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fate もしもモードレッドが喚ばれたら

原作: Fate 作者: MM
目次

死を前にして

 死を実感しながらの眠りから――目が覚めた。
「はっ! が、ぐっ、は、は」
 全身に火が付いたみたいだ。血管が爆発しそうな程、心臓が負荷をかけつづけている。

 死んでいた。死んでいたのだと肉体が確信している。何故蘇生したのだろう?
 ずきりと胸が疼く。傍らに紅の宝石が転がっていた。

 ルビーのネックレスだ。膨大な魔力の残滓を感じた。思考がまとまらない。絶命の衝撃は、彼からまともな思考を奪っていた。
「…帰らなきゃ」

 家に辿り着き、居間まで体を動かして寝転がる。今更になって、自身が巻き込まれた事柄に意識が向いた。

 あの化け物共はなんだったのだろう? 魔術を学び鍛え続けた者としても、常識を疑う存在達だった。膨大な魔力を発しながら、人の領域を超えた力で戦っていた。

 魔術を少なからず修めていたからこそ分かった。アレは異常な存在だった。
「っ!?」

 衛宮邸に張られた結界が反応する。どうやら、あの槍兵が仕留め損なった事に気付いたらしい。と。認識したタイミングで。

 天井から襲いかかる槍兵の姿を視認する前に、直感的に身を捻って回避した。
 先程まで横になっていた場所に、紅の魔槍の穂先が突き刺さっている。
「確かに仕留めたと思ったんだがな」

 あっけらかんと呟かれた言葉は、士郎の死を告げている。殺し殺されが常態と化した戦士が、今目の前で佇んでいるのだ。

 戦う術はない。抗う方法はない。ここで死ぬ。
「まあいい。ここで消せば同じ事だろう? 一日で同じ相手に殺されるなんざ、本当に運がなかったな」

 あっさりと告げられた事実に、脳みそはどこか冷静さを保っていた。
 死ぬのは良い。いずれ避けられない事柄から、逃げだそうとは思っていない。

 だが、助けられたんだ。数多の命が消えていく地獄で、無力さに助けられなかった者達の命を踏みつけるように。助け、られたんだ。

 ここでは死ねない。いずれ死ぬのならば、何もなさずに死ぬ事は許されない。
「ほう?」

 戦いの意思を見せた士郎へと、楽しげに男は笑う。戦いが好きなのだろう。
「足掻くのならば付き合おう。精々頑張ってくれよ」

 片手で、それもかなり加減された槍の刺突が放たれた。強化された肉体で避ける。
 冗談みたいな話だ。足下にいる蟻を踏みつぶさないような、笑えるほどに隔絶した加減を感じる。

 勝利は不可能。速度の桁が違う。音より速く動ける化物を相手に、どうしろと言うのだろう。…それでも足掻きを続ける。武器だ。武器がほしい。

 紅の騎士の双剣? …駄目だ。アレは彼が理想を追い求めて得られた、最適解なのだろう。

 死を前にして魂が確信させる。どこかずれてしまっている。骨格や筋肉の付き方など。肉体面では最適に近かろう。

 それでも、錬鉄の意志で磨き抜かれた精神性がなければ、扱う事は許されないのだ。
 ならば、偽物を創り上げよう。理想に憧れて、理想を投影しただけの偽物を紡ぐんだ。

「投影開始」
 骨子を組み立て魔力で結ぶ。未だ芯に灯す炎はなく。王を見続けた心は変化している。故に理想は朧気で、デッドコピーにも程があるのだが。

 両手に握るは黄金の剣。結ばれしは至上の幻想。一太刀の再現も出来ず。ただ上辺だけでも投影されたその名は。
「|偽・勝利すべき黄金の剣《カリバーン》」

 かつてアーサー王が引き抜いたとされる黄金の剣。岩に突き刺さった王を選定する剣。
 王権を示す宝具の贋作だ。消失した幻想を紡ぐ絆や理想はなく。

 ただ必死になってかき集めた、贋作の結晶が結ばれた。
「こいつは…面白くなりそうだな」

 侮りを見せていた槍兵が警戒している。ただの一般人と侮っていた者が、宝具を、英霊にだけ許された神秘の結晶を持ち出してきたのだ。楽しそうに獰猛な笑みを見せて。
「ついてこいよ!!」

 更に一段階ギアを上げた。獰猛な獣の如き荒々しさと、絶え間ない鍛錬で磨かれた槍術が死を求めている。抗いは不可能に近く。絶命は必然に思われる――士郎の動きのままならば。
「はあっ!」

 黄金の剣の動きに引っ張られながら、凄まじい連撃を捌き続けた。
「別人みてえな動きをしやがる! 良いぜ、もっと抗ってみせろ!!」

 一撃を受けるごとに肉体が軋む。骨格が歪んでいく。尋常じゃない負担が肉体を壊していく。投影魔術の負荷が回路を痺れさせて、限界を超えた動きが神経を蝕んでいる。

 投影された宝具も限界が近い。所詮は偽物だ。理想を紡いだモノなんかじゃない。
「限界だな…ぶっとべ!!」

 槍兵に飽きが来たのか。更に一段階ギアの上がった蹴りで、外まで飛ばされた。内臓が破裂したのかと錯覚する程の衝撃だ。つくづく、相手との存在の密度差を感じてしまう。

「そうらトドメだ!!」
 続く薙ぎ払いを剣で受け止めるも、その一撃で砕け散ってしまった。耐えられず。土蔵の扉まではじき飛ばされて、中に転がり込む。

「ここが終着点かね。もう少し楽しめるかと思ったんだが」
 最早、逃げ場はない。抗う手段だって残っていない。投影魔術は間に合わず。死ぬ。

「じゃあな」
 加減の消えた魔槍の刺突。心臓を穿ち今度こそ死に至るだろう。回避は不可能、防御も許されない。音速を突破するような化物を相手に、高々魔術師もどきがどう抗う?

 まだだ。諦めない。目だけは逸らさず。迫り来る死へと覚悟を決めて。間に合わずとも魔力を練り上げた。瞬間。
 光が炸裂した。
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