第四節 分かつ愛
私は過去の記憶・・・この特異点の発祥の出来事と思しき記憶を皆と共有した。
「こんな感じ‥。今まで言ってなくてごめん。」
「そんな・・!謝ることじゃありません。先輩に、そんな過去があったんですね・・・」
「あ、ちょっと重い話だけど、そんな重くとらえないでね!
もう自分の中ではとっくに受け入れているし、今の私があるのもそのことがあったから」
「ええ。あなたは人理を救ったただ一人のマスター。
よく頑張りましたね。
サーヴァントと一緒にいることも辛いでしょうに、お話してくださりありがとうございます。」
「全くだ。こんなエピソード、話してくれればよかったものを」
「みんなありがとう・・・。」
ダヴィンチちゃんの言ったとおり、びっくりするほどみんな受け入れてくれた。
弱みを前面に見せてしまったけれど、心の奥底にあった重しが無くなったようで、
なんだか風通しがいい気持ちだ。
「じゃあ、もう思い残すことは無いね、先に進もう。」
敷地内に進む。
そこからは魔物を倒しながら先に進んだ。
家のドアを開けると、
「えっ」
そこは私の知るかつての家では無かった。
壁は歪み、光を飲み込むように真っ暗な道。
でも、所々に、玄関に飾ってあったウサギの人形や、小さな靴(おそらく私が昔履いていた)など、私の家にまつわるアイテムが散りばめてあるのを見ると、
ここは本当に私の家だったんだ、と嫌というほど実感してしまう。
私の幼少期をつくった、居場所だった家。
それがどうしてこんな化け物の巣窟のようになってしまったのか。
あのサーヴァントと母の間に何があったのか。
なぜこの特異点ができたのか。
あのサーヴァントは何者だったのか。
もしカルデアにいるサーヴァントの誰かだったらどうしよう。
一筋縄で倒せる相手だろうか。
奥に進むにつれ、疑問が湧いてくる。
手が震えてきた。
「先輩、大丈夫です。私たちがいますから!
いつも私は先輩に支えられてばかりですから、
今回は私を頼ってくださいね。」
マシュは手を握ってくれた。
人肌は落ち着く。
ありがとうマシュ。私は彼女に微笑んだ。
進んでいくと、分岐点。3本の道が見える。
「分かれ道ですね。どちらを選びましょうか…?」
「!!」
声が聞こえる。
「よく来たな。カルデアのマスター。
お前らを歓迎するぞ。
正面の道の先に、私はいる。
ただ、この先に進むのはお前、1人だけだ。
サーヴァントは、右の道、左の道に進め。
背いて他の道に行こうものなら、マスターの命は無いぞ。
約10年ぶりくらいだろうか。再開を楽しみにしていたぞ、
リツカ。」
声はそこで途切れた。
「そんな、ここまで来て別行動なんて・・・
しかも、先輩一人であのサーヴァントのもとに行くなんて・・・
余りに危険すぎます!」
「右の道、左の道に行かせる目的は何なのでしょうか。
合流ができるなら、道を拓くのみですが」
「だが、奴は何をするかわからない。ただの脅しではないだろう、そんな奴だ。
どうする? リツカちゃん。」
「行くよ。私一人で。
アイツはそんなに簡単に私のことは殺さない気がする、勘だけど・・・
今だからわかるけど、アイツの狙いは恐らく私の魔力だと思う」
「なぜわかるのですか」
「その、あのサーヴァントが私の母親に強要していたのは、魔力供給だったから・・・」
表現に迷ったが、私はストレートに伝えた。
「すみません、デリカシーの無いことを聞きました」
「全然いいよ。この際だし。
なぜあのサーヴァントがそこまで母親を求めたのか・・・
当時、幼心には、サーヴァントがマスターに恋愛感情を抱くこともあるのかな、とか
のんきに考えたりもしたんだけど、ちゃ〇で少女漫画とかよく読んでたし、私。
でも、恋愛にしては違和感があったから。
その後色々調べたらさ、サーヴァントによってマスターの魔力の相性があるんだってね。相性がいいと何倍もの力が出る。
あのサーヴァントは時々暴走してて、それを制御できるのも母の令呪くらいだった。
その力を丸ごととりこんだなら、」
「・・・・」
途中おちゃらけてみたが、
アルジュナは複雑そうに、悲しそうに顔を歪ませて聞いていた。
私自身も申し訳なくなった。
アルジュナと私は恋仲にあったから。
――――――――
アルジュナはカルデアの中でも古株のサーヴァントだ。
初めのころの印象はクールな優等生。隙が無い。マスターである私に忠実に任務をこなしてくれる。一方で、本音では何を考えているかわからない。笑い方も模範的で、張り付けたような。温度が無い感じ。
また「永遠の孤独」を願い、奥深くまでは他者を踏み込ませないそのくせ、
時々放っておけないような、助けを求めるような悲しげな、今にも壊れそうな儚げな顔をしているときもある。
そんな彼の横顔をある特異点の黄昏時に見てしまった時から、
彼のことがなぜだか気になっていた。彼の横顔は美しく、私の脳裏に焼き付いていた。
一度、任務中に他のサーヴァントとはぐれてしまい、アルジュナと2人、洞窟で夜を明かしたことがあった。
マスターとサーヴァントは夢を共有することがある。
その夜、私はアルジュナが見ていた夢を偶然にも見てしまった。
アルジュナの過去。クリシュナとともに宿敵カルナを倒した時の話。
アルジュナはその戦いで英雄になった。
だが一方で「黒」の自分を抱えて生涯を生きることとなった。
取り返しのつかないことをしたアルジュナの、泣きそうな顔で笑うその歪んだ顔と、
響き渡る笑い声を私は忘れられない。
普段の彼からは想像もつかない、
劣等感、罪悪感、嫉妬、自責・・・様々な感情にまみれた、”人間らしい”彼だった。
過去に闇を持ったまま、その闇を抱えて生きる彼の姿は、私の姿と少なからず重なった。
私は夢の中で、彼に言った。
「あなたは、あなたのままでいいんだよ」
あなたの“黒”の部分も、私は全て受け入れたい。
目が覚めると、アルジュナは穏やかな表情で私にこう言った。
「あなたに出会えてよかった」
そこから、私たちが恋仲になるまでそう時間はかからなかった。
恋人がするようなことは当然していたのだが、私は母親のことを彼には伝えていなかった。
私はアルジュナが大好きだし、彼との行為も好きだった。
でも“私の母が自分のサーヴァントに魔力供給を強要されつづけ、挙句凌辱された”なんて過去を伝えたら、「マスターの母がサーヴァントから受けていた屈辱を、今度は自分が自分のマスターに対してしてしまっている」と、いらぬ罪悪感を、真面目なアルジュナは抱くのではないか・・・。
そう思い、彼には伝えていなかった。
―――――――
アルジュナは少しのあいだ俯いていたが、私をまっすぐ見つめ直して言った。
「すぐあなたのもとへ行きます。どうかご無事で」
「…うん。待ってる。」
アルジュナとダヴィンチちゃんは右の道、マシュとアンデルセンは左の道、
そして私は真ん中の道。
行こう。
「こんな感じ‥。今まで言ってなくてごめん。」
「そんな・・!謝ることじゃありません。先輩に、そんな過去があったんですね・・・」
「あ、ちょっと重い話だけど、そんな重くとらえないでね!
もう自分の中ではとっくに受け入れているし、今の私があるのもそのことがあったから」
「ええ。あなたは人理を救ったただ一人のマスター。
よく頑張りましたね。
サーヴァントと一緒にいることも辛いでしょうに、お話してくださりありがとうございます。」
「全くだ。こんなエピソード、話してくれればよかったものを」
「みんなありがとう・・・。」
ダヴィンチちゃんの言ったとおり、びっくりするほどみんな受け入れてくれた。
弱みを前面に見せてしまったけれど、心の奥底にあった重しが無くなったようで、
なんだか風通しがいい気持ちだ。
「じゃあ、もう思い残すことは無いね、先に進もう。」
敷地内に進む。
そこからは魔物を倒しながら先に進んだ。
家のドアを開けると、
「えっ」
そこは私の知るかつての家では無かった。
壁は歪み、光を飲み込むように真っ暗な道。
でも、所々に、玄関に飾ってあったウサギの人形や、小さな靴(おそらく私が昔履いていた)など、私の家にまつわるアイテムが散りばめてあるのを見ると、
ここは本当に私の家だったんだ、と嫌というほど実感してしまう。
私の幼少期をつくった、居場所だった家。
それがどうしてこんな化け物の巣窟のようになってしまったのか。
あのサーヴァントと母の間に何があったのか。
なぜこの特異点ができたのか。
あのサーヴァントは何者だったのか。
もしカルデアにいるサーヴァントの誰かだったらどうしよう。
一筋縄で倒せる相手だろうか。
奥に進むにつれ、疑問が湧いてくる。
手が震えてきた。
「先輩、大丈夫です。私たちがいますから!
いつも私は先輩に支えられてばかりですから、
今回は私を頼ってくださいね。」
マシュは手を握ってくれた。
人肌は落ち着く。
ありがとうマシュ。私は彼女に微笑んだ。
進んでいくと、分岐点。3本の道が見える。
「分かれ道ですね。どちらを選びましょうか…?」
「!!」
声が聞こえる。
「よく来たな。カルデアのマスター。
お前らを歓迎するぞ。
正面の道の先に、私はいる。
ただ、この先に進むのはお前、1人だけだ。
サーヴァントは、右の道、左の道に進め。
背いて他の道に行こうものなら、マスターの命は無いぞ。
約10年ぶりくらいだろうか。再開を楽しみにしていたぞ、
リツカ。」
声はそこで途切れた。
「そんな、ここまで来て別行動なんて・・・
しかも、先輩一人であのサーヴァントのもとに行くなんて・・・
余りに危険すぎます!」
「右の道、左の道に行かせる目的は何なのでしょうか。
合流ができるなら、道を拓くのみですが」
「だが、奴は何をするかわからない。ただの脅しではないだろう、そんな奴だ。
どうする? リツカちゃん。」
「行くよ。私一人で。
アイツはそんなに簡単に私のことは殺さない気がする、勘だけど・・・
今だからわかるけど、アイツの狙いは恐らく私の魔力だと思う」
「なぜわかるのですか」
「その、あのサーヴァントが私の母親に強要していたのは、魔力供給だったから・・・」
表現に迷ったが、私はストレートに伝えた。
「すみません、デリカシーの無いことを聞きました」
「全然いいよ。この際だし。
なぜあのサーヴァントがそこまで母親を求めたのか・・・
当時、幼心には、サーヴァントがマスターに恋愛感情を抱くこともあるのかな、とか
のんきに考えたりもしたんだけど、ちゃ〇で少女漫画とかよく読んでたし、私。
でも、恋愛にしては違和感があったから。
その後色々調べたらさ、サーヴァントによってマスターの魔力の相性があるんだってね。相性がいいと何倍もの力が出る。
あのサーヴァントは時々暴走してて、それを制御できるのも母の令呪くらいだった。
その力を丸ごととりこんだなら、」
「・・・・」
途中おちゃらけてみたが、
アルジュナは複雑そうに、悲しそうに顔を歪ませて聞いていた。
私自身も申し訳なくなった。
アルジュナと私は恋仲にあったから。
――――――――
アルジュナはカルデアの中でも古株のサーヴァントだ。
初めのころの印象はクールな優等生。隙が無い。マスターである私に忠実に任務をこなしてくれる。一方で、本音では何を考えているかわからない。笑い方も模範的で、張り付けたような。温度が無い感じ。
また「永遠の孤独」を願い、奥深くまでは他者を踏み込ませないそのくせ、
時々放っておけないような、助けを求めるような悲しげな、今にも壊れそうな儚げな顔をしているときもある。
そんな彼の横顔をある特異点の黄昏時に見てしまった時から、
彼のことがなぜだか気になっていた。彼の横顔は美しく、私の脳裏に焼き付いていた。
一度、任務中に他のサーヴァントとはぐれてしまい、アルジュナと2人、洞窟で夜を明かしたことがあった。
マスターとサーヴァントは夢を共有することがある。
その夜、私はアルジュナが見ていた夢を偶然にも見てしまった。
アルジュナの過去。クリシュナとともに宿敵カルナを倒した時の話。
アルジュナはその戦いで英雄になった。
だが一方で「黒」の自分を抱えて生涯を生きることとなった。
取り返しのつかないことをしたアルジュナの、泣きそうな顔で笑うその歪んだ顔と、
響き渡る笑い声を私は忘れられない。
普段の彼からは想像もつかない、
劣等感、罪悪感、嫉妬、自責・・・様々な感情にまみれた、”人間らしい”彼だった。
過去に闇を持ったまま、その闇を抱えて生きる彼の姿は、私の姿と少なからず重なった。
私は夢の中で、彼に言った。
「あなたは、あなたのままでいいんだよ」
あなたの“黒”の部分も、私は全て受け入れたい。
目が覚めると、アルジュナは穏やかな表情で私にこう言った。
「あなたに出会えてよかった」
そこから、私たちが恋仲になるまでそう時間はかからなかった。
恋人がするようなことは当然していたのだが、私は母親のことを彼には伝えていなかった。
私はアルジュナが大好きだし、彼との行為も好きだった。
でも“私の母が自分のサーヴァントに魔力供給を強要されつづけ、挙句凌辱された”なんて過去を伝えたら、「マスターの母がサーヴァントから受けていた屈辱を、今度は自分が自分のマスターに対してしてしまっている」と、いらぬ罪悪感を、真面目なアルジュナは抱くのではないか・・・。
そう思い、彼には伝えていなかった。
―――――――
アルジュナは少しのあいだ俯いていたが、私をまっすぐ見つめ直して言った。
「すぐあなたのもとへ行きます。どうかご無事で」
「…うん。待ってる。」
アルジュナとダヴィンチちゃんは右の道、マシュとアンデルセンは左の道、
そして私は真ん中の道。
行こう。
※会員登録するとコメントが書き込める様になります。