんてないだろう。



そう思っていたのに。
その日から時折あの少年が私の部屋に入り浸るようになった。なんでだよ。
今日も飽きずに私がパソコンをいじるのをベッドに腰掛けてただ黙って見ている彼に「要件はなんです?」と問いかけるが毎回返って来るのは「見ているだけですので気にしないでください」なんて的外れな回答ばかり。
それに最初のうちは何とか興味をなくさせようと会話していた私ももうここまでくると「好きにしろ」といった気持ちが上回っている。

そんな私たちを見たシッターのメアリーは「アリーに友達が出来て嬉しいわ」なんて本当に嬉しそうにはしゃぐものだから、「彼と友達になった覚えはない」と否定することに労力を使わなければならなくなった。

人と付き合いたくなかった私が、誰かと押し問答するはめになるなんて。少年の策略に見事にハマったようでいい気分がしなかった私は、腹いせのように彼の持っていたチョコを1つだけ強奪して見せた。

それをきっかけに今度はお菓子の奪い合いが勃発し、「やっぱり仲良しさんね!」なんていうメアリーに誤解を解く手間が増えるなんてその時の私は知らない。


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