第十七話 『神代』
罪と罰。厳格なジャッジをする教師、それが神代らしい。だが、たしかに蓮は罪悪感も背負っていた。自分を助けようとしたせいで、城ヶ崎シャーロットはケガをしてしまったのだから。
『……いい先生だな。お前の心のなかにある罪悪感を、見抜いていたみたいだ。いい機会だから、罪を償おうとしようぜ。こんな美女とお近づきになれたら、それだけでも最高のことだしな!!』
「……あれ?どこからか、猫の声が?」
「そ、それは、アレですよ、先生。近頃、野良猫が校内にいるって噂、知りません?」
「そうなのですか?聞いたコトもなかったですが……まあ、入学式の準備やら、受験生の担任になったりと……私も、いつもより注意力が散漫となっているのかもしれない。学校の変化に気づけないのは、教師として修行不足を感じます」
……神代はずいぶんマジメな性格をしているらしい。自分のテリトリー内の異変に気づけなかったことを反省し始めている。
「……主よ。未熟な私をお許しください」
そんな行動に出ている神代を見ていた城ヶ崎シャーロットは、蓮の制服を引っ張りながら、小声で訊いてくる。
「……うう。どーしよ、レンレン、先生を追い込んじゃった……咄嗟についた嘘が、なんだか罪深く感じるよう」
「……罪深いなら、罰を受ければいい」
「え?……あ。そうか。先生!……神代先生!!」
「なんですか、主へ祈りと反省の言葉を捧げている最中に……?」
神代先生は口を細めて、不機嫌そうに膨らんだホッペタを見せつけてくる。どこか子供らしい表情をするみたいだ。
モルガナは、美女が見せるその子供らしさを気に入っていたようだが、蓮にはそんな属性は存在していなかった。
城ヶ崎シャーロットは神代先生へ、交渉を試みる。
「……あのですね。私もレンレンに二人乗りをしようと誘ったりしましたし、そもそも遅刻しちゃっています」
「そうですね。だから、どうしたというのですか、城ヶ崎シャーロットさん?」
「だ、だからですねー。私も、レンレンといっしょに、ここの教会のお掃除を手伝わせてもらいたいです!!レンレンだけ、掃除させるなんて、ダメです。ズルした気になります」
「……ふむ。たしかに、貴方の言い分にも一理があるように感じます。貴方も遅刻したのは事実ですし、ね……?」
「はい。遅刻しちゃいました!!」
「……たしかに、褒められてことではありませんからね。事情は把握していますが……でも、いい機会かもしれません。二人に手伝ってもらうとしましょう。それで、遅刻の件は帳消しにしておいてあげます」
「やったね!レンレン、いっしょに掃除だよ!!」
「……ああ、がんばろう」
「うふふ。いい心がけです……充実した歳月を、過ごされたようで、何よりです」
……この一年間のことを言っているのだろうか?……神代がこちらを見つめて来る慈愛に満ちた瞳は……何か、もっと長い期間を見据えての発言のようにも感じられる。
……どこかで会ったことがあるのだろうか?
いや。そんな記憶はないはずだが……?
「……とにかく。今さら入学式に駆け込んでは、新入生に間違われてしまう危険もありますからね」
「え。さ、3年生としては、それ、屈辱の極みなんですけど?……だよね、レンレン?」
「若く見られるぞ」
「おお。そ、そうだ。2才も若返ることになるのか……って、そうはならないよ!?恥をかくだけの気がするんだよー?」
『実際、その通りだろうな』
「……あら。また、猫ちゃんの声が……?」
「き、きっと、あっちの草むらの方ですよ。猫さんは、草むらとか好きそうじゃないですか!?」
誤魔化し方が下手だな。猫の口を肉球で押さえながら、モルガナは城ヶ崎シャーロットに対して、そんな評価をつけてみた。演技力は、少なそうだ……と。
だが、杏殿も、最初はヒドい演技しか出来なかった。ヒトは、磨けば化けるものなのである。
そのうち、城ヶ崎も化けるのだろうか……?
「……まあ。猫のことは、とりあえず問題はありません。新入生の門出に対して、この場で祈りを捧げて下さい」
「わかりました」
「……わかった」
「……そのあとは、3のBの教室に戻っておきなさい。ホームルームをして、今日は解散です。クラス委員候補の生徒に、雨宮さんに校内を案内してもらおうかと考えていたのですが……城ヶ崎さんに任せましょうか」
「オッケーです。レンレンに、ミカエルのこと教えたげますよ!頼れる先輩として!」
「……それは嬉しいが。足首は?」
「え?……んー。そうだね。かなり痛みは引いてる」
「そうか。じゃあ、教室に行ったら、アイシングしておこう。アイシングは、回数が多いほど有効だからな」
「そなんだー。おねがーい!」
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