第四十話 洋館化
城ヶ崎シャーロットのマンションは異世界に侵食されているようだ。先ほど訪れた時と比べて、その様相は全く異なる。
コンクリート製の外壁は、今では吸血鬼でも住んでいそうなほどの洋館テイストと化している。ヨーロッパの貴族の屋敷が、マンション化されたらこんな形になるのだろうか……?
少なくとも、夕暮れ時に見た没個性的な近代建築とは、どこまでも異なっている。
『遠くで見た時よりも、『歪み』がヒドくなっているのか……?我が輩たちが近づいたから、『歪んだ』のかもしれないな』
「……どういうことだ?」
『認知させられているんだろ。細かな違いや、肌で感じる気配……そういうものの異変に対して、近づくほどに詳細に感じる。こちらが持つ認識が深まるほどに、異常な形が鮮明になるってことだろ……』
「異常の中心は、ここなのか?」
『そこまでは断言出来ん……これは、ヒトの歪んだ欲望が作り上げたパレスじゃない。お宝のにおいもしないしな。これは……何か分からない力により、歪んだものだ』
「……ふむ。とにかく、突入しよう」
『ああ。だが、裏口から入ろうぜ。怪盗としての基本だ。エントランスは、警備のつもりかシャドウがいやがる……』
ジョーカーはモナの言葉に瞳を細める。たしかに、エントランスの奥には警棒を持ったシャドウが仁王立ちしている。
『アイツを倒すのは難しくないが……戦えば、他のシャドウを呼び寄せるかもしれない。そうなれば……我が輩たちだけでは戦力が心許ないのも事実だ』
「そうだな……時間をあまりかけたくはない。見つからずに潜入した方が、早いか…」
『城ヶ崎がどこにいるのかも分からないしな……戦闘に巻き込んで、大ケガをさせるわけにもいかないぞ』
ブブブブ。
ジョーカーのスマホが振動した。ジョーカーは、スマホの画面を見る。『異世界ナビ』が勝手に開き、メッセージが表示される。
『城ヶ崎シャーロットは自宅マンションの屋上から飛び降りた。4月9日02:28』
「……っ!!」
『……おい、なんだよ。それ……ッ』
「落ち着け。まだ、1時30分だ」
怪盗の目はスマホの左上に表示された時刻を見つめながら、そう語る。
『なに?……じゃあ、これは予告?……いや、つまり。その時刻になると、そうなるっていうのか?』
「……そうはさせない」
『ああ!!もちろんだ!!……とにかく、あと一時間で、そんなことが起きるのかもしれない!!……目指すは、最上階だ!!あの城ヶ崎が自殺なんてしない!!……誰かに、突き落とされるんだ!!』
「……七不思議だと、自殺した女生徒か」
『……あの鐘の音を聞いたから?……自殺した女生徒と、城ヶ崎は何も関係ないだろ!?それなのに……ああ、クソ、分からねえ!!』
「急ぐぞ!!」
『お、おう!!』
怪盗たちは影を伸ばすような速度でマンションの裏手へと向かう。そこにはゴミステーションがあり、非常口も存在していた。
「……見つけた」
『ああ。あそこからならコッソリと入れるかもしれないな』
「モナ。監視カメラがある。パチンコで壊せるか?」
『おう!そんなこともあろうかと、パチンコは、常備しているんだ!!』
ニヤリと笑いながらモナは愛用のパチンコを取り出していた。モナのその様子を見ながら、ジョーカーは自分の装備も確認していた。ナイフと拳銃がある。いつもの装備だ。拳銃の弾もちゃんと入っていた。
……自分でも射撃は出来るだろうが、ここはモナに任せよう。パチンコの方が、銃撃の音が小さくて済む。
「モナ、頼んだ」
『任された!!……照準よーしッ!!……ファイヤーッッ!!』
シュパン!!モナのパチンコが弾を放ち、監視カメラを打ち据えていた。監視カメラは煙を上げて頭を垂れる。パチンコの威力はかなりのものだったらしく、監視カメラは完全に破壊させていた。
『フフフ。さすがは我が輩だ。ブランクをカンジさせない射撃精度だ!』
「……ああ。行くぞ」
『おう!!』
二人はすばやく非常口に取りついた。ジョーカーはドアノブを回すが、想像通り鍵がかかっている。想定内だから、落ち着いたものだ。モナに手を伸ばし、モナからピッキングツールを譲り受ける。
それらを鍵穴の中に差し込んで、ガチャガチャカチャリと、ものの十数秒で怪盗の技巧の前に鍵穴を屈服させてやった。
「開いたぞ」
『さすがの早業だな。よし、突入しよう。待っていろよ、城ヶ崎!!』
二人はそのままマンション内へと入り込む……マンションの中は……やたらと古くさくなっていた。壁紙はボロボロであり、照明はまばらな間隔で電球が天井からぶらさがっているばかりだ……。
『うお。古くさいっ!!裏口だからって、ショボく作り過ぎだろ……っ!?いや……というよりも、なんだか、ホラーテイストだな。城ヶ崎の心象風景じゃない……』
「もしかして、自殺した女生徒の心が反映されているのだろうか……?」
「ああ、そんなところかもしれん。だが、この闇は……』
「……そうだな。『使える』」
「フフフ。さすがはジョーカー、分かっているじゃないか」
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