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ペルソナ5:OXYMORON……賢明なる愚者へ。

原作: その他 (原作:ペルソナ5) 作者: よしふみ
目次

第三十四話    赤い彗星……


 城ヶ崎シャーロットへのアイシングもテーピングも終わる。蓮は彼女の足首の調子を確かめるために、命令するのだ。

「ちょっと歩いてみろ」

「うん。おー……うーむ……ふむふむー……?」

「どんなカンジだ?」

「痛くないっすッ!!」

「そうか。それは良かった」

「不思議だねー。しっかりと固定して、冷やしただけなのに」

「理屈は説明してやれるが……聞くのか?」

「……いいかも。シャーさん、難しい話題は苦手ガールだから……っ」

『ダメじゃないか……まあ、武見レベルの説明をしていたら、本当に城ヶ崎のヤツ、頭がパンクしちゃうかもしれない……』

 そんなに頭の良いタイプのオタクじゃない。失礼ながら、モルガナはそんな評価を彼女にしていた。

「……さて。ゆっくりとしていって欲しいところじゃあるが……そろそろ暗くなってくる」

「そだねー。まだ四月の頭だもん。お日さま時間は短めさんだよねー……それに、ふわーあ。お腹いっぱいになったし……眠たくなってきたよー……お家に戻って、眠る……っ」

「じゃあ、送ろう。城ヶ崎の自転車をオレが押して歩いてやろう。それとも、自転車に乗れるか?」

「うーん。足首がガッチリと固定されているので……ちょっと、これで赤い彗星号に乗るのは、シャーさんは不安でござーる……」

『赤い彗星号?……なんだか、カッコいい名前を自転車につけていやがるようだな。ガレージにある自転車にも、何か名前をつけてやるか、蓮?』

「……それはともかく。城ヶ崎、暗くなる前に送っていこう」

「ありがとねー……ほーんと、レンレンには何から何までお世話になってしまって……」

「気にするな。城ヶ崎がいてくれて、オレも楽しかった」

「そ、そーでござるか?……な、なら、ちょっとだけ安心したよ。レンレンは、やさしいよね。私みたいにドジでとろくさい子でも、ちゃんと構ってくれるというか……」

『ドジでトロいという自覚はあるんだな。でも、それを分かっていても、人助けをしようとするんだ。城ヶ崎って、いいヤツだぜ』

「あー……モルガナに慰められている気がするっ!」

 足下にやって来たモルガナを、城ヶ崎はやさしく抱き上げた。モルガナと、じーっと見つめ合っている。言葉を超えたコミュニケーションを実行しているのかもしれない。

 しばらくその見つめ合いは続き、城ヶ崎はモルガナを胸元にぎゅーっと抱きしめていた。

「モルガナ、やっぱり可愛いっ!!私のお家にも、モルガナが欲しいよーっ!!」

「家では猫が飼えないのか?」

「賃貸のマンションだからね。お姉ちゃんと二人暮らしなの。ペットは禁止の方向でーす」

「そうなのか」

「うん。そなの。だーから、今、この瞬間……猫成分を吸収しているの、思う存分にねッ!!むふふ……猫成分、チャージ中……っ」

『……なんだか、双葉に似ているな。二人とも、マンガ大好きなトコロあるし。まあ、双葉は特撮とかの方か……よく分からんが、いい加減に、はなせーっ!!』

 すりすりされてイライラして来たのか、モルガナが抗議の声を上げた。城ヶ崎シャーロットは残念そうに、モルガナを床に置いた。

「ふー。でも、猫さん成分はチャージ出来た。これで、今夜はぐっすりと眠れそうだ!」

「良かったな」

「うん。良かったー……って。そうそう。アドレスを交換しておこーよ。なんだか、ずっと一緒だったから、そういうタイミング逸していたよね」

「ああ」

 蓮と城ヶ崎シャーロットはスマホを取り出し、それぞれのアドレスを交換する……。

「むふふ。こーれで、オッケー、レンレンが迷子になっても、シャーさん、赤い彗星号で救出に行けるよね」

「地元だから、迷子になることはない」

「なるほど。レンレンは、この街の住民としての経験値が豊富……ッ。むしろ、私の方が迷子になりそうだ」

『その可能性は、十二分に感じてしまうな……自称するぐらい、ドジな子なんだから。とにかく、いい加減、出かけちまおうぜ?あまり遅くなるとマズい。夜道は危険だし、何より、まだ四月の夜風は肌寒いからな』

 ……モルガナに促されて、蓮は城ヶ崎シャーロットの自転車こと、赤い彗星号と共に、城ヶ崎シャーロットを家まで送ることにする。春とはいえ、夕方の風は少し寒かった。

「おー……意外と、お外、冷えちゃってるなー」

「そうだな」

「だから、レンレンを風避けに使ってもいいでござる?」

「別にいいでござる」

「なるほど。紳士サムライだ、レンレンはいい日本男児だ」

『紳士サムライか。なかなかカッコいいかもしれん……』

 モルガナは、城ヶ崎の通学バッグと共に、赤い彗星号のカゴに入っている。

 自転車のカゴのことを、モルガナは気に入っているようだった。前脚をピンと張り、背を伸ばして自転車からの眺めを楽しんでいる……。

「レンレンは晩ご飯はどーするの?」

「自炊する予定だな。帰りに、近所のスーパーで特売品を探す」

「へー。何を作るご予定?」

「そうだな。さっき、ホットケーキを作って……ルブランのメニューを練習しておきたくなったんだ。だから、カレーを作ろうかと思う」

「おー。カレー!!……あー、大好き。ホント、カレー大好きだー」

『なら、城ヶ崎も作ればいいじゃないか』

「モルガナが、城ヶ崎もカレーを作れと言っている」

「シャーさん、料理、苦手。包丁、怖いでござる」

「……そうか。たしかに、尖っているし、切れるし、危ないな」

「うん。そーなんだ。ああいう、危ないのは、怖いでござる」


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