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ペルソナ5:OXYMORON……賢明なる愚者へ。

原作: その他 (原作:ペルソナ5) 作者: よしふみ
目次

第九十話    葛葉ライドウその六

『選ぶべきだな。その道は無益なものではなく、ヒトを助けることになる。お前の性質では出来ぬ世の中への貢献を、お前の知恵と力の知識のみを借りた正しい魂が成すのだ』

『……偽善的だな』

『偽善であったとしても、真の悪よりは世の中のためになるだろうよ。イヤか、月村?』

『……断る。私は……己よりも劣る者のために、己の力を貸す気などない。弱肉強食。それこそが心理であり。私は、食われる側の凡人ではない』

『ふん。オレは偽善者なのかもしれんが。お前は独善的だな』

『好きに呼ぶがいい……』

『月村よ。罪を償うことが、どうしてもイヤだというのなら、己を貫くための最後のチャンスをやろう。お前がその不気味な怪物を組み上げるために犠牲にした、無数の無垢なる魂のために、お前は、全てを白状すべきなのだ。敗北者よ。負け犬よ。お前は自分の哲学が言うところの、弱き肉に過ぎないのだからな』

『く……っ』

『答えるがいい。自分の哲学に貴様が使役している力の源泉。『聖女の遺骸』をどこに隠した?』

『……それを得たいのか?』

「オレには不要なものだ。この国の平穏のために、取り除くべき存在だと信じている」

『……そうか。貴重な存在なのだがな。あれは力の依り代と成り得るものだ。それを、みすみす手放すか。私よりも、強い悪魔召喚師が』

「世の中に災いをもたらす。そんなことをしてまで、ヒトは力を得るべきではない」

『葛葉の一族らしい答えだよ。まったく、反りの合いそうにない男だ……しかし……このまま、知恵を伝えることもなく死ぬのは……口惜しくもあるか……』

『ならば、教えてくれ。この邪術を継承する気はないが……その仕組みを、葛葉の歴史に残すことで、貴様の罪は薄まるだろう。お前のようなモノが再び現れたとき、我々は、より素早くその脅威を駆逐することが可能だからだ』

『…………私の性格を、よく研究しているようだな。私の虚栄心を見抜くか…………敗者となった以上、力を譲渡するのも、義務かもしれん…………『聖女の遺骸』はな、既に消費している』

「……悪魔召喚の生け贄に使ったのか?」

『そんなところだ。私の書斎を調べるがいい……床下に、生娘たちの死体と『聖女の遺骸』を絡ませて埋めてある……』

『貴様、まだ、殺していたか……ッ』

『くくく!……そう邪険にするな。その少女たちは、望んで『聖女の遺骸』と混ざったのだぞ?』

「どういうことだ?」

『才在る者には分からないこともある。弱く儚き存在は、より強い存在の一部となることでのみ、安寧を得られる……少女たちは、世の中の序列の下部構造体であることを嫌ったのだ。貧しく、搾取される立場だ。生きていても、苦しみしかないような、軽んじられた存在に過ぎん。力と繋がれたことで、少女たちは不朽の自信を得たのだよ』

『……生け贄になることの悲惨さを、下らん言葉で取り繕うな』

『事実を聞くのは、獣の耳には痛ましいか?』

『……っ』

『ヒトは、お前がそのような惨めな姿になってまで、助けてやるほどに、価値はない。強くも有能でもなく、もろいものだ。少女たちは、私と『聖女の遺骸』に感謝をしていたよ。そんなものさ、お前たちが命がけで守ろうとしている連中はなぁ』

『貴様……ッ』

「……ゴウト。挑発されるな。月村。この土地から、呪いを解く方法はあるのか?」

『……『聖女の遺骸』を燃やせばいいだけのことだ。そして、呪いの染み渡った十字架を壊せばよい……良い呪いが刻まれているから、融かして刀や銃弾にしてもいいだろう』

「……考えておく」

『……気にいるさ。悪魔召喚師ならば、誰しもが、その鋼が持つ深い魅力に囚われてしまうだろうさ。うぐ……っ』

 月村カイドウが、苦しそうに呻いた。破壊された体は、もはや生命を捕らえ続けておくことが困難になろうとしている。モルガナは、この怪人物がよくここまで長く生きていたと感じた。

『さてと。そろそろ……トドメを刺してくれるか、葛葉ライドウよ』

「……わかった。さらばだ、月村カイドウ」

 葛葉ライドウが刀を振り下ろし―――異形と成り果てた月村カイドウの身に、深々とその斬撃は命中していた。動脈を斬り裂いていたのだろう、鮮血が吹き上がり、心臓の拍動に伴って、何度かの強弱をつけたあとで、静かに停止してしまっていた。

 心臓が止まっちまったのか。

 モルガナはそう思う。

 悪人だということは、彼らの会話を聞いていたことで十二分に把握することは出来た。しかし、それでもなお、生命を持つ者が死ぬ光景を見るのは、どこか無条件の悲しみを心に生み出していた。

 ……しかし、モルガナには知りたいことがある。この事件が、聖ミカエル学園で起きている異常な事件と関わりがあるとすれば―――『犯人』である月村カイドウの死では、根本的な解決が出来なかったことになる。

『……この続きが……肝心で……っ!?』

 周囲が歪むのが見えた。葛葉ライドウの姿が、大きく歪んでいる!?……だが、葛葉ライドウは平然とした様子だ。そうだ、これは彼らに訪れている現象ではない。過去に起きた現象ではなく―――この場を見ている現在の自分へ起きた現象だ。

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