第十二話 フォロー・ミー
「……そんなことがあったのよ。一年前にね……獅童ってのは、他にも色んな悪事が露呈してる。何故か、人が変わったかのように、自分の悪事を自供し始めているみたい。まるで、どこかの怪盗団に心でも盗まれたみたいにね……」
『それはそうなんだが。蓮の無実を証明したのは、怪盗団の仲間の努力だぞ。ペルソナの力じゃない。ただのヒトとしての努力の成果だ』
「……レンレン、大変だったんだねー。女の人、助けようとしたのに……良いことしようとしたのに、逆に、逮捕されて犯罪者にされちゃうなんて……酷いよ」
城ヶ崎シャーロットは、今にも泣きそうだ……いや、もう泣き始めている。
『城ヶ崎。泣くな。ほら、蓮。我が輩では猫の言葉のままだ。お前の口で言ってやれ』
モルガナの言葉に蓮の頭は、うなずくことで返事にする。
「泣くな、城ヶ崎」
「……うん。そだねー。私が泣いても、何にもならないよねー」
「そうだな」
「うわ。私の涙って、もしかして、無力?」
「いいや。そんなことはない。でも、もう泣く必要はないからだ。オレの無実は証明されているんだ」
『そうだ。怪盗団の皆が、がんばった成果だ。ペルソナの力を使わなくても、世の中を変えるというコトは出来るんだからな!』
「えへへ。モルガナが、ニャーニャー言ってるね。レンレンと同じコトを言っているのかな。勝訴ーって?」
『勝訴?……うーみ。なんだか、少し違うような気もするが……まあ、そんな認識でも問題はないよな……』
「……有罪になった事件がくつがえるなんてね。日本の司法制度じゃ、滅多とあることのない奇跡よ」
「ホント。冤罪事件の重さってのは、警察も検察も理解しているハズなのに……有力議員の前じゃ、正規のプロセスがあっさりと歪められちまった……腐った世の中だ」
『……正義感を持っている警官もいるんだな。それなのに…………いや、あまり、いつまでも文句を言っても仕方がないか』
「……とにかく。オレたち警察は、君には大きな借りがある。だからといって、何かをしてやれるわけじゃないがな」
「遅刻しそうなところを、送ってくれている」
「あはは。まあ、そうだな……でも、これは秘密だぜ?……最近は、世の中がうるさいんだよ。パトカーを私用で使っているとか責められちまいそうだからな」
「……そうですね。本当は、こういうことはダメなことなんだからね。シャーロット、他の人に言わないでね?……遅刻しそうだったから、パトカーに送ってもらったとか?」
「りょーかい!……でも、なんで、私にだけ口止めするの?レンレンは?」
「アンタがおしゃべりで、何でも余計なことを言いそうだからよ」
「酷い。お姉ちゃんが、私のことをアホな子あつかいするよー、モルガナー」
『……少なからず、アホな子のにおいはするケドな……いや、いい香りだぞ、城ヶ崎は』
ぎゅーっと抱きしめられながら、黒い猫はその表情を緩めているように見える。二頭身モードだったら、もっと露骨な表情になっているのだろう。城ヶ崎シャーロットに抱きしめられて、よろこんでいるのだ。
「……さてと。そろそろ、ミカエルだ。あんまり近くにパトカーなんかで乗りつけちまうと、他の連中がビックリするだろうよ」
「そうね。雨宮君に対して、変な噂が広まったりしたら本末転倒だわ。2キロぐらいあるけど、歩きなさい。間に合いそうになかったら、走れ、学生」
パトカーが停車する。蓮と、モルガナを抱えた城ヶ崎シャーロットはそこから降りた。緩やかながら、坂道がつづき……小高い丘の上に校舎が見える。聖心ミカエル学園。私立の高校であり、蓮がこれから通うことになる学校だ。
「じゃあね、遅刻しないように急ぎなさいよ?」
「了解だよ、お姉ちゃん!」
小さな指をピシリとそろえて、城ヶ崎シャーロットは敬礼してみる。婦人警官は妹の行動に呆れつつも、妹が脇に捕獲したままの猫を見る。
「えーと……ちょっといいかしら。あなたたち……その猫、どうするつもりなの?」
「モルガナはね、レンレンの相棒だから、レンレンと一緒なの」
「え?……はあ?まさか、猫を連れて学校に行くつもり!?」
驚いた顔が蓮へと向けられる。
『……そりゃ、驚くよな。一般的じゃない。どうする、誤魔化すか?』
「また、ニャーニャー言ってるなー」
「バッグに入れているから、大丈夫だ」
「ええ?……バッグに入れているから、大丈夫……?」
「東京の高校では、いつもそうして来た。だから、慣れている。モルガナはバッグの中が好きなんだ」
そう言いながら、蓮は通学バッグを足下に置いた。モルガナは、演技をしてやることにした。別にバッグの中がお気に入りというわけでもないが……いや、まあ、嫌いでもないけれど―――尻尾を立てたまま、スタスタと素早く歩いたモルガナは、蓮の指が開いた通学バッグの中へと飛び込んでいた。
そのまま、蓮はチャックを閉めてしまう。男の警官が、おお!とうなっていた。
「……面白い芸を、持っているな。ネットに上げたら、食いつき良さそう。いや、炎上するかな?……バッグに猫を入れるなて、ヒドいって……?」
「モルガナは喜んでいるぞ」
『そ、そうでもないが……』
「この中で眠っている。バレないから、大丈夫だ」
「そういうことなのだ!だから、安心、完璧、万事がオッケー!」
「……最近の高校生の感覚にはついていけないわ。まあ、自己責任でね?……バレたら、知らないわよ?」
「家に猫を一人だけで置いてくるなんて、そっちのほうがヒドいと言えばいい」
「レンレン、策士だー!!」
『……はあ。やっぱり、基本的には秘密にしておこうぜ?……我が輩の存在がバレると、あちこちで騒がれそうだしな……そういうのは、新生活のスタートには負担になるような気がするぞ』
「……そうだな」
いつものようにモルガナ・バッグを肩へとかけて、雨宮蓮は長い坂の上にある校舎を目指して歩き始める。
「ちょっとー。私も行くよー。置いてかないでー!」
「オレについてこい」
「ええ!?いやいや。私の方が、同級生だけど……ミカエルでは先輩なんだからあ!!」
『……ふむ。ちょっとだけ、頼りのない先輩ではあるが。お前の事情を理解してくれている友人が出来たのは、頼もしくはあるな』
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