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fate もしもモードレッドが喚ばれたら

原作: Fate 作者: MM
目次

怪物に至りし娘

 強引に寺の結界に侵入した影響で、すぐに天馬が消滅してしまった。呼び出す余力はないだろう。
「桜、良いのですね?」
「ごめんねライダー。でも、良いんだ」

 望んだならば、平穏に戦争を降りられた筈だ。なのに戦うのか。逃げないのか。良いじゃないか。幸せになってほしい。ライダーの強い願いを感じる。だけど。
「兄さんに救われた命だから、怪物として最後まで暴れ回るって決めたから」

 間桐 桜の運命は既に決している。与えられた命のためにも、此処で全てを終わらせると決めているんだ。
「…先輩。姉さんを連れて逃げてくれますか?」
 囚われていた凜を助け出したらしい。何も言えないまま、セイバーが凜を抱き上げてくれた。

 言葉は交わせない。守ってやるなんて嘘でも言えない。だから慎二の言葉を。
「慎二は、君を大切な妹だと言っていた」
「ありがとうございます。それじゃあさようなら」
 士郎とセイバーが去って行く。それこそが桜の望みで、最後の矜恃でもあった。

「ああ。…ふふふ。救われた」
 残されたまま楽しそうに笑う彼女。傍らに控えるライダーもまた、寂しそうに微笑みを浮かべている。
 アーチャーが去ったのか。アサシンがモルガンの隣に佇んでいた。二対一。一切の勝機は感じられない。だが。

 ここで殺し切ると願った。ある意味ではライダーの願いすら否定するけれども。
「全令呪を以て命ずる。殲滅して…ライダー!!」
 三画の奇跡がライダーの枷を外し、狂おしい程の変貌を約束する。肌に鱗、髪は蛇へと変化する。瞳は石化の魔眼を宿して、口には蛇の如き牙が生えてきた。 

 ゴルゴーンの怪物。令呪にて抑制を外された彼女は、現代に蘇りし怪物となっていた。
 降り注ぐ石化の力を肌で感じ取った。並の英霊ならば瞬時に石像と化していただろう。だが、ここにいるのは妖姫とまで謳われた傑物である。

「舐めるなよ!!」
 叫びと共に結界を展開した。|全て遠き理想郷《アヴァロン》の模倣、遮断する結界にて石化を無力化する。
「アコロン。何とかしろ」

 石化の魔眼の力を防ぎつつも、反撃の余裕は一切ない。蛇と化した髪の毛が圧しかかってくる。束縛の魔術は馬鹿げた怪力で壊された。徐々に異界が広がっていく。ライダーの宝具か? 溶解する力が広がっているんだ。
 このまま放っておけば、完全に神殿を壊されるだろう。柳洞寺で眠る者達も殺されるだろう。

 まさしく怪物の力だ。只人を殺しきる特性を宿している。
「相変わらずの我儘お姫様なこって」
 ならば、この身に託された伝説を振るおうではないか。

「さあて陛下の真似事をしましょうか」
 束ねるは星の息吹。振るうは最後の奇跡、人々から神話が失われる直前の幻想。剣に蓄えられた魔力が加速され、黄金の光が絶え間なく高まり続ける。解放されし宝剣の真名は。
「|約束された勝利の剣《エクスカリバー》!!」
 古城すら消し飛ばす黄金の剣閃が、敵対者の全てを呑み込んで消し飛ばした。


 霊核を完膚なきまでに破壊されて、傷だらけの二人が死を待っている。消滅の残滓を感じさせながらライダーが、死に逝く桜へと静かに言葉を与える。
「ここまで…ですか。桜」
「ん。ありがとうライダー。貴女のおかげで、世界に強がりは言えたから」

 共に怪物として地獄に堕ちよう。その先でまた笑い合おうじゃないか。
「またね?」「ええ。こちらこそ、ありがとうございました」
 ライダーが消えて、桜が死亡した。何も残さず世界に残らず。淡く消えるは怪物の宿命なのだろうか。

「んふ。怪物の終りは呆気ないわね。さようなら」
 桜の死体を魔術で取り込んで、魔力に分解していく。文字通り骨すら残らない終り。
「…まあ、怪物の終りなんてこんなものだろう」
 アサシンが小さく息を吐いた。その呟きがモルガン自身へと向けられているのだと、側で見続けていた彼だけは知っている。

「――それはどうかな?」
 夜の終りが近づくタイミングで、最後の襲撃者が柳洞寺に現れていた。
 闇夜に馴染む漆黒の鎧。表情を隠す黒色の仮面で、隠しきれぬ絶対的な威圧が恐ろしい。
 バーサーカー。この聖杯戦争で、最強の駒が死を告げていた。

「事情は知らないが、私が入り込む隙が出来たのだ」
 それはキャスターの終りを示している。呆気のない幕切れであった。
「アルちゃんじゃないの」

「久しいな姉上。そうして別れの時だ。貴様らを殲滅する」
 簡素に告げられた言葉は絶対の宣言だった。抗う力は存在しない。神殿は崩壊している。アサシンの能力では、バーサーカーと戦えない。狙い澄ました様なタイミングであった。

「貴女にだけは気付かれないようにしていたのだけど」
「名も知らぬ少女のおかげで、特定が出来た。それに聖剣は使うべきではなかったな」
 柳洞寺の結界を強引に突破して、尚且つ聖剣を使わせたおかげで見つけられた。妖姫に時間を与えるつもりはない。それをキャスターも知っているからこそ、隠蔽は十二分にやっていたのだがね。

 彼女が思っているより遙かに、バーサーカー陣営は優れていたのだろう。
「さあ、終わらせるとしよう」
 絶望的な戦力差を静かに示しながら、今宵最後の決戦が始まった。
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