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fate もしもモードレッドが喚ばれたら

原作: Fate 作者: MM
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強敵との出会い

 監督役は中立でなければならない。故に魔術師はなれない。
 魔術師達の総本山、魔術協会と対立する組織の人間が、此処に派遣されている。それ即ち神秘の否定者。

 神の名の元に進行を示す者達だ。組織の名前は聖堂教会。その中でも、更に優秀な人間が派遣されているのだ。
 そうした説明を受けながら案内された場所は、文字通りの教会だった。

 重厚な木の扉を開けると、神父が一人迎えてくれる。
「……言峰 綺礼」
 日本人離れした長身ちお、光の感じられない漆黒の瞳が特徴的な壮年の男だ。

 初めて見た時から、もう何度も会っているような錯覚を得られた。胸の傷が痛む。火傷の痕が疼いている。埋め込まれた鞘の欠片では、消しきれぬ何かの残滓が疼いているんだ。

「ようこそ教会へ」
 どこまでも感情の冷え切った声色、俯瞰的な余裕と一種の悟りすら感じられた。鍛えられた者特有の静かな佇まいは、彼が戦闘者であると理解させてくれた。それも士郎より格上なのだと直感する。

 だが、燃えるような心は感じない。目の前の男との因縁は、淡く消えてしまった。魂が直感させた。
 綺礼からは何の執念も感じられない。

「自己紹介は不要かね? 結構」
 活力に欠けた瞳は、魂の根底すら見通している。空虚さと泥の如き重たさ。不穏な空気を纏う神父の姿は、奥底に深い悪が見える気がした。ただそこに佇むだけで、己の傷を見つめさせる。重厚な雰囲気だ。

 士郎の瞳を見つめて、厳かに一つの答えを告げる。
「長き追求にて迷いを抱けた者よ」
 見透かしている。悟っている。何かを諦めている。綺礼を支えていた熱量が、融けていくのを直感していた。

「その残滓が行き着く果て、この戦いならば得られるかもしれんな」
 言外に正義の味方には至れないのだと。全て知っているかの如く語っている。

「貴様の結末を待とう。得られた歪みの答えを待っていよう…運命、か。羨ましいものだ」
 小さな変化から大きな歪みを得られた衛宮 士郎。

 変わらず在り続けながらも、その変化を仄かに羨望する己を自覚した、言峰 綺礼。
 鏡合わせにでもなっているのか。変化は確かに生まれていた。

 意味深げな言葉を受けて、運命の変化を大きく感じながらも教会を出た。帰る道の途中で凜が語る。

「ここからは敵同士。お互い遠慮なく戦いましょう」
 優雅さすら感じる余裕の言葉は、戦争においては隙なのだろうけど。才能と確かな努力で培った、彼女の自信溢れる姿は嫌いではなかった。

 そうして、二人が別れようとした瞬間――死が、眼前に佇んでいた。
「何…あれ?」
 凜の呟き。優れた魔術師として、目の前の敵の力を理解していた。

 闇夜に融け込む漆黒の鎧と、表情を隠す黒色の仮面が印象的だ。
 尚も隠しきれぬ威圧で彩っている。英霊として呼ばれた二騎にさえ、明確な死のイメージを与えた。

 英霊の中でも、最上級に位置する大英雄が、更に枷を外されて顕現したからこそ。隔絶した差を感じされた。

 両手が、何かを握ったような形を取っている。不可視の武装だ。見えないのにある。隠しきれない圧力で悟らされた。

 視覚から消えた程度の小細工なんて、目の前の化物が持つ宝具を隠しきれない。
 だが、不可視の武装は間合いを分からせず。発する威圧は必殺を予感させる。何て面倒な仕掛けだろうか。

 目視出来ない一撃が、全て相手を殺せるレベルで放たれる。単純明快で理不尽な性能だ。
「…化けて出たか、ふん。ある意味では贖罪の機会を得られたのかもしれねえな」

 場の者達に聞こえぬ声でセイバーが呟く。
 言葉が聞こえずとも、強い想いを士郎だけは感じ取れていた。が、確認する間もなく。状況は変化し始める。

「ごきげんよう凜。それとお兄ちゃん」
 雪のように白く美しい少女。イリヤスフィール・フォン・アイツベルン。始まりの御三家に連なる少女が、ふわりと場に佇んでいる。可憐な容姿に似合った愛らしい声で、高らかに死を謳う。

「…さようなら」
 憎しみもなく。寂しさすら乗せた淡い言葉で、仄かに大人びた落ち着きと共に宣言されたのは、情け容赦が一切ない皆殺しだ。一人も残らずこの場で殺すと、可憐な見た目に似合わぬ妖艶さで告げていた。

「シロウ、下がってください」
 庇いながら戦える相手ではない。否。万全の状態でも勝てるか分からない。バーサーカーの正体を知っているのは、この場ではセイバーだけだ。しかし語らず。他の者達は気付いていなかった。

「すまないセイバー」
 彼に出来る事はない。魔術も通用しないだろう。
「謝る必要はありません。私は貴方の剣であり、目の前の敵を排除する騎士なのですから」

 それでも真っ直ぐに信頼している事実が、セイバーにとって何よりの救いなのだ。
 兜の下に微笑みを浮かべながら、白銀の剣を構えた。

「アーチャー」「了解した」
 弓兵は姿を消し射撃地点へと向かっていった。
 凜はイリヤと戦いを始めているらしい。場から二人も姿を消す。

 残されたのはセイバーとバーサーカー。傍観せざるを得ない士郎の姿だけだ。
 音もなく。二体の英霊の戦いが開始される。
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