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ペルソナ5:OXYMORON……賢明なる愚者へ。

原作: その他 (原作:ペルソナ5) 作者: よしふみ
目次

第八十話    怪盗猫の冒険


 モルガナは軽やかな動きで脚を交差させて、そのまま風のような速さを組み上げていく。モルガナは春の風を取り入れるために、開かれたままになっている玄関から校舎のなかへと忍び込んでみる……。

 砂とホコリの混じった春の乾いた風のにおいが、校舎のなかに漂っていた。学生たちがうろつく場所ではないが、新一年生の動きについて来たホコリや砂が混じっている。砂とかホコリがあると、猫の身からすると……顔が汚れやすくて楽しくはないものだった。

 モルガナはホコリが入らないように猫の目を細めて、ホコリを舞い上げないように肉球の機能を駆使しながら、無音の足運びで廊下を歩いて行く……校長室へとつながる廊下のには、ガラスケースに入ったトロフィーが飾られている。

 シュージン学園のように、全国大会の常連といったわけでもないようだが、数年に一度ぐらいの割合で、思い出したかのように全国大会や国体での受賞があるようだ。

『ふむ……進学校の割りには、マシなスポーツ成績ってことか……?』

 モルガナも学校に詳しいわけではないが、そんな風に値踏みをつけていた。青い瞳にそれらの大会の成績を映しながら、モルガナは校長室のドアの前へとたどり着く。

 頑丈そうなドアをしている。

『猫の本能が疼き、爪で引っ掻いてやりたくなるな……いや、我が輩自身の本能というよりも、世間一般が猫に抱くイメージに引きずられているのか……』

 自分は猫などではないことを、モルガナは知っていた。そんな単純で分かりやすい生物ではない。いや、そもそも生物なのかどうか正確な答えを述べることも難しい立場ではある。

 シャドウのように、ヒトの感情の海から生まれた存在だ……現世にいることを許されたことで、おそらく半永久的に存在することになるのではないかとも考えている。

『……役目が欲しいとか、考えているのかもな』

 どこか隠居染みた日々を過ごしていることに、不満を感じていないわけではないのだ。血湧き肉躍る冒険の日々……自分のアイデンティティと、世に蔓延る巨悪と対峙する充実感……。

 あんな日々を過ごせば、平和な蓮を見守るだけの日々では、満足することが出来なくなってしまうのだ。

 ……久しぶりに与えられた『使命』。いや、自分で見つけた目標なのか……モルガナは自分の剣が斬ってしまった者の憐れさを理解していた。

 七不思議を追いかければ、吉永比奈子を解放してやるための方法が見つかる……ような気がしているのだ。具体的な根拠を示すことは難しいが、そんな気がする……七不思議に沿って事件が起きているとするのだから。他の七不思議も『動き出そうとしている』ようだ……。

『……さてと、入るとしよう』

 モルガナは校長室のドアノブにぶら下がってみる。鍵は、やはりかかっているようだ。まあ、想定内のことではあるのだ。モルガナは首を横に振り、マフラーのなかに隠し持っているピッキング用のツールを取り出した。

 もちろん歯の間に加えている。手製のそれは、鉄の味がするのだ。モルガナはそれを鍵穴にそっと差し込むと、首とアゴを使ってガチャガチャと鍵穴をえぐっていく。金属同士の擦れる音に耳を立てながら、モルガナの口と耳は、その感触と音を探り当てていた。

『……これで、どうだ!』

 ガチャリ!……モルガナが首を捻った瞬間、鍵穴は屈服の歌を放っていた。モルガナが肉球を使って、そのままドアノブを回すと……ドアがゆっくりと開いていく。

『ふふふ。さすがは我が輩だな!……この猫により近い姿のままでも、十分に怪盗としてのスキルを発揮出来るじゃないかい!』

 むふん!

 ドヤ顔を浮かべる黒い猫は、荒い鼻息を一つ噴き出した後で、開かれた校長室へと入っていく。

『……ふみ。これが校長室か。それなりに豪華な雰囲気だが、成金趣味というよりも清潔感があるソファーがあるっていうところかな……?』

 そして、生活感がどこか希薄である。あまり仕事部屋としては使われていないのかもしれない。今も不在だということは、他の場所で仕事をしているのだろうか?……学校長も色々な会議などに出席しなければならないのだろうか……。

『だが、不在なら不在で好都合ってもんだ。さてと……あるのかな……センザンコウとかいうヤツの剥製は……っ!』

 モルガナはすぐにその見慣れぬ形状を持った生物のことを発見していた。まるで爬虫類のような異形を持った、謎の生物……珍獣センザンコウの剥製は、赤茶色の硬くて大きなウロコに包まれた状態で、安置してあった。

『……おー……たしかに、変な動物だな、センザンコウ……まあ、我が輩が言えた義理ではないか』

 珍獣度合いでは負けてはいないだろう。ライバル心ではなく、どこか投げやりな皮肉として、そんな感想を胸に抱いたまま、モルガナは肉球を床に叩きつけながら、そのセンザンコウが置かれている棚の近くへと走っていった……。

 もちろん、センザンコウは逃げない。剥製だからだ……モルガナは、動かぬ珍獣をじーっと観察していく……。

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