ネット喫茶.com

オリジナル小説や二次創作、エッセイ等、自由に投稿できるサイトです。

メニュー

fate もしもモードレッドが喚ばれたら

原作: Fate 作者: MM
目次

問答、救われぬけれど

 協会からの連絡があり、決戦の場所が指定された。大聖杯の眠る洞で、誰も巻き込まない最後の決戦が待ち受けている。
 そこまで進む道は、2人共無言だった。言葉は要らない。

 日常は帰ってからで良い。戦いに向けて心は出来上がっていた。
 漆黒の太陽が空に浮かんでいる。禍々しき暗黒の泥が在りながら、天に浮かぶ杯は美しく。広がる災厄を感じられる。

 この世総ての悪とまで謳われた。士郎とモードレッドには知る由もない。アインツベルンが残した呪いだった。
「来たか…モードレッド」

 片腕のなき最強が、そこに佇んでいた。隻腕であろうとも間違いなく最強であり、油断なんて出来よう筈もない。
 荒ぶる心は感じられない。互いに相手だけが残っている。

「その目を見るに、どうやら迷いは晴れた様だな」
 静かにあるその姿は、騎士達の王に相応しい。アーサー王。モードレッドの父であり、運命が互いに喰らい合う宿敵でもある。

「父上」
 解放出来ないと知っていても、不可視の鞘を外した聖剣は恐ろしい。敵対者の心を折る圧力を感じた。振るう狂戦士の圧力と合わさって、凄まじい威圧感を発していた。

「ふっ。一度完全に敗北して尚、私に挑むか」
 声も低く。落ち着いている。不利な状況を悟らせない。限界に近い消耗を彼女は抱えている。実質マスターはもういないんだ。

 バーサーカーが眼を細めて、言葉を続ける。
「我が身が余程憎いと見える」
「…確かに私は貴方が憎かった」
 不義の子として生まれて、誰にも愛されなかった人生だった。

 短命と知り、せめて偉大なる王の地位だけでも継ぎたいと願った。騎士王は多くの民草に理解されず。理想を遂行するだけの重みを背負って、子である実感を得たいと願った。
 叶わず激怒して、遂には国を崩壊させたのが彼女だ。

「憎かった? 想いはどこへ消えたのか」
 何の感情も乗っていない言葉だった。騎士王の心は得られない。とっくの昔に知っている。遙か昔に戦って知っている。

「理不尽な願いと知っている。オレの望みは、貴方にとって何もかも狂っているだろう」
 そも、モードレッドを産んだのはアーサー王の意思にあらず。

「……さて。立場が違えば話も変わるだろうさ」
 モルガンの策略で生み出された命に、個人としても王として考えても、愛情を注ぐ理由は見つけられない。

 哀れみこそあったとして、愛が紡がれるわけもない。そんな事は知っていたさ。諦められるわけがないだろう。
 親の愛情を子供が求めて何が悪いんだろう。
「ならさ。貴方の立場を見るべきだろう?」

 大人になった言葉だった。違う意味で、バーサーカーが眼を細めた。眩しそうに見ている。仄かに嬉しそうだった。
 モードレッドは気付かずに、心に隠された想いを出していく。

「全てを捧げて維持し続けた王国を、高々愛情の証明なんぞで与えられるかと」
 その通りだ。どれだけのモノを捧げて、アーサー王で在り続けたのか。人としての全てをなくしたからこそ、王として到達するんだ。

「オレは知っていたからこそ、罪深い」
 他でもない彼女は、騎士王に認められたくて努力した。
「…ふっ。貴公は理想の騎士として、力を振るってくれていたな」

 モードレッドは全て知っている。だからこそ反逆したんだ。大切なモノ全部を壊したら、その瞳を向けてくれるのではと思っていた。
「何も見えていなかったんだ。分かったつもりになっていた」

 結局は無慈悲な結論だけが残って、終ぞアーサー王の人としての感情は見られなかった。
「他ならぬ心優しい貴方だったからこそ、その願いは叶えられなかった」
「私が心優しいと?」

 理想の為に切り捨ててきた王が、心優しいと?
 彼女は背負っているモノの重さを知っていた。捧げた命の意味を知っていた。捨てたモノの重みを知っているからこその優しさだろう。

「子供のように騒げたならば良かった」
 運命が導いたマスターとの縁で、成熟した心のまま現れた。
 王の重みを知っている。求めた愛情の重さを知っている。

「理不尽に怒りだけをぶつけられたら良かった」
 憎悪と憤怒は士郎が許してくれたんだ。抱え込んだ罪の熱量は、大切な人と分け与えられた。
 もう逃げられない。逃げるつもりはない。

 バーサーカーからの攻撃はない。彼女が伝える熱い想いを受けて、目を奪われていた。傍らで見守る士郎の思いを感じながら、モードレッドは。
「だけど、今のオレが貴方に伝えるならば」

 武装を解除した。剣はなく。目を逸らさず。静かに佇む、尊敬する父上への想いを感じている。
 隙を生むと知りながら、真っ直ぐに頭を下げて、迷いのない声で言葉を紡ぐ。

「――ごめん、ごめんなさい」
 涙を流しながら謝っていた。これまで歩んできた道で、とても多くの命を奪ってきた。騎士王が愛した日常を、彼女は全て壊してしまった。

 カムランの丘の風景が刻まれている。終りの救いのなさを知っている。取り返しはつかない。そんな事に意味はない。
 罪をなくせば、今此処にいる彼女は存在しないのだから。
「大切にしていた全てを壊してごめんなさい。貴方の選択を、台無しにしてごめんなさい」
目次

※会員登録するとコメントが書き込める様になります。