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ペルソナ5:OXYMORON……賢明なる愚者へ。

原作: その他 (原作:ペルソナ5) 作者: よしふみ
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第九十四話    十字架


『お前が、ここにいるのも、それの一環なのか?』

『……鋭いな。オレと一体化していた時に、知識を少し奪われたか』

『さあな。ただの怪盗の勘な気もする』

『だとすれば、良い勘をしている。そうだ。オレは、あの事件の結末を、真に見届けるために、ここにいる』

『真の結末か……ここにいれば、それに遭遇出来るという確信があったのか』

『そうだ。オレたちは万能ではなかったが、知識はある。世の中に流通を始めた金属は、人々の欲望を吸い取りながら力を回復すると考えていた。そして、呪いというものは中心へと戻って来る定めにある』

『中心。ここが、その中心になるのか……』

『月村には、この学園の教師という顔もあったからな。彼は、何人もの悩める生徒を呪いの生け贄にして作りだした。『聖女の遺骸』とよばれる技法を完成させたのさ。黄金に供物の魂と血を注ぐことで、己の力を何倍にも増幅する秘宝を』

『女の子たちの遺体と、それらに絡みついていた金属か……』

 紳士であるモルガナは、その残酷な術に対して嫌悪感を露わにしていた。小さな頭を左右に振って、頭に浮かんだ映像を振り払うと、小さな鼻をフン!と鳴らすのだ。

『……最悪な術だ』

『同感だ。だからこそ、見届けなければならなかった』

『お前は、剥製としてここに残ったんだな』

『いや、正確にはオレは分身だ』

『分身?』

『意志と力を複製して、このセンザンコウという動物の剥製に移した。『聖女の遺骸』の力を感じ取るか、悪魔を使う者の力を感じ取れば、疑似的な人格が再生するように組み上げたのさ』

『スゴいな。ていうか、もしかしてだが、我が輩の力は、悪魔召喚師に似ているのか?』

『そうだ。似ている。わずかに違うようだがな……お前には、心あたりが有るんじゃないか?』

『ある。お前たちが『悪魔』として呼んでいたヤツらにも、会ったことはある。ヒトの心が生んだもう一つの世界にいる、ヒトの心を離れて蠢く欲望みたいなヤツらだ。我が輩たちは、ペルソナと呼んでいる』

『なるほど。オレたちの『悪魔』よりも、もっと象徴的な存在なのかもしれないな』

『……ああ。人格めいているものは、お前たちの『悪魔』よりも少ないように思える』

『ふむ。ヒトの世は発展をしているようだ。そして、発展した技術や知識、あるいは増えすぎた人口が、力弱き術者とも言える凡人たちの影に力を与えたか』

『ヒトが増えすぎたから、心の総量も増えちまって……それが、我が輩たちがいた異世界を生み出したってのか?』

『オレたちの時代よりも、心の数が多いと、そうなるのかもしれん。現代の人々は、オレたち流に言えば、普段から心を『悪魔』の生け贄にするようにして、異界の創造に貢献しているようだな』

『……なるほど。そうかもしれない。我が輩も、人々の心が生んだ存在の一つだ』

『真の『悪魔』の一人に、創造されたのか?』

『……親の『悪魔』か』

 モルガナは創造主たるイゴールの姿を思い浮かべていた。イゴールは、たしかに『真の悪魔』という言葉には相応しい存在のような気がする。ペルソナ使いたちよりも、より強大な力を持っているとも、言えなくはない気がする。

『そうなのかもしれない』

『そうか。まあ、かまわんさ。お前たちは『善良』だ。お前を造ったモノも、そう邪悪だというのはないのだろう』

『『悪魔』は邪悪じゃないのか?』

『悪魔召喚師に言わせれば、『悪魔』にもよる。それが精確な判断だろう』

『……なるほど。何だか納得がいったよ。さて……脱線しちまっているな』

『そうだな。ハナシを戻すとしよう』

『流通しちまった金属は、ここに戻って来るんだったな』

『そうだ。そして、異常な現象を起こせば、分身であるオレが起きて、本体に報告する。あるいは、分身であるオレがその脅威を排除すればいい』

『後者を選んだのか?』

『前者も選んだんだがな。連絡が取れなかったんだよ』

『どうしてだ?』

『さあてな。本体は死んだか代替わりでもしたんだろう』

『ん。そうだな。とんでもなく昔のハナシだったもんな』

『長く生きれば死ぬこともある。オレは、状況を解決しようとして、コソコソと動いたもんだよ』

『……でも、何人かを『聖女の遺骸』の犠牲にしちまったのか?』

『助けられなかったものもいる。放置するよりはマシな働きをしているという自覚はあるんだがな』

『悪口を言いたかったんじゃないんだ』

『分かっているさ。さてと、お前はオレに協力してくれるな、モルガナ?』

『ん。ああ、そうする。我が輩たちが追っている七不思議の原因ってのと、『聖女の遺骸』が残した呪いは、関係があるんだろ?』

『おそらくな。噂や情報を触媒にすることで、呪術は完成するものだ。七不思議……生徒たちがヒソヒソとまことしやかに噂しているそれが、力となったんだよ。ほら。コイツを持っていけ』

 センザンコウがモルガナに近づき、大きく口を開いた。口の中から、何か金色に輝くものが転がり落ちてきた。それは、金色の十字架だった。二つある。


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