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fate もしもモードレッドが喚ばれたら

原作: Fate 作者: MM
目次

叫びと許し

 騎士として認めてくれた。暖かな手料理なんて初めてだった。
 幸せな時間を与えてくれたんだ。初めて、世界でただ一人。モードレッドが生きていて良いと認めてくれた。
 だから良いんだ。

「せめて終りは貴方の手で迎えたい。慈悲を与えてください」
 幸せを諦めて、泣きながら必死に止まる彼女を見た。
「セイバー…」

 望めば首を落とせるだろう。鈍く光る双剣は理想の具現だ。一切の妥協を許さなかった騎士の、正義の味方を象徴する宝具である。
 だから投影を解いた。武器はない。モードレッドが抗えば士郎は死ぬ。
「シロウ!?」
 
 必死に押し留める様子は、生半可な状況じゃない。モードレッドが止まれなければ、士郎の命は終りを告げるだろう。
 それでも迷いはなく。いつかそうしてくれたように、今度は士郎から。そっと、手を差し伸べながら彼は言う。

「君に手を引かれて歩いた道は楽しかった」
 楽しさと幸せを許してくれるセイバーが好きだった。ぎこちなく笑う己を許してくれて、本当に救われた。
 おかげで少しだけ自分を許せたんだ。

「料理を食べて、幸せそうに笑う姿が嬉しかった」
 誰かの為に作って、喜ばれるだけで良いんだ。それこそが士郎の全てだから、貴女の笑顔が好きだった。
 日常をより一層愛おしく思えた。平穏に救われていた。

「始まりは君の手で救われたんだ」
 ランサーと戦って死にそうな時に、守ってくれたのはセイバーじゃないか。あの出会いがなければ、ここには至れない。

 もう救われている。とっくの昔に惚れ込んでいる。
「反逆の罪を抱えて潰されそうならば」
 その罪を共に支えたい。漆黒の騎士でしかないのならば、共に並び立つ白色の理想を語ろう。許しは与えられないからさ。

 せめて贖罪の道を歩むと言うのならば、正義の味方として寄り添い続ける。悪逆を歩んだ彼女を認める。騎士としてなんて距離を置かないでほしい。
 
 好きなんだ。君といたいんだ。モードレッドじゃなきゃ嫌だから。
「俺は、俺だけは味方になるから」
 全てを敵に回してでも、不義の子を許したいと思えた。

「多くの者達を犠牲にして生き残った想いは、誰よりも知っている」
 続く言葉は己にすら向けたモノ。置き去りにしてきた全部に対して、他ならぬ士郎が言葉を紡ぐ。

「もう自分を許してやってくれ。――共に幸せになろう」
「し、ろう…」
 胸に宿す憎悪はなく。憤怒の想いも吸い取られたみたいだ。
 
 白銀の剣が地面へと落ちた。双剣はとっくに解かれている。
「シロウ、シロウ…!」
「ああ。ここにいるよ」

 剣を握る力はなかった。ただ目の前の士郎しか見えなかった。それだけで良いと。それだけでいいんだ。

「帰ろう。今日の夜はハンバーグを作るからさ。好きだろう?」
「それなら、仕方ありませんね…」
 微笑み闇夜が晴れそうな幸せを乗せても――現実はいつだって追いついてくる。

「は~い♪ ハッピーエンドも良いけれど~」
 姿を現したキャスターが、一瞬で雰囲気を変貌させた。纏わり付く泥の様な雰囲気。蠱惑的な香りを広げながら、魔女は静かに見定める。

「簡単に逃がすと思われては困るな」
 三身の在り方は戦乙女へと変貌している。遊びはない。戦いの予兆を酷く感じられた。

 どうやら、キャスターの戦闘の準備は万全と見える。
 幸いな事に、モードレッドを操る仕掛けはないらしい。憎悪と憤怒を呼び起こしただけか。何故だろう? 理由を探る余裕はない。

「対魔力はなく。契約もまだ切れている。さて、私に抗えるか?」
 それでも受肉した影響か。セイバークラスの特性が消えている。純粋にモードレッドとしての力が残っていた。

「私は真っ当な英霊ではない。貴様の力量では勝てんぞ」
 反英雄として、正規の英雄に抗う力。高ランクの直感。竜の因子から成される魔力放出だけだ。対魔力と騎乗は消えている。
 キャスターを相手取るには、致命的な欠落であった。

「体も重たいのだろう? 憤怒と憎悪は肉体を消耗させている」
 そうして肉体の疲労も重たい。憤怒に抗い続けて消耗が激しく。士郎も既に限界が近い。
「詰みだ。さあ、小僧も我が糧に加えてやろう」
 
 楽しそうに笑うキャスターの姿は、まさしく目的を達成する為だけにある。魔女の姿だ。妖姫がこうまで士郎の行動を許したのは、モードレッドを縛るのが目的だったらしい。
「絆、愛情。それらは容易く壁を越えさせる」

「だからシロウを縛ろうって? 舐めるなよババア」
「俺もまだ戦えるぞ」
 力を振り絞って、モードレッドが剣を取った。士郎は双剣を投影する。
「くはっ! 我が魔術に抗えると思うか」

 キャスターが愛おしそうに笑っている。どこか、子を見守る母の様な顔だった。気のせいだろうか? 
 状況は絶望的だ。二人は既に満身創痍で、アーチャーの援護も感じられない。凜だって助けられていない。

 別の拠点があったのだろうか? ここに凜の気配はなかった。目的も達成出来ず。ただ逃げる必要のある場面だ。

 その場へ。
「どうやら間に合ったようですね」
 ――降り立つ天馬の嘶き。刃を交えた敵、騎兵の英霊がマスターと共に現れていた。
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