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fate もしもモードレッドが喚ばれたら

原作: Fate 作者: MM
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苦々しくも手を繋いで

 石化の魔眼に晒されて、半身が麻痺する程のダメージを受けたんだ。苦痛には慣れている士郎でも、負担は大きかった。
 大部分は精神的な疲労だろう。腰が抜けかけている。
 彼女が心配して、優しい声で言葉をかけてきた。


「肩を貸しましょうか?」
 既に武装は解除してある。黒のスーツ姿だ。固い鎧に傷つけられる恐れもない。

「いやセイバーも疲れてるだろう。自分で歩けるぞ」
 疲れてるのは彼女も一緒だ。何より鎧を解除した彼女に支えられたら、少しばかり男の沽券に関わる。

 まあ、セイバーの方が遙かに強いのは知っているさ。それでもと思ってしまうから、特別な感情を抱いているのかもしれない。
 ちょっとだけ残念そうにしている彼女に気付かず。

「では帰りましょう」
「ああ」 
 二人で帰路についた。ああ、そうだ。帰路。初対面に近い二人だけど、あそこが家だと思えていた。


 戦闘があったせいで、すっかりと夜になっていた。
 人通りも少ない。冷たく厳しい冬の寒さを感じながら、進んでいく。
 午後の授業の時とは違って、特に会話なく。微妙な緊張感のまま、無言で歩いて行く。

「…ふう。歩くのも一苦労だな」
 士郎に石化のダメージが残っていて、歩みは遅く。
「焦る必要はありませんよ。私がついています」

 その事実がセイバーの顔を暗くしていた。嫌だ。彼女には笑っていてほしい。
 まだ自覚なき想いの熱が、小さく言葉を紡ぐんだ。
「ライダーとの戦闘で守ってくれてありがとな」

 二人を庇いながらの戦闘は、彼女の本意ではなかっただろう。全力を出せたならば、ライダーを仕留められたんだ。
 足手まといとまで言ってしまえば、セイバーに怒られそうだ。
「それが私の役割ですから」

 嬉しそうに言ってくれた。謙虚な姿でも、どこか照れているのを隠せてない。
「だからって、感謝しない理由にはならないだろう?」

 それでも今生きていられるのは、彼女が頑張ってくれたおかげである。感謝の言葉は伝えたかった。
「ライダーを仕留められたら良かったのですが」

「俺達を守りながらだったから仕方ないさ」
 アーチャーが活動出来たら別だっただろうがね。どうやら、あの弓兵は本当に魔力に弱いらしい。キャスターが天敵になるかもしれない。

「私の宝具ならば、恐らく消滅させられましたよ」
 自信ありげな言葉だった。それだけ誇りをもっているのだろう。
「宝具?」
 白銀の剣を真名解放すれば、凄まじい効果を得られるのだろうか?

「真名は語れませんが、全てを消し飛ばす稻妻の斬撃です」
 魔力と剣の力によって剣戟を加速。憎悪と憤怒を纏った紅雷が全てを消し飛ばす。それがセイバーの宝具の真価である。
「ああ。いっつも、雷を放ってるよな」

 そうだ。真名解放を下ならば、普段の魔力放出とは、比べ物にならない威力を発揮出来るだろう。
「消耗は大きいのであまり多用出来ませんが」

 ランクはA+。アーチャーがバーサーカーに見せた宝具を、遙かに上回る一撃を放てるんだ。分類は対城宝具。
 人数で換算するならば、千人近くは一度に消し飛ばせる規格外の力だ。
「騎士王の聖剣と同等に近い威力です」

 英霊達の中でもかなりの破壊力を誇っている。
 これで最上位に届いていないのだから、中々に恐ろしい。モノによっては国すら吹き飛ばす。本当の意味での規格外もある。

「さすがはセイバーだ。聞いている限りでは凄まじい力だ」
 使い時を間違えれば大変な事になる。マスターとして、何よりセイバーに救われた者としては、間違えないようにしたい。

「英霊ですから、…私如きが」
 泣き出しそうな顔だった。そんな資格はないと言いたそうだった。
「むう」
 
「シロウ?」
 悔しそうな彼の顔を窺う様に見ていた。
「何でもない」
 悲しそうなセイバーの姿を見たくない。授業中に話してたみたいに、無邪気に笑う彼女の方が良いんだ。 

「それにしても、あの英霊は少々面倒でしたね」
「石化の魔眼か」
「凜が対策を練ってくれましたが、大した予備動作もなしに発揮出来ます」
 それに完全な無力化は不可能だろう。神話に謳われる石化の魔眼を、現代の魔術師が対抗出来るだけで凄まじい。
「…私は、壊す事しかできませんから」

 やはり陰が消えてくれない。嫌だ。ぶっきらぼうに彼は言う。
「ハンバーグ」
「え?」

 日常で生まれた話である。疲れきった体でする事でもないかもしれない。それでも彼女の悲しそうな顔が晴れるなら、何も迷う理由がなかった。

「買い物に寄ってから帰ろう。好きなお菓子を選んでも良いぞ」
 励まされているのに気付かないほど、セイバーは子供ではない。
 不器用な彼が落ち込む彼女を、何とか慰めようとしている。嬉しくて頬が緩んだ。楽しみで胸が高鳴った。
 
 段々と嬉しそうにする彼女を見て、どうにも照れたけど。
「楽しみにしててくれ」
「はい!」
 励まされたのが嬉しかったのか、おずおずと彼女は言う。

「では、その。シロウ、手を繋いで帰りましょう」
「…はいよ」
 手を繋ぐと、明るく笑ったセイバーに満足しつつ。穏やかな足取りで家へと向かっていった。
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