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ペルソナ5:OXYMORON……賢明なる愚者へ。

原作: その他 (原作:ペルソナ5) 作者: よしふみ
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第六十七話    ガン睨み


 そもそも、賢くなることで自分に出来ることが広がるのだという感覚も好ましい。賢い者たちのコトバを理解することで、自分の世界観が広がっていく……その得がたい感覚を真や双葉から得られたことは、蓮の人生にとって大きな価値観であろう。

 少年院帰り、冤罪により無罪放免となったとはいえ傷害事件の元・加害者であるが……実のところ、蓮は間違いなく秀才の部類に入った。

 シュージン学園で、授業へマジメに集中するしかない一年間を過ごせたことは、中の上の成績を、上の上に変える効能はあったのである。

 もちろん、モルガナがサボらせることもなく、勉強することを指導してくれたことも大きいだろう。けっきょくのところ、学生レベルがこなす勉学ごときに才能は要らないのである。勉強時間という量で十分まかなえるのだ、それが効率的であればなおいいだけのこと。

 天才性がいらない、凡庸なものに向く作業。それが学校が求める学力というものの正体であり、それ以上でもそれ以下でもない。そして、大事なのは観察力ということも蓮は知っている。

 教師というのは学問のプロフェッショナルだ。無意味なことを授業に持ち込む者は少ない。陽気な性格であろうともなかろうとも、その教師の性格を把握すれば、コトバの意味がより理解できる。

 その教科において何が大切なことなのか?……生徒に伝えたいと連中が願ってやまない概念。それを汲み取り、自分の考えに交ぜていけばより良い学力構築が叶う。蓮は狡猾なまでの人間観察能力を身につけていたのである……それに、今日に限れば、学力目的だけではない行動でもある―――。

 ―――教師の癖さえも観察しながら、授業をこなしていく……四時間はすぐに過ぎ、充実した学生生活に昼休みが訪れていた。

「……ふわー……っ。あー。アタマを使ったから、疲れちゃったよう。でも、レンレン、スゴい集中力だよね。先生たち睨んでるレベル」

「睨んではいない。集中して聞いているだけだ」

「そうかなー……まあ、いいんだケドさ」

 城ヶ崎シャーロットの人間観察能力も、意外とあなどれないものかもしれない。蓮はそう考える。

 蓮はたしかに怪盗の観察力を発揮していた、授業と教師をより理解するためでもあるし……そして、天使サマの力を持っているかもしれない『容疑者』たちのことを観察してもいたのである。

 そうだ。彼らは、容疑者なのである。生徒たちよりも長い年月、この学校にいる教師たちこそ、天使サマかもしれない。今は、容疑者を把握することが肝心じゃある。だが、不用意に城ヶ崎シャーロットに言えば、マネして睨んだり……不安がったりするかもしれない。それは、よくない行動だ。

 城ヶ崎シャーロットには、平然として過ごして欲しい。天使サマが彼女の殺害を、吉永比奈子に実行させようとしたなら?……城ヶ崎シャーロットを見て、何らかの反応を示すだろう。

 城ヶ崎シャーロットが無事であるのなら、吉永比奈子の怨霊を使った行為が失敗したと考えるかもしれない。そうなれば、抑止力になる可能性だってある。自分のペルソナ能力が、効果が無かったとしれば……今夜の攻撃を中止するかもしれない。

 時間的な猶予は、こちらに有利だ。異能の力を疑うことになれば、積極的なヤツは焦る。冷静なヤツは躊躇ってくれる。『殺人』まで見越したプランが破綻したとなれば、ヒトは混乱するものだ。城ヶ崎シャーロットを見て、ムダに動揺する生徒や教師がいないか。それを蓮は探ってもいた。

 ……まあ、城ヶ崎シャーロットに告げることではない。自然体で平然としている。それが相手にプレッシャーを与えることになる態度だ。怖がっていれば、吉永比奈子を使ったことは有効だったと相手に認識させてしまう……さて、そろそろ時間だ。

「……城ヶ崎、モルガナと合流しよう」

「うん。でも、お腹も減っているから、購買経由で行こう」

「混み合うのか?」

「そうでもないよー。食堂の方が人気はあるからね」

「今日は昼メシを用意できなかったからな」

「レンレンは悪くないよ。私のせいで寝坊させちゃったしさ」

「―――あ、あのさ?」

 蓮と城ヶ崎シャーロットの会話に、一人の少女が立ち入ってくる。たしか、クラス委員に任命されていた子だな……マジメそうな雰囲気をしているし、実際、そうなのだろう。授業態度もマジメで、教師たちに質問をよくしてくれている。

 そのおかげで、対教師に対する人間観察において……非常に助かるのだ。ヒトは質問されると、本性を露見しやすい。教科書や仕事としての行いを離れて、態度が反映される。それを見つめるためには、質問でキャラクターに揺さぶりをかけることは有効なのだ。

「どうした、委員長?」

「いや、私、まだ選挙してないから、暫定的な委員長でさ……ていうか、雨宮くん」

「なんだ?」

「雨宮くんと、城ヶ崎さんって、その……つきあってるの……?」

「ふにゃあああああ!?」

 城ヶ崎シャーロットが奇声を放つ。顔を真っ赤にして、委員長代行をどこかに引っ張っていった……。
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