第八話 仲良しコンビ
城ヶ崎シャーロットは、ゆっくりとした動作で学校指定の黒い靴下を脱いでいく。
スカートの端がめくれそうになっているが、そういったことには無頓着らしい。紳士だから、少しだけ見とれて、その後、空に漂うサクラの花びらを蓮を見つめた。
「脱げた。乙女の柔肌・開放モードっ!!」
『……コイツもコイツで、ノリがいいところがあるな……とにかく、蓮、手当をしてやれ』
「ああ。治療を開始する」
「うむ。頼んだぞ、衛生兵」
蓮は城ヶ崎シャーロットの右足首を観察する。白くてすべすべした肌だが、足首の外側がすこし腫れ始めていた。
「アイシングするぞ」
『うむ。パスだ』
地面に置いた通学バッグから、ニョキリとコールド・スプレーの缶が生えてくる。蓮はそれを無造作に掴み取ると、城ヶ崎シャーロットの足首に冷たい空気を吹きかける。
「ひゃう。冷たい……っ」
「傷口を冷やすといい。内出血を少しは防ぐことが出来る。その後は……テーピングで痛めた靱帯を保護するように固定して……包帯で、周囲の圧迫する」
解説しながら、武見とモルガナに仕込まれた応急処置術を、蓮は発揮していた。あっという間に、その処置は完成する。
「うお。早っ!?て、手の動きが見えないレベルだよー……あと、にょ、女体に慣れているの?思春期の男の子なのに、私レベルの美少女の足にビビらずに触れるとか?……や、やっぱり、東京あたりで、お慣れになって……?」
「それなりにだ」
「そ、それなりなのかー……っ」
「……固定はしたぞ。今、どんな具合だ?」
「う、うん」
城ヶ崎は靴を履いたまま、ゆっくりと立ち上がる。痛みは、完全には消えていない。当然だ。だが、それでも、かなりマシになっているようだ。
「うん。痛みはあるけど、だいぶ、いいカンジだよ。ありがとね、レンレン」
「……いや。オレがケガをさせてしまったようなものだからな」
「ううん。私がドジっちゃっただけだもん。レンレン、悪くないよ?」
「……じゃあ、お互いサマだな」
「……いい発想だね!うん。それで行こう。私たち、どっちとも悪くて、それを半分こだよ!!」
『……いい子だぜ……』
モルガナは健気な女子に弱いのかもしれない。理想が高いような……いや、割りと節操が無いような……?
「……でも。これで、大遅刻決定かもー」
「次のバスでいっしょに行けばいい」
「でも。自転車あるし?」
「オレの家にでも置いておけ。すぐそこにある」
「ホント?」
「ああ。オレが運んでおこう」
「……うん!任せたぞ、衛生兵レンレン!」
「了解だ。座っていろ。立っていると、足首に負担がかかる」
「わかったよ。そうしておくね」
蓮はベンチに座った城ヶ崎シャーロットに、自分の通学バッグを手渡した。
「預かっておくぜ!?」
「……ヒマなら、それと話していろ」
『それって言うなよ』
「う、うん。ニャーニャー?」
『にゃ、にゃーにゃー?』
「うお。人生初だ。通学バッグと、私、対話している……っ!?」
城ヶ崎シャーロットは、まだバッグの中のモルガナに気がついていないようだ。
「……開けていいぞ」
『……っ!?』
「いいの?男子特有の、アレな雑誌とか入っていたりしない?」
「ないな」
「そ、そうか。あったらあったで、リアクションに困るよね」
「だろうな。変なものは、何一つ入ってはいないから、安心しろ」
「……ふむ!……なら、開けてみようじゃないかー!えーい。オープン・ザ・バッグっ!!」
じいいいい!……通学バッグのチャックが開かれて、その中にいるモルガナと、城ヶ崎シャーロットの目が合った。二人とも青い瞳である。
「うわ!!猫さんがいたー!!」
『……おい。いいのか、蓮。バレちまったぞ……』
「一緒に遊んでいろ」
「ヒトによく慣れてるタイプの猫さん?」
「ああ。とくに女性には優しい」
「おー。紳士な猫さんだ。オスなんだね?」
「オスだ」
『うむ。紳士だ。モルガナだ!』
「ニャーニャー言ってる!」
「モルガナだと、自己紹介しているんだ」
「おー。そっかー、モルガナちゃーん。よろしくねー」
城ヶ崎シャーロットは、そう言いながらモルガナを抱きしめていた。モルガナは、びく!と体を強ばらす。
「あれれ?……驚かせちゃったかな?」
「いいや。喜んでいるんだ。城ヶ崎と仲良くなれて」
「そっかー。いい猫さん。私のこと、好きなんだねー。紳士だー」
『う、うむ。紳士だぞ!紳士だが……我が輩には、杏殿という愛すべき女性が……』
そう言いながらも、モルガナは城ヶ崎シャーロットに捕獲されたかのように抱かれる。にんまりと猫の顔が笑うのが見えた。
『……蓮、行って来い。自転車を置いてから、走って戻れ』
「わかった」
「んー。レンレン、猫さんと、お話ししてるっぽい……?」
「ニャー」
『ニャー』
「あはは。仲良しコンビだねー!!」
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