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バックステージで踊れ

原作: その他 (原作:刀剣乱舞) 作者: シュワシュワ炭酸
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本科と写し

 山姥切長義と山姥切国広は本科と写しという切っても切れない縁が存在している。
 山姥切長義は備前の刀工長船長義の代表作であり、傑作と名高い一振りの刀であった。それを手本に足利城主長尾顕長の依頼の元、刀匠堀川国広に打たれた刀が山姥切国広だった。
 『写し』とは『本科』を手本とし生まれる作品のことである。山姥切長義の『写し』は今現在にわたり様々な刀が存在しているが、今日まで国宝レベルと名高い刀は山姥切国広一振りのみである。
 さて山姥切長義には、自ら自負しているものがある。それは『山姥を斬った逸話がある霊刀』としての自分である。しかし後に堀川の最高傑作と名高い山姥切国広によってその逸話は揺らぐこととなった。
 山姥切国広こそ山姥を斬った刀ではないのか。
 山姥切国広の方が山姥切長義より良い刀ではないのか。
 人の語る逸話や評価は曖昧である。山姥切長義も歴史に残る素晴らしい刀である。しかし山姥切国広もまた歴史に名を残すほど素晴らしい刀だったために、人々は二振りを比べたのだ。加えて歴史をめぐる戦争がはじまり政府によって山姥切国広は審神者に支給される最初の五振りの一振りとなった。そのため多くの審神者たちの間で『山姥切』と言えば『山姥切国広』という考えが根付いている。
 それが山姥切長義には納得できなかった。山姥切国広の名誉のためにいっておくと、彼自身は何も悪くはなく、むしろ本科山姥切長義と比べられることに対して彼も苛立ちや悲しみを覚えているぐらいである。しかし山姥切国広に対して名を奪われたという怒りや本科としてやりきれない複雑な思いには長義にはある。だからこそ、長義は舞台裏で歩み続けるのだ。いつの日か自身も本丸へ行き、自分こそが『山姥切』だと名乗りを上げることを。


「歴史修正主義者が喋っただと?」
 眉をひそめ信じられないといわんばかりに隣の肥前はつぶやく。
 長義は刀を構え、警戒を怠らずに言い返した。
「我らが友とはどういうことかな?」
『オマエ達と我々は同ジ。志ガ違えどツカエル身。ドウだ?共に我々ト共にコナイカ?』
 紅い目を光らせ、異形の怪物は嗤う。
「いや、遠慮しておくよ。俺たちは君たちとは違う」
『オマエ達の主ハ友をナクシタノダロウ?主君のタメ二歴史をカエタイトハオモワナイノカ?』
 肥前は敵に聞こえない程度の小声で長義に話しかける。
「どうやら俺たちのことを例の本丸の刀だと思っているらしいな」
「それなら都合がいい。そういうフリをしておこう」
 今、特別な術式をかけた布は国広の身体にかけてある。長義が刀剣だと敵にばれてもおかしくはなかった。
「前の戦いで俺たちに話しかけたのは、交渉するためだったのか?」
『アア、そうだ。流石二前に丸腰デハナシカケヨウトしたノハ失敗ダッタ。ダカラ今日ハコチラモ本気デヤラセテモラッタ』
「へえ、他の奴らは喋れるのかな?」
『我ハ特別ナのだ』
 ニヤリと口角を上げ、異形の刀が言う。
「本当ハ後ろで寝テイル刀に聞キタカッタガ、仕方ガない。我とクルカ、コナイカ。問オウ。お前ダッテ主が悲シム顔を見タクはナイハズダ。お前ダッテ消シタイ過去ヤ嫌ナコトがアルハズダ」
「残念だが、俺にはそのような過去はないし。お前たちと仲間になるなんてことは考えられないよ」
 蒼い海の瞳を細め長義は答える。
 消したい過去、嫌な過去。確かに人は人生を歩んでいく過程においてそれは避けては通れない道であろう。それは長い歴史を歩んだ刀剣男士も同じことである。慕っていた主君が亡くなる様を何もできずにただ道具として流される物もいた。しかしだからといって、歴史を守ることを放棄はできないのだ。何故ならそれが刀剣男士の存在理由だと政府に仕えている長義は知っていた。
『ソウか、ナラ後ロで寝テイル奴もろとも死ね』
 長義の答えに敵はあからさまにがっかりした様子で言うと、多数の敵が長義たちを取り囲むように出現した。太刀や薙刀どれも眼光を光らせ、おどろおどろしい気配を放っている。
「それじゃあ、斬るとするか」
 人斬りの刀である肥前は気だるそうに言う。恐らく隠された口元は笑っているだろう。すると後ろで未だに目が覚めない国広に視線を移した。
「お前の写しは未だに夢の中か」
「その方が都合はいい。いくぞ」
 後ろで昏睡している写しをかばいながらの戦いは大変だろうが。丁度よいハンデである。久々の戦いで長義の血は滾る。どくどくと仮初の肉体に流れる血液が沸騰する。体中が敵を倒せと命令しているみたいだった。そして改めて思う、自分は刀だと。
 

「待たせたな、お前たちの死がきたぞ」

 
 刹那、好戦的かつ獰猛な笑みを浮かべ長義は堂々と敵陣に突込み敵の首を勢いよくはねた。


 国広が目を覚まして最初に見たものは仲間たちの安心した顔であった。
 皆傷が多くぼろぼろでありながらも誰一人として欠けてはいない仲間たちに国広は安心する。 
 するとがばりと、鯰尾と愛染が国広に勢いよく抱き着いてきた。
「良かった隊長、目を覚ましたんだな!」
「あああ、すみません、山姥切さん!!俺のせいでこんなことに、でも良かったああ!!」
 二人は涙と鼻水をぼろぼろと流しながら、国広の無事を喜んだ。
「俺こそ良かった、皆無事だったんだな」
 安心したように国広は息を吐く。あれだけの敵がいるなかよく無事に皆生きて来れたものである。
「まあそこはなんとかなったよ。ただあんな敵がいたなんて、帰ったら主に報告しないとね」
 燭台切は国広に優しく笑う。
「俺は驚きは好きだが、あんな驚きはもうこりごりだぜ」
 肩をすくめると鶴丸は明らかに嫌そうな表情をつくる。彼の白い衣装は返り血と自分の血で染まっていた。
「ま、俺は思う存分戦えたからいいけどよ。そういや隊長さん。その布はどうしたんだ?」
 ぶっきらぼうに同田貫は聞くと、国広はふと自分の身体にかかっている布の存在に気づいた。
 よく見てみると青い裏地がある白い布であった。いつも国広が身にまとっている襤褸布とは違い、高級そうな綺麗な布である。それを見ると国広は何か懐かしいような嬉しいような何とも言えない気持ちが芽生えた。
「もしかして誰かが隊長を看病してくれたのかもしれないな」
「会ったらお礼を言いましょう!」
 やっと国広から身体を離した愛染と鯰尾は言う。すると皆この布の持ち主の話で持ち切りになった。
 国広は再び、その布を静かに見つめる。
「また会えるのか……」
 ぽつりと呟く。しかし言葉とは裏腹にこの布の持ち主にいつか会えると心のどこかで確信めいた予感がした。もしその人物に会う時までにはもっと強くならなければならない。何故だか心のどこかでそう思った。
「もっと強くならないとな」
 自身に強く言い聞かせ、国広は体中の痛みに耐えながら立ち上がった。
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