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fate もしもモードレッドが喚ばれたら

原作: Fate 作者: MM
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聖剣を託されて

 疲弊する肉体を抱えるように走りきって、セイバーと士郎が家に帰って来れた。アーチャーとの契約は解除されていない。凜の消耗が重く、実質リタイアしている状況である。
 
 今は遠坂邸に彼がいる。戦闘になれば援護が期待出来るだろう。
 士郎の部屋で二人が深く息を吐く。全身の疲労が重たい。気を抜けば意識が飛んでしまいそうだ。

「シロウ」
 愛おしそうな呼びかけを受けて、彼も微笑みながら問い返す。
「どうした?」
 彼の返答を得て、照れながら彼女は続ける。

「その、えっと。…ありがとう」
「ああ」
 多くの想いが乗せられた言葉だった。何者にも愛されなかった彼女が、ようやく己への愛を認められた瞬間だった。

「それでな。シロウはな」
 改めて彼女は言葉にする。不安げに揺れながらも止まらないで、頬を赤く染めながら言うんだ。
「オレが、好きなのか…!?」

 なんて甘酸っぱい言葉だ。色々と吹き飛んでしまいそうだ。不安げに返答を待つモードレッドを見ていると、なんだか限界がきちゃいそう。
「す、好きだぞ」
 素直に言葉にしてみた
「えへへ。そっか」

 子供みたいに笑う彼女を見て、思わず抱きしめてしまった。
「し、シロウ?」
 柔らかい。良い匂いがする。幸せとはこれなのだろう。胸の痛みも抱えながら、抱きしめている。

「シロウは暖かいなあ。オレ、抱きしめられるなんて初めてだ」
 愛おしそうな呟きだった。彼女の初めてを与えられて、士郎も照れながら微笑んでいた。

 そうしてモードレッドは、満足げに彼の胸に額をすりつけていく。
「んふ~」
 嬉しそうな吐息が零れた。抱きたい。素直な気持ちでそう思った。伝わったのか、申し訳なさそうにモードレッドが言うんだ。

「今のオレの体は子供が出来ちゃうから」
 モルガンの宝具によって、既に彼女は受肉しているんだ。つまり命を成せる常態になっている。

 さて、ソレに悩んで騎士として徹しようとしていた彼女を、キャスターは知っていたのではなかろうか。なんて。二人が知りようもない事実であり。何の救いにもならない話であった。

「エッチなのは、戦いが終わってからになっちゃうけど」
 その言葉だけで弾けそうであった。まだまだ戦える。元気いっぱいになっていく。
「それでも嫌いにならないか?」
「なるわけないだろう!」

 堪らぬ叫び。男として限界が近いが、士郎としての素直な言葉だ。愛を伝え合う行動だからこそと言える。責任だって取る。ならば待てないわけがない。

「で、でも凜だって可愛いぜ」
 意味の分からない邪推だ。それでも不安に思うのは、愛を受けた経験がなかったからだろう。

 情欲で繋がる男女しか知らない。モルガンを母に持つ影響で、彼女は少し性愛が歪んでいるのかもしれない。
「俺はモードレッドが好きなんだ。不安なのは分かるが、信じてくれ」
「なら嬉しい。えへ、えへへ」

 蕩けきっていた。言っておいてなんだが、我慢の限界が近かった。その場へ。
「――仲が良くて結構だ」
 片腕をなくし。今にも消え去りそうなアサシンが姿を現した。

「貴様…!」
 瞬時にモードレッドが武装を展開したが、気付いた。
「見ての通り死にかけだ。そう警戒してくれるなよ」
 聖剣の一撃を受けて、最早消滅を待つばかりの状態だった。

 既に現世への楔はなく。鞘の加護も消えて、肉体が消滅しかけている。キャスターの令呪は聖剣の補助ではなく。
 アコロンの死を二度と見たくないと思っただけの、女の祈りが込められていた。

 そうして、強化された鞘の加護を得て、どうにか維持しているだけに過ぎない。戦う力は残されていなかった。
「変わったなモードレッド」

 からかうような嬉しそうな言葉だった。彼個人としては、モードレッドに何の恨みもないらしい。
「今のお前さんなら、こいつを託せる」

 そう言って差し出されたのは、罅割れた砕け散りそうな聖剣であった。
「父上の剣…」
「そこの坊主なら直せるんだろう」

 士郎の特性をキャスターは見切っていたらしい。
 だが、これは矛盾した宝具である。投影魔術で補強をしても、たった一度きりの切り札となるだろう。

 それでも、あの規格外を相手取るには素晴らしい手札だ。バーサーカーさえ討ち取れたならば、他の敵には随分と楽が出来る。元々セイバーの性能は優れている。タイミングさえ間違えなければ、他の陣営に勝てる筈だ。

「どうか陛下を解放してやってくれ。死んでまで縛られるなんて、馬鹿げた話もねえだろう?」
 事情の全ては読み取れないけど、消滅を前にしての言葉だ。嘘は感じられない。

「必ず」
 反逆の騎士としての憎悪を忘れて、純粋にアサシンの想いを受け取った。憤怒を士郎が受け止めてくれたから、素直に受け止めた。

 清々しく穏やかな彼女の顔を見て、納得してくれたらしい。満足げに微笑んで、壊れかけた聖剣を彼女に渡した。
「頼んだぜ」

 彼は深く事情を語らず。モルガンの想いを全て抱えながら、消滅していった。残された彼女は受け取った聖剣の重みを感じながら、ようやく今宵の戦いが終わっていった。
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