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ペルソナ5:OXYMORON……賢明なる愚者へ。

原作: その他 (原作:ペルソナ5) 作者: よしふみ
目次

第七十四話    鐘の音、再び。


 ゴーン!!ゴーン!!ゴーン!!……重たげな鐘の音が、周囲に響いている。城ヶ崎シャーロットは、怯えている。蓮はそのあふれるやさしさを用いて、彼女のことを抱きしめてやった。

「……レンレン……っ」

「……え?どうかしたのですか、皆……?」

『え?……神代殿には、聞こえていない?……我が輩たちだけに、聞こえるのか、この鐘の音は……?』

 神代はこの教会に響く鐘の音が、聞こえないらしい……ペルソナ使いにだけ聞こえる?あるいは……吉永比奈子に取り憑かれている者にだけ聞こえるのだろうか……。

『蓮。とりあえず、この場から離れよう……この音は、どうやら神代殿には聞こえていないようだ……なにか、適当に誤魔化してみるのもいいかもしれない』

「……城ヶ崎は、昨日のことを思い出して、怖くなったみたいだ」

「まあ。大変……カウンセリング・ルームで話しましょうか……?」

「だ、大丈夫です。レンレンといるから、大丈夫」

「……そう。ムリはしないでね、城ヶ崎さん。私も、ここにいますから、いつでも不安があれば相談して……この場所が怖いのなら、職員室やカウンセリング・ルームでも、どこでもいつでも相談に乗りますから」

「はい……先生、ありがとうございます。レンレン、行こう……?」

「……ああ」

『……音が止んだ。蓮、城ヶ崎、我が輩は、しばらくここを見張ってから、お前たちを追いかける。見つけやすい場所にいろ』

 蓮は言葉にすることなく、うなずくことでモルガナに合図を送っていた。神代には気づかれない。彼女は、困り顔で教会の内部を見回している……何かイタズラの痕跡がないかを探しているのかもしれない。

 だが……見つからないだろう。さっきの鐘の音は、神代には聞こえていないだから。あの音は、特殊な力を帯びた音なのだ。自分たちには聞こえる……その理由は、具体的には分からないが……吉永比奈子に狙われていることの証かもしれない。

 蓮と城ヶ崎シャーロットはしばらくの間、無言を貫いて、校庭が見下ろせる位置にある小さなベンチへとたどり着いた。校庭は、誰もいない……ここならば、落ち着いて話をすることも出来るだろう。

「……城ヶ崎、大丈夫か?」

「う、うん。レンレンが側にいてくれるから、落ち着いて来た……アレは、どういうことなのかな。先生には、聞こえていないみたいだった」

「……そうだと思う」

「あの音って、私が狙われているから、聞こえるのかな?」

「おそらくな。聞かせたいヤツに聞こえる音だろう」

「むー……そうか。不思議だなぁ……どうなってるんだろう?……若者にだけ聞こえるモスキート音みたいなヤツかな……先生、モスキート音、聞こえない年齢かもしれないし」

 微妙に失礼な発言かもしれないと連は考えたが、年齢で聞こえる聞こえないの条件があったとしても、おかしくはないのかもしれないとも考え直す。謎を追跡する時は、多くの視点がある方がいいことを、連は経験的に把握しているのだ……。

「……とにかく!」

「とにかく?」

「お腹が、空いたよー……っ」

 城ヶ崎メーターが、くるるるう……と空腹の音楽を奏でていた。

「……パンを食べるとしよう」

「うん!食べよー、レンレンはメロンパン?アンパンもありだけど?」

「城ヶ崎はどちらが食べたいんだ?」

「……んー。アンパンかな!……ジャパニーズの食文化に興味がありまーす!!ガイジンらしく!!」

「ハーフだろ?」

「ん。そだねー。ハーフだよー……アンパンたーべる!」

 鼻歌を奏でながら、城ヶ崎シャーロットはアンパンを包みの袋から取り出していく。

「いただきまーす!」

 ぱくり!

 並びのいい白い歯がアンパンに噛みついていた。もぐもぐもぐもぐ……少女のホッペタはリスのように動いて、アンパンを食べていく。

「……ああ。美味しい……っ。ビーンズの砂糖煮なんかが、こんなに美味しいなんてさ……っ。世界中に発信してあげなきゃって味だよねーっ!!」

「大好物なんだな」

「うん!……レンレンは、アンパン好きじゃないの?」

「好きだぞ」

「だよねー!!ジャパニーズなら、アンパン大好きだよねー!!……もぐもぐ」

 上機嫌になりながら、城ヶ崎シャーロットはアンパンに夢中になっている……。

 さっきまで怖がっていた様子は、すっかりと消え去っているようだ。アンパンが秘めた精神安定剤的なポテンシャルの高さに、蓮は感心せざるを得ない。

「……こしあんが、いいよねえ……っ」

「……オレは粒あんの方がいいかもしれない」

「え?……そ、そうなの?……ゴロゴロしない?」

「どちらでも食べられる。食感を気にしたことはない」

「そっかー……豪快な子だなあ、レンレン」

 ……そうだろうか?アンパンの中身で豪快さなど計れるものだろうか?……蓮は疑問でしょうがなかった。

「……そうだ。レンレンに、こしあんの良さを伝えるために、私がこのこしあんたっぷりのアンパンを、三分の一ぐらい分けてあげましょう」

「半分じゃないんだな」

「う。すでに、半分近く食べておりますので、歯が当たっていない部分を考慮すると、三分の一あたりが限界……いや、四分の一ぐらいかも……?とにかく、はい、どうぞ!」
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