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スノー・フェアリー

ジャンル: ロー・ファンタジー 作者: ハラミ
目次

形勢逆転

「お前が急に裏切るとはな、酒呑童子」

 雪男と背高のっぽの間で力なく転がっている酒呑童子。

「どんな理由があろうと裏切り者を生かしておくほど俺たちも甘くないのでな」

 背高のっぽがこぶしを振り上げたとき、背高のっぽの腕に何かが巻きつき、背高のっぽは振り上げた腕を振り下ろせずに戸惑った。

「見上げ入道のか」

 不意に腕が自由になったかと思うと目の前を首が飛んでいて、見上げ入道と呼ばれたその背高のっぽがちょっと後じさり、後ろを向く。

「雪男、お前はまったく執念深い野郎だな」

 そこに立っていたのは、のっぺらぼうを先頭として、カラス天狗、ろくろ首、ツララ女、猫又、そしておゆきだ。

「0歳のときに親が勝手に決めた許婚なんかにこだわるなんて・・・まったく情けないこと。恥を知りなさい」
「人間に手を出すなど言語道断といわねばなりませぬな」

 猫又は道の隅のほうで高見の見物を決め込んでいるようだ。

「盛り上がってきたねぇ。みんな頑張れ!」

 双方がにらみ合う。まさに一触即発だったが、見上げ入道が先に動いた。全員に背を向けたのである。
 
「今回は分が悪そうだな」

 帰る際、見上げ入道は酒呑童子を一瞥したが、何もせず暗闇の中へ消え、雪男もそれに続いた。


→ → → → →


「おい、大丈夫か。酒呑童子」

 新年早々家に鬼が来てるなんて、おばあちゃんが聞いたら大激怒するかもしれない。

「何で俺たちを助けてくれたんだ?」
「助けたくて助けたわけじゃねぇよ」

 酒呑童子は布団に横になりながらも意地を張っているようだ。鬼のプライドというものだろうか。

「もう一人の人間は無事だったのか?」

 今度は酒呑童子から尋ねられた。もう一人の人間というのは間違いなく美香のことだろう。

「おかげさまでね」

 俺がそう答えるとちょっと安堵したかのような表情を見せていた。するとそこにおゆきがおかゆを持ってきた。

「ご飯持って来ましたよ」
「いらねーよ」
「大丈夫です、ちゃんと冷ましてきましたから」

 そういっておゆきがおかゆを差し出したが、

「凍ってるじゃねぇかよ!」

 酒呑童子はため息をつくと、不意に立ち上がった。

「どこに行くんですか!」
「山に戻るんだよ。こんな人間の家なんかにいられるかってんだ」

 そういって酒呑童子は乱暴にドアを開け、外に出て行ってしまった。

「まったく、酒呑童子ったら。私がせっかく頑張っておいしいおかゆを作ってあげましたというのに・・・!」

 そういって凍ったおかゆをにらむおゆきを俺は苦笑いをして見ていた。


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 チャイムの音に気がつくのに時間はかからなかった。

「はーい」

 音に気がついて美香は外に出た。が、

「あれ?誰もいない?」

 美香があたりをきょろきょろと見回していると、目の前にうっすらと誰かが姿を現した。

「あ、あなた確か昨日の・・・」
「よ、よぉっ・・・」

 ぎこちなく挨拶をしたそいつは酒呑童子だった。と、奥から声が聞こえてきた。

「美香ー、誰かお客さん?」
「あ、うん。お友達ー」

 美香はそう答えると、酒呑童子に方に向き直る。

「今のは・・・お母さんか?」
「あ、そう。正月だからみんなで過ごしてるの」

 美香はそういってからちょっと不思議そうな顔をした。

「ところで酒呑童子さん一体どうかしたの?昨日すごい傷だったみたいだけど大丈夫?」
「あ、いや、別にたいしたことはねぇんだ。そっちも、大丈夫かなーと思って覗いてみただけだ」
「そうかぁ」

 美香はそういうとにこりと笑顔を酒呑童子に向け、酒呑童子は恥ずかしそうに顔をうつむけた。

「そうだ!今家族のみんなでお餅つきやってるんだ!もしよければ酒呑童子さんも一緒に食べていかない?」
「そ、それは・・・」

 酒呑童子が口ごもる。

「正月から鬼なんかが家に入ったら縁起悪いし・・・迷惑なんじゃないか?」
「そんなことないって、本物の鬼と仲良くなれるなんてちょっとどきどきだけど面白そうだし」
「だ、だがなぁ・・・」
「いいからいいから!」

 そういって無理やり美香が酒呑童子を家の中に入れた。酒呑童子は思わず、頭から角が出たりしてないか体のいたるところを確かめる。それでもなお不安だった。

「あら、美香、その子お友達?」
「うんっ!この人酒呑童子さんっていうんだよ!」

 美香が明るい声で言った。

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