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ペルソナ5:OXYMORON……賢明なる愚者へ。

原作: その他 (原作:ペルソナ5) 作者: よしふみ
目次

第八十一話    怪盗猫の冒険その二


 どうやら、作り出されて数十年というのは、剥製にとっては過酷な時間の経過であるらしい。

『もっと近くで見るか』

 モルガナはセンザンコウが置かれている台の上にピョンと飛び乗った。不思議な力に導かれたセンザンコウが、飛びついてくる……なんてことはなかった。センザンコウは太い針金で固定されているようで、生命に気配はない。

『……ウロコのあちこちが、剥がれそうだな……』

 このセンザンコウの剥製は、あまりにも長い時間が経過しているためか、あちこちがボロボロになっている。

 清潔なこの校長室において、間違いなく最も不潔であるものだ。そして、もしかしたら、唯一の薄汚れた存在なのかもしれない……。

 その事実は、モルガナにとって、一種の違和感を生み出さずにはいられないことがらであった。尻尾を横にゆっくりと振りながら、モルガナは自分の心に生まれた謎について考えを巡らせていく。おかしなことには、おかしな理由がるものじゃないか?……疑問を考えずにスルーしてしまうほど、怪盗という存在は雑な思考回路を有してはいないのである。

『おかしいよなー……こんなボロボロになっちまっても、どうして校長室に置いてあるんだろうな?……来客とかも、これだけ小汚い剥製を見たら、ドン引きしちまいそうだ……まあ、お前が悪いワケじゃないんだけど…………『理由』が、あるのかな?』

 『理由』……これをこの校長室から動かしてはならない理由?……おそらくは何度か修理……いや、修繕に出しているのだろうが、それらの努力をもってしても、過ぎ去る時間が与える破壊から、センザンコウの美貌を守ることは出来ていない。

 ……まあ、そもそも、センザンコウは珍獣としての価値がある存在であって、美しさが売りな生き物ではないだろうけれど。

『……お前も、このミカエル学園の七不思議の一体だ。他のヤツらみたいに、動き始めている気配は、今のところは感じないけれどな……お前、我が輩の敵なのか?……お前を動かしたら、七不思議的な祟りとか……あるいは、ペルソナ使いが動くのかな、天使サマとやらが……』

 天使サマというペルソナ使い。死者である、吉永比奈子に対して、異常な力を与えた存在……そんな能力を持つ者は、ペルソナ使いしかありえない……そう判断して、そんな予測を立てているが……。

『……こんなに古い七不思議たちと付き合いがある存在って……生徒はおろか、教師たちでも難しいだろう……七不思議のそれぞれと、天使サマは関係が薄いのかな……?お前は、我が輩たちの……敵じゃない……のか?』

 センザンコウに語りかけるが、センザンコウはモルガナに言葉を返してくれることはないのだ。朽ちかけた鼻先からは、詰め物のワタが見えかけている。これが動けば、それだけでホラーなのかもしれない……。

 ……だが、何も見つけられなかったワケでもないのだ。ずんぐりむっくりとしたセンザンコウの、壁際に向けられた腹には、何かの紙が貼られてあることにモルガナは気がついていた。

『何かあるな……よし、動くなよ、センザンコウよ。我が輩が、あの紙が一体、何なのかを確かめてやるからな……』

 モルガナは接着剤とか古新聞や古書店みたいな臭いのする剥製に肉薄する。何だか触ってしまうとボロっと崩れてしまいそうだし……それは、あまりにも、このセンザンコウにとって、かわいそうな行いだ。だから、ぜったいに、それをしないように最新の注意を支払いながら、モルガナはその古びた紙に近づけていくのだ、好奇心に輝く青いうつくしい瞳を……。

『…………ふむ。達筆で、何かが書いてあるな……角度が悪いのか、ちょっと読みにくいな……でも、角度を変えるために、お前の腹を押したら、そのまま穴が開いちまいそうだよなぁ……そういう非道は、我が輩の趣味じゃないんだ……んー?』

 モルガナは猫の柔軟な体を活かして、センザンコウの腹のとなりでくるりと変な形に丸まってみた……達筆すぎる黒い文字は、どうやらナントカ大神と書かれてあるようだ。

『……神?……キリスト教徒の学校で、漢字の神さまってのも何か違和感があるな。神道とか、神社のお札ってことだろうな、コイツは……どうして、クリスチャンの学校の、しかも校長室に、こんな札があるんだ……?』

 ……モルガナは傾けていた頭を、さらに傾ける―――その瞬間、モルガナは不思議な目眩に襲われるのだ。

『な、なんだ……これ、もしかして、貧血ってやつかな……っ?』

『…………侵入者か』

『……ッ!!』

 突然の声に、モルガナは驚いてその場から跳躍していた。壁を蹴り込み、三角飛びのテクニックを使いこなして、声の聞こえた場所から飛び去り、校長室の床へと着地する。四つの脚に力を込めて、身を屈める……シャーっと猫の本能が威嚇を選ぶのだ。

 威嚇している相手は、もちろんセンザンコウだった。独特の渋みのある声が、あの物言わぬ死せる剥製から聞こえてきていたのだ……モルガナは、その白くて小さな牙を剥く。

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