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ペルソナ5:OXYMORON……賢明なる愚者へ。

原作: その他 (原作:ペルソナ5) 作者: よしふみ
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第三十一話


 城ヶ崎シャーロットのバッグは、やはり重たかった。どんなマンガを詰めているのだろうか……?

 いや、乙女の秘密を詮索するのは、良くないことだろう。蓮はただ黙って、モルガナを抱っこしながら歩く城ヶ崎シャーロットを誘導する。

「次の道を左折したら、オレの家はすぐそこだ」

「ラジャーでーす。モルガナ、もうすぐお家に到着だよ?ハッピー?」

『まあまあだな。でも、落ち着くのは確かだ』

「今、あいむ、はっぴーって、言った気がする」

「惜しい感じだよ」

『……たしかに、ちょっと惜しいかもな。言葉は伝わらなかったとしても、感情を理解してくれることは出来るわけだよな……なんだか、少し嬉しいぜ』

 城ヶ崎シャーロットの小さなアゴを頭に置かれたまま、モルガナは満足げに、にんまりと笑っている。

「着いたぞ」

「おー……ここが、レンレン・ハウスか。ガレージがあるんだね、素敵」

「城ヶ崎の家は、ここから近いのか?」

「うん。1キロちょいぐらいかな。自転車だとすぐだね」

「そうか。まあ、上がれ。コーヒーでも出す」

「うん!ちょうど、そういうのいい時間だよね」

 きゅー。

 城ヶ崎シャーロットの腹が可愛い音で空腹を訴えて来る。

「はわわ!そういうつもりじゃ!?」

『蓮、何かオヤツも一緒に出してやれよ。クッキーか何かあっただろう?』

 モルガナに対してうなずいた後、蓮は城ヶ崎シャーロットに質問する。

「クッキーと、ホットケーキ。どちらが好みだ?」

「え?ホットケーキかなー。フワフワしていて、食べるとワクワクだもんねー!」

 空想するホットケーキに、城ヶ崎シャーロットの食欲はヨダレとなって応えていた。モルガナの頭に、彼女のヨダレが垂れるんじゃないかと心配になる……。

「わかった。上がれ、ホットケーキを焼いてやる」

「ホント!?……ウフフ。喫茶店仕込みのレンレンのテクニックを、再び堪能することが出来るとは……シャーさんは、感激でござるよ」

「有料だぞ」

「ふえええ!?お、お金取るの!?」

「ジョークだ。もちろん、無料だから安心しろ」

「よ、良かったー……レンレン、真顔で言うんだもんね?シャーさん、ビックリしちゃうよね、モルガナ?」

『マジメでクールなフェイスは、咄嗟の冗談に周囲が対応しにくいところがあるんだよな。まあ、蓮はすぐに自分で冗談だと報告してくれるから、分かりやすいところもあるけどな』

 ……ふむ。自分はやはりユーモアとは相性が悪いのだろうか?……マジメな性格をしているように、周囲に受け取られている―――それはそれで、張り合いが無いと言うか。

 シュージン学園での一年間の影響なのか、周囲から刺々しい視線を向けられるぐらいの方が慣れているような気もしている。

 それはそれで、異常なことであることは認識しているのだが、慣れとは怖いというべきなのだろうか。

 まあ、それはともかく。

「とにかく、上がれ。足も休めておくといい」

「うん。ほとんど痛くはないけれど、ちょっと歩くと、違和感が出て来る感じだ」

「後で、もう一度アイシングしておこう」

「レンレンは、私の主治医的なポジションだね!」

「お医者さんゴッコか」

「あはは。エッチな響きだー」

「今日は両親もいないから、最適だな」

「うぬん。ホント、エッチなマンガだったら、大変なことされちゃうパターンだね。お邪魔しまーす」

『……いや。警戒心とかねーのかよ?……よくこんな会話が成立するな。なんか、城ヶ崎らしいけどなぁ……』

 蓮はモルガナを抱っこしたまま離さない城ヶ崎シャーロットを、リビングへと案内する。リビングにあるソファーに座った城ヶ崎シャーロットは、ふーと大きく息を吐いた。

「安心するよー……あーんど、ちょっとだけど、コーヒーの香りがするよ」

「コーヒーの豆を挽いたからな」

「豆を……ひく?……おー。えーと、ゴリゴリするヤツかな?」

「ゴリゴリするヤツだ」

「おー。本格的だね!さすが、喫茶店の屋根裏に住み込んでまで、コーヒー修行に明け暮れただけはないよね!」

『そういう日々じゃなかったハズだが……城ヶ崎なりに、気を使ってくれているのかな?』

 冤罪で逮捕され、保護司に預けられた。それが、あの一年間を最も短く説明する言葉であったが……それは、あの大切な時間を表現するには、あまりにも色彩が足りない言葉のように思える。

 蓮は微笑む。コーヒー修行に明け暮れた一年。そうだ、たしかに、そんな側面もあの日々を持っているのだ。

「修行の成果を、見せてやる」

「おお。少年マンガの主人公っぽいセリフだ!!圧倒的な美味しさを誇る、ホットケーキが出て来るパターンだよ、モルガナ。楽しみだねー」

『……おいおい、ハードルが上がっちまっているぜ?……まあ、修行の成果を見せてくれ。我が輩も、楽しみにしておいてやる……手伝ってやりたいところだが、抱っこされていて、どうにも動けそうにないからな。応援しておいてやるぞ』

「まかせた」

 蓮はそう言い残して、キッチンへと向かうのだ。少年マンガの主人公には憧れはないが、自分の料理を美味しく食べてはもらいたい……ルブラン仕込みの腕を振るう時が来たようだ。


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