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fate もしもモードレッドが喚ばれたら

原作: Fate 作者: MM
目次

蹂躙

 アサシンが前に出てバーサーカーを抑えていく。不可視の鞘はなく。同種の聖剣がぶつかる矛盾。何より担い手の力量が隔絶している。
 一撃ごとに、アサシンの剣に痛みが走っているようだ。
「モルガン!!」

「分かっている!!」
 同質同名の聖剣がぶつかり合うならば、後は伝説の密度が結末を決める。騎士王の幻想に抗えるわけもなく。
 偽者が振るう至高の幻想と、主従一体と化した最強の伝説が激突しているんだ。偽者が砕け散るのは当然である。

 それでも戦いになっているのは、キャスターの援護が冴え渡っているからに他ならない。アーサー王の動きを読み切っているんだ。
「セイバークラスでなくて助かったぞ!」

 バーサーカーに対魔力は存在しない。規格外の魔力放出で弾いてはいるが、直撃すれば傷は負わせられる。セイバーで喚ばれていたら、とっくの昔に負けていただろう。

 だが、そんな小細工も永遠には続けられない。猛攻に何度も切り裂かれた。鞘の加護の限界が来そうだ。想定よりも遙かに早く。
 気のせいでなければ、バーサーカーからも鞘の加護を感じる。
「ぐっ! さすがは陛下だな!」

「アコロン。貴様は、相変わらず堅実で美しい剣術だ」
 偽者の鞘の加護を宿しながら、女の為に傷を負い続ける姿。
 姉上を愛してくれている。その事実に深い感謝を抱きながらも、王として迷いは感じさせない。

 このまま戦い続けても終わらず。他の陣営が横やりを入れてくれば面倒だ。キャスターは容易く討ち取れると思って、ランサーなどが加われば対処出来ない。

 バーサーカーの直感が告げている。膠着は長引かせるべきじゃない。
 古城に置いてきたイリヤも心配だ。早々に片付けてしまおう。

「やはり、私も宝具を切るしかないか」
 下手を打てば面倒になりかねない状況だ。直感が告げるままに、抗えない切り札を使うと宣言した。――聖剣の解放である。

「…こいつは不味いぜ」
 アサシンが後方へ跳んで、相対する覚悟を示した。キャスターを庇う形になっていた。自然な振る舞いに、頬を赤く染める彼女には気付かない。
「モルガン、どうする?」
「受けて立つしかあるまいよ」

 不可視の鞘が解除されて、隠されていた聖剣が姿を現す。
 黄金に輝く至高の聖剣。切り裂く鋼、勝利を約束する最強の宝具が、眩く輝きながら姿を現していた。
「最後に言い残すことは?」

 それでも問いかけるのは、バーサーカーの本質を悟らせる。理想の王を全うする、とても生真面目で優しい少女の面影を感じられた。
「…貴女は結局、独りっきりなのね」

 だから今は妖姫としてじゃなくて。たった一人の姉として、可哀想な妹分へと言葉を返すんだ。
「誰にも理解されず。愛も成さず。王としての責務を押しつけられて」

 運命がアーサー王への道筋を決めた。後悔はなく。理想を歩み続けただけの生涯だったのだろうさ。
「貴女は人を辞めていく」

 嫌だった。許せなかった。そんな摂理を認められない。その一心でモルガンはアーサー王を憎んでいる。アルトリアと呼ばれた少女を殺した王の存在を、彼女は絶対に許せない。

「それで、自分に資格がないと思い消えていく」
 ならば奪っても良いじゃないか。彼女を楽にしたい。
「資格があったのならば、あのような結末は迎えなかろうよ」

 バーサーカーが聖剣を振りかぶった。放たれる剣戟は、アサシンのソレとは比べ物にならないだろう。
「アコロン。令呪を以て命ずるわ。抗いなさい」

 モルガンの手に宿った三画の令呪を起動する。焼け石に水だ。偽者が、本物の剣閃を凌駕しようなんて。冗談にもならない話であった。
「本当に哀れな私の妹。…救えなくてごめんね」

 結末を見切っているからこそ、キャスターの後悔は止められず。ただただ涙を流して謝り続けていた。それでもバーサーカーは止まれないだろう。

「お願いアコロン。せめてもの足掻きを許して」
 真摯に頼る声色は、騎士王との決闘前にも与えられた。駄目だ。その声を聴いてしまうと、どうしても見捨てられない。
「惚れた女の頼み事だ。応えなければ男じゃないってな」

 二人が振るうは同質の聖剣。束ねるは星の息吹。騎士達が追い求めた理想の結晶にして、星の記憶を宿した至高の聖剣。
 同時に在る矛盾が世界に刻まれ、今此処に激突を約束する。
「「|約束された勝利の剣《エクスカリバー》!!」」 

 二つの幻想がぶつかり一つが呑み込まれた。閃光が敵を呑み込んで、神殿は破壊の全てを受け止める。狂化されて、民草を巻き込む意識すら消えた彼女に、罪を負わせないとでも言いたげだった。

 残るは静寂とバーサーカーの姿だけであった。
「姉上…消えたか」
 高ランクの直感が告げている。キャスターは消滅した。妖姫の気配は残っていない。聖剣の光に呑み込まれて、聖杯へと存在を還したらしい。

 イリヤに確認をとったなら、すぐにでも証明出来るだろう。
 だが今は、そうするつもりになれなかった。
「元より救われるつもりもありません。天の杯を捧げて、我が身は理から消え去りましょう」
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