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ペルソナ5:OXYMORON……賢明なる愚者へ。

原作: その他 (原作:ペルソナ5) 作者: よしふみ
目次

第四十六話    十字架と乙女


 壁に入った亀裂は、じょじょに広がりを見せていた。やがて階段にもその亀裂は到達する。一段一段が、壊れている……強く踏めば壊れてしまいそうな見た目ではあるが、どうにか二人の体重を支えてくれるほどの強度はあるらしい。

『……ジョーカー、体重の軽い我が輩が先導しよう。マズそうだったら、止めてやる』

「頼んだ」

『任せておけって。我が輩の体重の軽さは、こういう時には役に立つもんだ』

 力強く宣言しながら、モナがジョーカーの前を四つ足で走ってくれる。

 崩れ落ちてしまいそうな階段を、二人はそんな風に駆け抜けていき、とうとう終着点へとたどり着く。

『……ここだな!』

「ああ」

 錆び付いた扉がそこにあった。階段の行き着いた先には、それだけがあるのだ。これ以上、上の階は存在しないらしい。つまり、ここが屋上なのだ。

『……時間は?』

「……あと、6分だ」

『そうか。開けるぞ、ジョーカー!覚悟はいいな!?』

「ああ。やれ、モナ」

『おうよ!!……ペルソナぁあああああああああああああッッッ!!!』

 モナが己のペルソナ、『メルクリウス』を召喚した。
『ガルダインッッ!!』

 『メルクリウス』が翡翠色に輝く風の魔術を放ち、錆び付いたドアを豪快に吹き飛ばしていた。

『開いたぜ。突入する!!待ってろ、城ヶ崎ッ!!』

「……行くぞ!!」

 怪盗たちは嵐のような勢いで、その屋上へと到達する……屋上は、赤く輝く月の光に照らされて、血のような色彩に染まっていた。

 廃墟のように崩れかけている屋上の端に、十字架が見える。

『……っ?十字架……って、あ、あれは!!』

 十字架には見覚えのある少女が縛りつけられていた。うなだれてしまい、ビクリとも動かない。ポニーテールにしていた金色の長髪は解いてしまっているし、パジャマ姿ではあったが、一目で城ヶ崎シャーロットだと分かる。

『城ヶ崎だッ!!おい、ジョーカー、急ぐぞ!!あんな今にも屋上から落っこちまいそうな場所なんて……おっちょこちょいのアイツには危なすぎる!!』

「ああ!!」

 二人して走り始めていた。城ヶ崎シャーロットに向けて一直線に走ってはいるが、その視線は周囲への警戒を怠ることはなかった。探しているのだ。この状況を作り上げた『犯人』のことを……。

 しかし、その姿を見つけることはないまま、ジョーカーとモナは十字架にはり付けにされている城ヶ崎シャーロットの元へとたどり着いていた。

『……ふむ。やけに、あっさりとたどり着いちまったな。何か仕掛けて来るかと考えていたんだが……まあ、いい。おい、城ヶ崎!!城ヶ崎!!……意識を失っているのか?……まさか、死んでたりしないだろうな』

「不吉なコトを言うな」

『す、すまん。ジョーカー、確かめろ』

「ああ」

 ジョーカーは両手足をロープで十字架に縛りつけられている城ヶ崎シャーロットの白い首筋に指を触れる。頸動脈。その拍動をジョーカーは触知する。

「大丈夫だ。生きている」

『そうか。よかった。よし、とりあえず、ロープを外してやろうぜ』

「……そうしよう」

 モナが足下のロープを外し、ジョーカーはナイフを使って城ヶ崎シャーロットの拘束を解いてやる。ジョーカーは城ヶ崎シャーロットを肩に担ぐと、そのまま屋上の端から遠ざけるように、屋上の中心部まで行くと、彼女を床に寝かせるのだ。

 怪盗のマスクをずらして、素顔を晒す。その状態で、ジョーカーは……雨宮蓮は城ヶ崎シャーロットの頬をやさしげに叩いた。

「起きろ、城ヶ崎」

「……ん…………?」

 頬を叩かれた城ヶ崎シャーロットの青い瞳が、ゆっくりと開いて行く。そして、彼女の青い瞳は、じーっとジョーカーこと雨宮蓮の顔を見つめて来た。

「……レンレン……?どーして、私の『夢』にいるの……?」

『いや。ここは異世界だろ?』

「ん。今の声は……誰?」

 城ヶ崎シャーロットが首を傾け、二頭身で二足歩行モードになっているモナを発見する。

「……ん?……猫さん……?」

『ああ。この姿では初めてだったな。我が輩はモナ……モルガナのもう一つの姿だ』

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」

 城ヶ崎シャーロットがいきなり吼えた。そして、二足歩行モードのモルガナを、ガッシリと捕まえてしまう。

『ど、どうした!?な、なんだ!?』

「むふふ!!……ついに……ついに、モルガナと喋っちゃったよー……これで、私も魔法少女の仲間入りだー」

『ま、魔法少女かどうかはともかく……なあ、ジョーカー。とりあえず、城ヶ崎を救出出来たことだし、今夜はこのまま撤退しないか?』

「……そうだな」

 気になることは多いが、シャドウがうろつく場所に、いつまでもいるなんてことは危険過ぎる。

 ペルソナ使いである自分たちはともかく、城ヶ崎シャーロットはただの一般人なのだから……。

「……よし。城ヶ崎、立てるか?……歩けるな?」

「えー。モルガナとお喋りしているのに、もう夢タイム終わりなのー?」

『夢じゃねーし……まあ、説明してもイマイチ通じないだろうな。コイツも寝ぼけてるっぽいし……』
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