ネット喫茶.com

オリジナル小説や二次創作、エッセイ等、自由に投稿できるサイトです。

メニュー

fate もしもモードレッドが喚ばれたら

原作: Fate 作者: MM
目次

狂戦士の宿す切り札

 キャスターと実質アサシンを仕留めて、バーサーカーは古城に戻っていた。イリヤの私室にて、部屋主が苦しそうにベッドで寝ている。
「はあ、はあっ!」

「イリヤ、大丈夫ですか?」
 魂を取り込んだ負担が大きい。だが、まだ敵は残っている。止まるわけにはいかない。

「ん。ごめんね」
「謝る必要はありません。残る敵は数少なく、私を超える者は存在しない」

 残るはランサー、アーチャー、セイバー。三騎士と謳われる強者達だけだ。それでも彼女の言葉通り、格上は一切存在しない。聖杯戦争の常識に照らし合わせれば、だがね。

 男が一人。エントランスに現れていた。
 黄金の鎧を身に纏いし英霊。燃え盛る炎の如き双眸と、逆立つ金髪は激情を感じられる。傲慢にして不遜。放つ気質は王者のソレ。ただ在るだけで格の違いを示す姿は、この者の絶対的な実力を悟らせる。

「嘘…英霊?」
 八騎目のサーヴァント。本来存在しない筈の者が佇んでいた。
 霊視するイリヤに気付いている。ただバーサーカーを待っていた。
 すぐに二人が向かって、黄金の鎧に包まれた英霊を迎え撃つ。

「誰?」
 イリヤの記憶に存在しない英霊である。此度の聖杯戦争で呼ばれた者にあらず。奇しくも記憶を保持したままのバーサーカーが、目の前の相手の正体を把握していた。

「前回に呼び出されたアーチャー。いや、素直にギルガメッシュとでも呼ぼうか」
 人類最古の王ギルガメッシュ。あらゆる財を手にした王にして、並ぶ者なき最上位の存在の名だ。

 時を遡る程に神秘の密度が増すのだから、最古の王の力は想像を絶するだろう。見ただけで分かる。目の前の男は、たった一騎で戦争を崩壊させる力を宿しているのだ。

「バーサーカー?」
 警戒心をあらわにする彼女へ、イリヤの瞳が不安げに揺れていた。
 逃げる場所はない。だが、戦いになっても勝てるのだろうか? 不意に現れた強敵に覚えるイリヤへと、優しく微笑みながら言う。

「イリヤ、下がってください。目の前の英霊は常軌を逸した宝具を所持しています」
 今のバーサーカーでさえ、対処の難しい敵である。格を考えれば完全に劣っている。実力だけを見れば、彼女の敗北がありうる相手。
 それ程までに、目の前の男は危険な英霊だった。

「…ふん。下らぬ姿へ堕ちた貴様に興味はない。我の手で始末をつけてやろう」
 語る言葉すら勿体ないとでも言いたげな表情で、ギルガメッシュが死を告げた。
「|王の財宝《ゲート・オブ・バビロン》」

 静かな宣言と共に展開されるは、彼の宝具だ。虚空に浮かぶ武装の数々。それら全てが、英霊だけが手に出来る宝具であった。

 かつて世界の財を蔵に収めた逸話から、この英霊はあらゆる宝具の原典を蔵に宿している。弓兵として射出し、敵対者を葬り去る絶対なる力。あらゆる英雄は逸話によって殺される。

 鬼の血を引く怪物には鬼殺しを、不死身には不死殺し。そうして竜の因子を宿すバーサーカーには、竜殺しの逸話をぶつければ葬り去れる。全ての伝説の弱点を突ける絶対者が故に。
 彼の者は、英雄王として語り継がれているのだ。

 音速を超えて、嵐の如く降り注ぐ宝具の破壊力。床を抉り飛ばし壁を粉砕する。直撃すれば即死するだろう。腕を組んで佇む在り方は、まさしく絶対王者の気質を感じられた。

「舐めるなよギルガメッシュ!!」
 同じく規格外のステータスを活かして、バーサーカーは降り注ぐ宝具の嵐を難なく捌き続ける。不可視の鞘は既にない。
 切れ味を取り戻した聖剣は、宝具の嵐を切り裂いている。

 が、攻め手には転じられない。イリヤを庇いながらの戦いだ。バーサーカーには、反則染みた耐久性は存在しない。堅実な性能を極限まで高めただけだ。数量の暴力に抗う力はない。
 
 直感が、聖剣の解放を禁じ手と悟らせていた。応ずるギルガメッシュの切り札を発動させてはいけない。欠片も残らず消し飛ばされては、意味がない。そうしてイリヤ庇い続けて戦い。
「ぐぁっ!!」

 遂には霊核を刺し貫かれた。力なく串刺しの侭に死を待つ。視線すら向けずにイリヤへ向かってくる。なんてあっさりとした結末だ。
 残された少女に、男が迫ってきた。残虐な気配を感じる。

「聖杯を頂くとしよう」
 容赦なく少女を殺そうとしたギルガメッシュ。救いの手はなく。バーサーカーは確実に殺した。
 だと言うのに。

「がっ!?」
 ギルガメッシュから苦悶の声が漏れた。彼の胸から剣が生えている。
 聖剣による一撃。馬鹿な。確かに霊核を破壊していた。消滅の粒子すら発生していたのだ。慢心があろうとも、騙される男では断じてない。

「…切り札を消耗すれば、こうも容易く討ち取れますか」
 油断をつき殺す為に使われた切り札。
 それは鞘の加護だった。既に失われた幻想を、アイツベルンが手を尽して取り戻した力。

 士郎の胸に宿した力である。そうして欠けた神秘は令呪で補い。死すら凌駕する神秘の力で蘇った。
「下らん幕切れよ。ああ、此度の生は退屈だった」
 あっさりとした言葉を残して、ギルガメッシュが消滅していった。
目次

※会員登録するとコメントが書き込める様になります。