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fate もしもモードレッドが喚ばれたら

原作: Fate 作者: MM
目次

追い詰められた先で

 絡め取る蛇の如き動き。狭い廊下の中を三次元的に動いて、徹底的に弱みを狙っていくスタイル。
 つまりはマスター狙い。魔眼で有利を勝ち取っても尚油断しない。そうして、その判断は絶対的に正しい。

 肉体に負荷をかけられて、動きの制限があろうとも。セイバーは優れた力を宿している。

 事実、マスター狙いの攻撃を捌き続けているのだ。圧倒的なステータス差と技量の違いが感じられる。
 それでも勝てない。ここまで縛りを受けて負けない事も素晴らしいが、勝利は出来ない。

 ここから徹底的に嬲られて、弱り切った所を仕留められるだろう。彼女の直感が判断させている。

 バーサーカー戦では妙な焦りから技術を捨てたが、今は違う。縛られた肉体の負荷を意識しながら、堅実な剣術で凌ぎきっている。

 士郎と凜に手出しは許されない。足手まといになっている自覚はあった。しかし、間違っても前に出れば、即座に石化される。その後にライダーの短剣が頭を穿つだろう。

 片方が落ちれば、もう片方もすぐに死ぬ。それが分かっているから、セイバーも攻めきれない。本来ならば圧倒出来る相手だ。歯がゆくもあり。これこそが戦争の妙なのだろう。
「ふっ。大した読みですね」

 これだけの劣勢で、しかも切り札を切った状況だ。もっとあっさりと仕留められると思っていた。
 目の前の剣士の実力が優れている証拠だ。何より、ライダーは生粋の戦闘者ではない。石化の魔眼を持つ者。妖艶な容姿に魔物染みた怪力を考えれば、自ずと正体は割り出せた。

 ゴルゴンの怪物・メドゥーサこそ彼女の真名なのだろう。
 英雄として名を馳せた存在ではない。呼び出された異常を感じ取るが、目の前の窮地には関係ない。対応出来なければ負ける。そうして死ぬだろう。鏡の盾は此処になく。ペルセウスを語るには宝具がない。

「貴様の力量が劣っているだけだろう」
「まだ減らず口をたたく余裕がありましたか。これは虐め甲斐がありそうです」
「戯け。殺しきる実力がないから、余裕があるように振る舞っているだけだろう」
 それも正しい。石化の魔眼で重圧をかけていても、彼女ではセイバーを突破出来ない。

 このまま時間をかければ、アーチャーが回復する可能性がある。援護射撃が加わったならば、彼女を倒せない道理もないのだ。…とはいえこのまま粘られても不味い。
「宝具の一つを切っておきながら殺し切れんとはな。愚かな怪物め。貴様は何も残せない」

「……」
 ライダーが黙り込んで止まった。明らかに怒気を孕ませた姿だ。
「ふん」
 満足げに鼻を鳴らしているセイバー。問題は、対処する力があるかどうか。

「衛宮くん、挑発しているけど何か意図はあるの?」
「多分言いたかったら言っただけだろうな」
「そう、そうね。セイバーらしい気がするわ」

 しかし不安は感じられない。切り札を切っていないのは、セイバーも同じ事。最良のクラスとまで謳われる者が、この程度で消滅するわけがなかろう。
「ならば受けてみますか? …私の宝具の力を!!」

 そう言って首に短剣を突き刺そうとした瞬間、ライダーの動きが止まった。マスターからの念話だ。
「マスター。分かりました」

 石化の魔眼に封印が施されて、戦闘の空気が霧散した。どうやら敵はまだ宝具を解放しないらしい。
 メドゥーサの正体を知られた今でも、仕留める必要がないと思っているのか。

 明確な弱点こそ突きづらいのだが、対処は幾らでも用意出来る。慢心か或いは。
「今は命を預けておきましょう。次まで生き残っていてくださいね?」
「見逃してやるからさっさと失せろ。口だけの雑魚を相手にしてやるほど、私は暇じゃないんだ」

 極大の殺意をぶつけてから、ライダーが消えていった。
 完全に気配が消えたのを確認して、セイバーが士郎へと近づいてくる。
「無事ですかシロウ?」

「あ、ああ」
「…口が悪かったですね。申し訳ございません」
 しょんぼりと反省した姿。本当に、どこか幼い所を残している。
「いやそんな事はどうでも良い。セイバーの方こそ大丈夫なのか?」

 鎧の解除された彼女の両肩を掴んで、案ずる様に真っ直ぐ目を見ている。
「え、ええ。その、この通り元気です!」
 顔を仄かに赤く染めて嬉しそうに笑っていた。純粋に心配された経験がなくて、嬉しかったのだろう。

「二人とも無理しない。特に衛宮くんは半身が麻痺しているじゃない」
 石化の魔眼の破壊力は凄まじかった。あれ以上戦闘が長引いていたら、士郎は石になっていたかもしれない。セイバーが挑発していたのは、それを考慮していたからだろう。

 ライダーの切り札を超える一撃を放てるか。よりも、士郎の安否を気遣ったのである。
「藪をつついて蛇、どころか大蛇が出てきちゃったわね。ほんともう。対策する相手が多すぎるわ」
 バーサーカー、ランサー、ライダー。全て強敵で、後を考えるならばセイバーも恐ろしい。

 アーチャーも並外れた能力をもっているが、他の英霊達より特異性に乏しい。知名度補正も殆どなく。戦うのに技量が必要なサーヴァントである。
「今日は帰りましょう。アーチャーの負傷は気になるけど、別れて帰宅しましょうか」

 庇う人数が減れば英霊も戦いやすかろう。石化の魔眼を知っただけでも、十分な戦果と言える。
「はいこれ。簡易で悪いけど石化対策ね。後緊急時の連絡用の宝石」
 あれだけの脅威を目にして、片方が堕ちるのは厄介だ。せめてもの対策を打っておいた。

「魔力を込めればどっちも起動するから、お互いに気をつけましょう」
「ありがとな」「ありがとうございます」
「これでセイバーに助けられた対価は十分かしら?」
 彼女らしい言葉だった。士郎が苦笑しながら返答する。

「十分すぎる」
「そう。それじゃあまた明日会いましょう」
 最後に安堵した微笑みを見せて、凜が去って行った。

 残された二人は戦闘の緊張も解けて、疲労が滲み出てきている。魔力の消耗は大したレベルじゃない。セイバーの宝具も解放しなかった。
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