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fate もしもモードレッドが喚ばれたら

原作: Fate 作者: MM
目次

少女の祈り

 許してほしいから謝っているのではない。モードレッドが辿った運命へ、決着をつけるために謝っている。
 じくりと胸に刺さって、じわりと広がる熱を感じた。

 バーサーカーは涙を流さない。騎士王としても許しは与えられない。
 だが、かつてアルトリアと呼ばれた少女は、選定の剣を抜く前の彼女は、泣きながら愛を求めて罪を背負った彼女を。

「愚かな…」
 泣いて謝る彼女を見て告げた言葉は、誰にも届かず。
 その事実が、彼女を切り捨てざるを得なかった騎士王へと、伝えられた想いなのだと。聞こえずして、世界へと伝えられた。

 一度だけ、バーサーカーが目を閉じた。噛みしめる様な逡巡。薄らと頬を伝った雫は汗だろうか。分からない。
 目を開ける。雰囲気が一変する。戦闘の予兆を感じる。

「剣を振るえモードレッド」
 怒気はない。場違いな程に優しい微笑みだけが見られた。
 許しもない。そもそも求めていない。何もなかったとは思えず。
「父上」

 彼女の呼びかけに今度は否定がなかった。
「元より我らの道は違えられた。ならば命だけが、あらゆる確執を終わらせてくれる」
 悲しそうに微笑みながらも、バーサーカーは迷わずに告げるんだ

「どちらかの終りがなければ、かける言葉もないでしょう」
「そうだな…」
 モードレッドも応えて、武装を展開した。後ろで見守る士郎の姿が、彼女に果てのない力を与えてくれた。

 此処に最後の戦いが始まる。お互いに纏うは漆黒の騎士鎧。振るう武装は白銀と黄金。輝く剣の美しさで魅せながら、無駄のない戦士として相手を圧していく。

「「っ!」」
 始まりの掛け声などは存在せず。示し合わせたように、二人が間合いを詰めていった。爆発的な魔力放出の煌めきは、2人をより一層輝かせる。

 爆ぜるような金属音が響き渡った。轟音。ぶつかり合う剣戟の威力が測れよう。砲撃ですら生温い。落雷か。嵐の如き戦いの激しさは、消耗しきった二人の戦いとは思えなかった。
「おおお!!」
 
 雄叫びを上げながら、モードレッドが纏うは紅の雷。憎悪の呪いは消されて、純粋に敵を超える凜々しさを示していた。
 微笑みながらも受けるは最強。騎士王の力である。

「勢いだけで私を超えられるか!!」
 遮るようにバーサーカーが振るうは、漆黒の魔力だった。狂化で染められた破壊の力は、紅雷を呑み込み吹き飛ばす。

 魔力のぶつかり合いが発する衝撃で、固い大地が爆ぜ飛んだ。
 踏み込みは互いに無駄がない。流れるような攻防が続けられた。軋む。肉体が悲鳴を上げている。

「父、上…!」
 額から汗を流して、苦悶の声を上げるはモードレッドだけだ。バーサーカーの表情に負担は見られない。
 しかし、互いに余力は存在しない。

「ちっ! 思っていた以上に負荷が大きいか」
 魔力不足と肉体の欠損が、バーサーカーの動きを阻害している。膨大な魔力を練り込んでの一撃でなければ、モードレッドを止められない。

 結果として消耗も大きく。段々と狂戦士から力は失われていく。…或いは、子の成長に親が老いるが如き姿。
「はあ、はあ」
 モードレッドもまた、受肉の影響で疲労が纏わり付いている。

 英霊ならば必要のない呼吸の負担や、純粋に肉体が悲鳴を上げている。魔力不足はなく。応ずる力で互角を維持しているが、経験は騎士王に軍配をあげる。

 モードレッドが徐々に圧されている。彼女は頬に土汚れを、口からは血を流していた。限界は近い。もう超えているかもしれない。
 満身創痍の肉体に鞭を打って、魂をぶつけるが如く激戦を続けている。

 何度も彼女の白銀の剣を弾いた。それでも、黄金の刃は命に届かない。
 モードレッドの頬が更に土で汚れる。傷だらけになりながらも、彼女の瞳が騎士王から外れる事はない。
「オレ、オレはまだ…!」

 精一杯の戦いを見せている。全力で抗っている。
 幸せになりたいんだ。この世に生を受けた。反逆しても生きてきたんだ。見守ってくれる人がいる。
 自身が背負う罪から逃げず。やり直しなんて求めず。

 ただ真っ直ぐに此方を見据える彼女の瞳。美しい。曇りと翳りは既になく。透明な映し鏡のように、今の己の姿が確認出来た。
 醜悪に願いを求め続ける。迷い続ける騎士の姿が見えた。
「はっ! これが今の私の姿か」

 なんて、無様な姿だろう。目の前で必死に戦う少女を殺してまで、叶えるべき願いだっただろうか?
 傍らで案ずる様に見守る少年の姿が見えた。未来へと繋がる想いの在り方が見えたんだ。命は繋がっていく。
 何故、王になったのか。これを守りたかったのではないのか。

 人々の日常が好きだった。麦穂を育てる民草の生き方を見て、日常に喜ぶ者達を見るのが好きだったんだ。
 後悔があると知っていた。いずれ滅ぶ王国なのだと理解していた。それでも誰かが笑っていたから、その道は間違いじゃないと信じてる。

「ああ…なんだ。私が歩んだ道は、何かを残せたのですね」
 呟きと共に霊核へ突き刺さる白銀の剣。現世への楔が破壊されて、世界へとどまれず。消失の淡い残滓が溢れ出ていく中で、静かに言葉を紡ぐ。
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